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武田薬品、代名詞「アリナミン」を手放す理由…巨額の有利子負債問題、売却先選び混迷

文=編集部
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武田薬品工業「アリナミンV」(サイト「Amazon」より)

 武田薬品工業が栄養ドリンク「アリナミンV」などを販売する大衆薬子会社、武田コンシューマーヘルスケア(武田CH、東京)を売却する方針を固め、金融機関と売却先の選定に入った。売却額は3000億~4000億円前後になりそうだ。

 武田薬品はアイルランドの製薬大手シャイアーを買収したことに伴い急増した有利子負債を圧縮し、抗がん剤など医療用医薬品分野の新薬開発に経営資源を集中する。売却先の候補は大衆薬最大手の大正製薬が有力視されている。ただ、新型コロナウイルスの影響で景気や市況の先行きに暗雲がたれ込めており、売却交渉がスムーズに進むかどうか不透明だ。

武田は「アリナミン王国」だった

 大衆薬とは、医師の処方箋なしでドラッグストアや街の薬局で購入できる市販の医薬品のことである。武田CHは2016年4月、武田薬品の大衆薬事業を分社化して設立され、翌17年4月に事業を開始した。アリナミンや風邪薬「ベンザブロック」などが有名だ。

 アリナミンシリーズは武田薬品の看板商品。現在の売上高では、ほんの一部にすぎないが、多くの日本人にとってアリナミンは武田の顏である。戦時中から38年にわたって社長・会長を務めた六代目武田長兵衛は、1954年、日本初のビタミンB1製剤アリナミンでタケダの社名を全国区にした。60年代には全利益の半分をアリナミンが稼ぎ出し「アリナミン王国」を築いた。87年、ドリンク剤「アリナミンV」を発売し、これもヒット商品になった。

 武田薬品の飛躍の一丁目一番地ともいえるアリナミンを売却することが正式に発表されれば、創業家やOBなどの強い反発が予想される。

武田CH社長は外資系製薬会社からのスカウト組

 武田CHを分社化した前後から、「いずれ売却するつもりだろう」との観測が医薬品業界の間で広がった。武田CHの初代社長には武田の生え抜きでヘルスケアカンパニープレジデントだった杉本雅史氏が就いた。業界団体の日本OTC医薬品協会長も兼ねた杉本社長は「アジアのリーディングカンパニーになる」と意欲満々だった。ところが、2018年3月、取締役、協会長の任期を残して突然、社長を辞任。業界内に衝撃が走った。

 表向きの理由は「事業開始から1年を区切りとした」だが、それを信じる向きはいなかった。武田CHの方向性、経営のカジ取りをめぐって親会社と激突したといわれた。武田を去った杉本氏は、19年1月、ロート製薬に三顧の礼で迎えられ、6月に社長となる。日本の大企業で、国内のライバル企業で社長だった人物をスカウトし、社長に登用することは極めて珍しい。創業120周年のロート製薬で初となる外部出身の経営トップである。

 一方、武田CHは武田薬品経営企画部長・社長室長を兼務していた福富康浩氏が、暫定的に社長になったが、18年3月末からは事実上、社長は空席となった。18年9月、野上麻理氏が武田CHの社長の椅子に座った。大阪外国語大学(現・大阪大学)英語学科卒。P&Gジャパンに入社。マックスファクタージャパンプレジデント、P&Gヴァイスプレジデントを経て12年、英アストラゼネカに転職。14年から執行役員。日本法人の呼吸器事業部本部長だった野上氏をヘッドハンティングした。2児の母でもある。

 武田薬品がクリストフ・ウェバー社長体制になったのは14年6月だ。「野上氏の起用はタケダが外資系企業になった証拠」といわれた。野上社長は「売却へのロードマップをつくる」とみられていた。

武田CHを売らなければならない切実な事情

 武田薬品には武田CHを売らなければならない切実な事情がある。19年4月、アイルランドの製薬大手シャイアーの買収を完了。買収額は日本企業として過去最高の460億ポンド。最終的には円高の影響もあり日本円で6兆1984億円となった。有利子負債は19年12月末時点で5兆円超に膨らんだ。債務圧縮のため最大100億ドル(約1兆1000億円)規模で非中核事業を売却する方針を打ち出した。

