
こんにちは。元グラフィックデザイナーで、現在はブランディング専門家として活動している松下一功です。
前回は、モノづくりのポリシーはそのままに、商品を変えることで、突然やってきたフィルム不況を乗り越えた富士フイルムをブランディングの視点から解説しました。そして、このリブランディング方法を「トランスフォームブランディング」と名付け、今、世界を襲っている新型コロナウイルス不況に打ち勝つには必要な考え方であることまで、お伝えしました。
今回は、私が提唱しているトランスフォームブランディングがどういうものなのかについてご説明します。
「世界のトヨタ」も変革に成功した企業
そもそも、私たちブランディングの専門家は、ブランドの価値は商品にあると思っていません。ブランドとは、その会社が創立当初から持っている事業への想いだったり、培ってきた能力だったりします。
たとえば、みなさんがご存じのトヨタ自動車は、もとは機織り機のメーカーでした。この機織り機開発の発端は、トヨタグループの創業者である豊田佐吉氏が、母親の機織り仕事をもっと楽に効率よくできないものかと考えたことにあります。そこから、佐吉氏は機織り機の改良を重ね、豊田式織機株式会社(現・豊和工業)などを設立しました。
当時の機織り機は最先端技術をフル活用した精密機械でした。蒸気機関でつくった原動力を何十機もの機織り機に分配して、自動で均一の品質を保った布を織っていくのです。その技術力は並大抵のものではありません。それを生かして新たに挑戦したのが、今のトヨタの代名詞となっている「自動車」です。
佐吉氏から続く「使う人がより使いやすくなるように」という想いこそが、トヨタのブランドであり、その上で、自分たちの力を信じて新たな分野に挑戦したからこそ、日本を代表する世界的ブランドに成長することができたのです。
まさに、トヨタはメイン事業を機織り機から自動車へ変更して、トランスフォームブランディングに成功した企業と言えるでしょう。
トランスフォームブランディングを実行する方法
では、実際にトランスフォームブランディングを行うにはどうすればいいのでしょうか?
実は、この質問に対する答えは、前回ご説明した富士フイルムの話の中で、すでに触れています。フィルム不況が訪れたとき、富士フイルムは保有していた2000ものフィルム用化学物質の技術力を分解・再構築して、化粧品・医療・LCD・半導体・ITなどの新事業設立に至りました。
そう、トランスフォームブランディングとは、自分たちの「強みを分解」して、「再構築」することなのです。
理屈はわかったけど具体的な想像ができないという方のために、あくまでも一例ですが、私が考えた具体的な例をいくつかご紹介しましょう。
まずは、日々の売り上げが大きく経営を左右する飲食業です。飲食店の強みは、「食材」「レシピ」「店員さんの接客スキル・愛嬌」の3つに分けられると考えます。そして、自粛期間が長くなり、オンラインの生活に慣れつつある今、営業活動する場は「オンライン」に移り変わることを前提とします。