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木村貴「陰謀論のリアル」

米国政府、暴かれた人体実験…黒人に梅毒感染させ経過観察、薬物投与し洗脳実験

文=木村貴/経済ジャーナリスト
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トランプ大統領アジア歴訪 北京で歓迎式典(写真:AFP/アフロ)

 新型コロナウイルスの世界的な感染拡大をめぐり、米国が中国政府に対する非難を強めている。

 トランプ米大統領は4月18日の記者会見で、「パンデミック(世界的な大流行)が始まる前に、中国国内で食い止められた可能性もあったが、実際はそうならなかった」「そのせいで今や世界中が苦しんでいる」と中国を批判。「過失なら、過失は過失だ」「しかし中国に故意の責任がある場合、報いを受けるべきだ」と述べた。

 米国内では感染拡大に伴い、アジア人を標的とする差別や嫌がらせが増加。ネット上で反中国感情が急激に高まり、新型ウイルスは中国政府が湖北省武漢市の研究所で開発した生物兵器だとする説まで広がっている。

 中国政府に、初動対応で不都合な情報を隠蔽した事実があったのは間違いない。自身も新型肺炎の犠牲になった武漢の医師が昨年末、原因不明の肺炎についてSNS(交流サイト)で警告を発したところ、警察に呼び出され訓戒処分を受けたのは、その最悪の例だ。

 新型ウイルスは中国の生物兵器だという説について、専門家は否定しているようだが、筆者には「絶対ありえない」とまで断定する材料はない。中国政府は人道心にあふれた立派な組織だなどと弁護するつもりは毛頭ない。

 そのうえで強調したいのは、米政府自身、長年にわたり国の資金でウイルスや化学物質を研究する過程で、過失どころか、非倫理的な人体実験により、故意に国内外の人々を殺傷したという事実である。

600人を梅毒に感染させ放置

 よく知られるのは、タスキギー梅毒実験である。米公衆衛生局が1932年から40年間にわたり、アラバマ州のタスキギーという町で、約600人の黒人を梅毒に感染させ、罹患していることを本人に明かさず、放置してその経緯を観察したというものだ。

 1972年、マスコミの暴露で中止されるまで、28人が梅毒で、100人が梅毒の合併症で死亡した。その配偶者40人にも感染が確認され、19人の子供が先天梅毒をもって生まれた。1997年、当時のクリントン大統領が被害者に対し公式に謝罪を行っている。

 米政府は梅毒の人体実験を国外でも行っていた。1940年代、中米グアテマラの刑務所や精神科病院で、受刑者や精神障害者を故意に梅毒などの性病に感染させ、83人が死亡した。実験を行なったのは、同じく米公衆衛生局の医師ら。抗生物質ペニシリンの治療効果や予防に有効かどうかなどを調べるためだったという。

無断で薬物を投与し洗脳実験

 さらに悪名高いのは、中央情報局(CIA)が1950〜60年代に実施していた洗脳実験「MKウルトラ計画」である。第2次世界大戦中に開発されたLSDなどの薬物を投与し、人の心を操るマインドコントロールを試みた。CIA職員、軍人、医師、妊婦、受刑者、精神病患者らを対象に、事前の同意なく薬物を投与していた。冷戦下で、雇った外国人工作員が二重スパイでないかを確かめるために始めたのがきっかけとされる。

 CIAが露見を恐れてほとんどの記録を破棄してしまったため、残っている証拠は断片的だが、それでもかなりの事実が明らかになっている。

 それが何であるかを知らされないままLSDを投与された囚人の1人によれば、投与の後、毎晩の悪夢と「自殺を考え、限界を超えそうな重度のうつ状態」に襲われたという。

 米化学者でCIA職員のフランク・オルソン氏は、メリーランド州の陸軍ディートリック基地内にある秘密の生物研究所で勤務していた。1953年11月、ニューヨークにあるホテルの窓から飛び降り、43歳の若さで死亡する。

 CIAは当時、家族に対し自殺か事故だと説明していた。ところが1975年の議会の調査で、オルソン氏は死の9日前、CIAによって無断でLSDを投与されていたことが明らかになる。オルソン氏は実験動物への毒物投与を監督する仕事で心を蝕まれたうえ、CIAの収容所で薬物と暴力によるすさまじい尋問を目撃し、辞めたがっていた。これがCIAから「保安上のリスク」とみなされ、LSDを盛られたとみられている(スティーブン・キンザー『CIA裏面史』<原書房>)。

米政府の生物兵器研究に忌まわしいルーツ

 米政府の生物兵器研究には、忌まわしいルーツがある。

 米陸軍は第2次世界大戦後、生物兵器研究の本拠地であるディートリック基地にナチスドイツの科学者や医師を招いた。彼らは戦時中、強制収容所で囚人に対し細菌や毒ガスによる人体実験を繰り返し、多数の人々を死に至らしめていた。本来なら戦争犯罪として処刑されるはずが、米軍が人体実験による知識を手に入れるため、科学者らに偽の経歴を与え、米国に入国させたのだ。

 米軍は同様に、満洲で囚人に残酷な生体実験を行い、多数を殺害した日本の七三一部隊に目をつけた。部隊を率いた軍医の石井四郎らに戦犯免責を与えるのと引き換えに、生体実験の記録や資料を手に入れた。七三一部隊の元隊員らは東アジアにある研究所や抑留センターに配属され、そこで米国人に協力して米国では不可能な人体実験を計画したり、実行したりした(前出『CIA裏面史』)。

 国内外の人々をウイルスや化学物質で苦しめるのは、独裁国家だけではない。自由と民主主義を掲げる米国政府も、おぞましい人体実験で人々の生命を奪い、脅かした過去がある。その危険が現在はなくなった保証はない。中国だけを危険視するのは、バランスを欠いた見方というべきだろう。

(文=木村貴/経済ジャーナリスト)

木村 貴/経済ジャーナリスト

木村 貴/経済ジャーナリスト

経済ジャーナリスト。1964年熊本生まれ、一橋大学法学部卒業。大手新聞社で証券・金融・国際経済の記者として活躍。欧州で支局長を経験。勤務のかたわら、欧米の自由主義的な経済学を学ぶ。現在は記者職を離れ、経済を中心テーマに個人で著作活動を行う。

Twitter:@libertypressjp

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