「売り上げの25%を占めるノンコア資産はすべて売却候補」とウェバー社長自身が再三言ってきた。消化器系、がん、中枢神経系、希少疾患、血漿分画製剤の重点領域以外の医薬品はもちろん、大衆薬もこのノンコアの範疇に入る。

 19年5月、眼科用治療薬「シードラ」をスイスのノバルティスに最大53億円(約5800億円)で売却すると発表した。今年4月には欧州の医薬品事業の一部をデンマークのオリファームに最大6億7000万ドル(約720億円)で売却すると公表した。シャイアー買収後の売却は5件、計76億ドル(約8200億円、発表ベース)まで進んだ。

武田CHは大衆薬業界で4位

 武田CHの19年3月期の売上高は641億円、営業利益129億円。18年3月期(売上785億円、営業利益212億円)から大幅な減収・減益となった。人口減を背景に国内の大衆薬市場が伸び悩んでいることが減収減益の最大の要因だ。

 大衆薬業界は栄養ドリンク「リポビタンD」や風邪薬「パブロン」を持つ大正製薬を傘下にもつ大正製薬ホールディングス(HD)の売上高が2905億円(20年3月期見込み)でトップ。2位は目薬が主力のロート製薬の1840億円(同)だ。

 第一三共の大衆薬子会社第一三共ヘルスケアの20年3月期の売上高は685億円。21年3月期は740億円の見込みだ。武田CHは発足当初、年商1000億円を目標にしていたが、年々、売り上げを落とし4位にとどまる。

隠れ本命がロートの根拠

 武田CHはどこへ行くのか。大衆薬王者の大正製薬HDが最有力と取り沙汰されている。M&Aには積極的で、19年7月に米ブリストル・マイヤーズスクイブの欧州子会社で大衆医薬品を手掛けるUPSAの買収を完了した。買収には過去最大の1820億円を投じた。19年6月にも持ち分法適用会社のベトナムの製薬会社、ハウザン製薬の出資を50%強に引き上げて、子会社にしている。

 大衆薬の総合デパートの大正製薬が、同タイプの武田CHを丸ごと買う利点は乏しい。4000億円で武田CHを買うとすれば重い資金負担がのしかかる。大正製薬は成長余地の小さい国内より、海外でのM&Aに期待をかけている。

 大正製薬が降りたらどうなるのか。ロート製薬やライオンの名前が挙がる。注目はロート製薬だ。主力の目薬では1500円という高価格帯の「Vロート」、スキンケア製品では「肌ラボ」シリーズなどヒット商品が相次ぎ、「肌ラボ」や高級目薬はインバウンド(訪日外国人)に人気の代表的銘柄となった。ロートは18年6月、塩野義製薬の大衆薬子会社シオノギヘルスケアに15%出資した。シオノギヘルスケアは痛み止めの「セデス」やビタミン剤の「ポポンS」など一般医薬品を扱う。

 武田CHが持つ、幅広い大衆薬のラインナップをロートが手に入れれば、ドラッグストアなど主要販売先との関係強化につながるとの読みもある。首位の大正製薬HDに迫ることができるわけで、ロートにとっては魅力的なM&A案件だろう。

 なによりも、昨年6月に武田薬品の大衆薬事業を長年統括し、武田CH社長を務めた杉本雅史氏を社長に迎えた。杉本氏の起用は、「武田CHのM&Aに乗り出す布石」(関係者)と取り沙汰された。杉本氏はCHの幹部の人脈から商品群まで熟知しているとされる。

 武田薬品はフィナンシャルアドバイザー(FA)として野村證券を起用。複数の買い手候補に打診を始めた。一次入札の締め切りは大型連休明けになる見込み。勝ち残るのは、下馬評にのぼる国内勢か。それとも外資系のファンドか。外資系ファンドの入札金額を見れば本気度がわかる。

(文=編集部)

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