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HISの危機、海外ツアー99%減で赤字転落…店舗約3割閉鎖、ボーナス支給なし

文=編集部
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「HIS HP」より

 海外旅行大手のエイチ・アイ・エスHIS)の2019年11月~20年4月期(上半期)の最終損益は34億円の赤字(前年同期は49億円の黒字)だった。従来予想8億円の黒字から一転して赤字に転落した。上半期が最終赤字になるのは02年に上場してから初めてのことだ。

 売上高は前年同期比8.9%減の3443億円。従来予想を307億円下回った。営業損益は14億円の赤字(前年同期は89億円の黒字)と同38億円のマイナス。新型コロナの影響で世界各地で渡航制限や外出自粛により、日本人の海外ツアーが一斉に中止になった。20年2月~4月の3カ月間の旅行事業の売上高は前年同期比27%減の1242億円、営業損益は40億円の赤字(前年同期は21億円の黒字)となった。

 テーマパーク子会社のハウステンボス(HTB)は2月29日~3月15日まで閉園し、翌16日から31日までは屋内施設を休園とした。HTBグループの2~4月の売上高は45.8%減の34億円、営業損益は11億円の赤字(同9億円の黒字)だ。ホテル事業も同期間、売上高は14.7%減の26億円、営業損益は8億円(同2億円の黒字)の赤字。全事業がコロナの影響をモロに被った。

 HISの創業は1980年。海外旅行ブームに乗り、格安航空券の販売を伸ばしたことが成長のきっかけとなった。その海外旅行は新型コロナの感染拡大を受け、日本人の海外旅行需要が激減。渡航制限が広がり、3月下旬には海外ツアーの催行がほとんどゼロになった。海外旅行の取扱高は3月が前年同月比73%減、4月が99%減、5月が98%減と全滅した。力を入れていた外国人観光客の訪日旅行取扱高は2月に71%減と急落。3月98%減、4月99.8%減、5月99%減とほぼ100%消滅した。

200億円の経費削減、330億円の融資枠を設定

 オンラインで開催した決算説明会で澤田秀雄会長兼社長は「海外旅行は今年いっぱい回復は難しいだろう。まずは経費節減に力を入れる」と話した。来夏をめどに国内店舗約260店のうち、3分の1に当たる80~90店を都市部を中心に閉鎖する。一般社員の夏季賞与を見送った。年間で約200億円のコストを削減する。経費以外にもホテル事業や不動産取得といった設備投資費用を90億円削減することを決めた。

 資金調達も進めており、すでに三井住友銀行など3行と計330億円のコミットメントライン(融資枠)を設定し、来年4月末まで需要減が続いても資金繰りがつく態勢を整えた。海外ツアーの催行が相次いで中止となり収入が減少しているほか、旅行の前受け金の返金が発生。4月末時点の現預金の残高は1243億円。1月末時点と比べ712億円減少した。手元資金の確保が課題となっていた。

 8月1日に予定していた持ち株会社体制への移行を2021年11月1日に延期する。新型コロナへの対応を優先しており、新体制への移行作業が遅れているためだ。正社員と契約社員の計約6000人に対し最大10万円の特別支援金をそれぞれに支給する。支給を決めた理由について、「コロナ禍のなかで顧客対応に当たる社員や、休業に応じた社員に感謝の意を示すため。また、モチベーション向上の目的もある」としている。

 3月に20年10月期通期の最終損益を11億円の赤字見通しに引き下げたが、上期に想定を超える赤字となったことを受けて、通期予想は「未定」。売上高は7750億円、営業利益は17億円と予想していたが、これらも「未定」とした。

海外旅行が全売上の63%と圧倒的

 澤田社長が見据えているのは、世界の旅行需要の取り込みだ。中国や東南アジアなどで所得が増え、海外旅行を楽しむ人が増加している。人口減少が進む日本とはまったく逆だ。海外の旅行者を取り込むために最も注力したのは、海外企業のM&A(合併・買収)だった。17年にたて続けに3件買収した。

 主に欧州からカナダを訪れる旅行者向けに現地ツアーを販売するジョンビューカナダ(カナダ)、欧州旅行に強くアジアに多くの顧客を持つグループ・ミキ・ホールディングス(香港)の買収が具体例だ。地元の情報に通じているかどうかがツアー商品の質を左右する。現地を知り尽くす企業を買収し、アジアの旅行者向けのオプショナルツアーの販売を強化することにした。

 さらにグリーンワールドホテルズ(台湾)を買収した。台北市内に16軒のホテルをもち総客室数1706室。16軒のうち1軒を、ロボットがスタッフとして働く「変なホテル」に改装した。グリーンワールドホテルズの買収を機に中国語圏へのホテル事業の進出をはかるほか、東南アジアやオセアニアなどでもホテルの展開を検討。21年度中に国内外で低料金がウリの「変なホテル」を100軒程度展開したい考えだ。

 ホテル事業を強化すべく、19年に不動産・ホテル業のユニゾホールディングスのTOB(株式公開買い付け)を仕掛けた。これは不成立に終わり買収を断念した。

 海外の旅行・ホテル会社を傘下に収めた結果、全体の売上高のうち国内旅行と訪日旅行を除いた海外旅行関連が全体に占める割合を単純計算すると、19年10月期は78%を占めた。なかでも海外旅行は63%と圧倒的だ。国内旅行は1割にも満たない。

 HISの生命線の海外旅行は、いつごろ回復するのだろうか。出入国制限の緩和に向けた動きがあるが、あくまでビジネス渡航の話だ。HISが期待する観光旅行の解禁はもっと先になる。国際航空運送協会は「世界の国際線の旅客需要が回復するのは24年までかかる」と予測している。

 海外事業の不振が業績を直撃するのはこれからだ。20年10月期決算が歴史的な落ち込みを記録するのは避けられないだろう。財務内容の改善のために、保有する海外子会社の株式の売却に動くことになるかもしれない。HISのM&A戦略は、買収から売却へ180度変更されることになるかもしれない。

BusinessJournal編集部

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