フジテレビの劣化が止まらない。
フジテレビは2018年以降、報道番組でたび重なる誤報により、局として謝罪するケースが相次ぐという異常事態に陥っている。フジテレビの報道といえば、NHKに次ぐ予算力を誇るといわれ、事件現場では人海戦術でしらみつぶしに当たることで知られるなど、強い存在感を放っていた時代があった。
ところが、今のフジテレビの報道姿勢には同業他社も眉をひそめるほど劣化が目立つという。キー局記者が語る。
「フジテレビは大きな事件になると、有無をいわせないほどの人数を現場に入れて、とにかく関係者に当たりまくるというスタンスでした。ほかの民放局が3~4人のクルーで訪れる現場に、フジはその3~4倍の人員を割いていて、正直予算があってうらやましいなと思っていました。
フジはもともと、番組づけの取材班の質が低いのは定説となっていますが、ここ2~3年の間に警視庁担当や政治部などもヒドイ状態になっていました。警視庁も『最近のフジさんは……』と嘆く幹部がいるくらいですから。被害現場の近隣住民や、事件・事故の遺族などに対しても、22時以降の深夜でも平気でインターホンを押して報道陣全般がひんしゅくを買う事態を招くなど、やりたい放題。
昨年の京都アニメーション放火殺人事件でも、本来、報道ではタブーとなっている防犯カメラ映像を入手するために謝礼を提示したうえ、同業他社に渡さないようにするなど、まさにルール無視の取材姿勢です。テレビだけではなく、新聞や他メディアからも“ひどすぎる”と煙たがられています。誤報だけではなく、いずれ何か大きな事故を起こすのではないかと、ひやひやしています」
そんな体制が長年続いたこともあり、局内には“スクープ至上主義”が定着していったという。だが、フジテレビのある報道番組のディレクターは「肝心の人材が不足しており、現場には限界が来ている」と話す。
「今は番組だけではなく、社会部でも外部記者が占める割合が高くなっています。それでも警視庁担当は、さすがに社員が担当していましたが、現在は半分近くが外部や契約スタッフになっています。他社ではそこまでの配置はありえませんからね。ミスや誤報も結局、社員以外から起こることが多いんです。上の“数打てば当たる”という考えもあり、慢性的な人材不足で、報道現場では何より重要な“裏取り”を完璧に行うことも難しい状況になっています。
昔は『直撃LIVE グッディ!』と『情報プレゼンター とくダネ!』が競い合ったり、局内でもよい緊張感がありましたが、今はまともな報道番組は『Live News イット!』くらい。コロナで制作費が減っており、報道番組の予算も目に見えて減っています。上層部も報道で勝負するつもりはないようで、それが今の体制や編成にも明確に表れていますね」
フジテレビ、報道全体の質が劣化するワケ
人材不足が叫ばれるなか、独自スクープを打てる余力はあるのか。そこでフジテレビは、「お金」というエサをチラつかせて現場をコントロールし、人海戦術でスクープを獲得しようとしているという。先でのディレクターが続ける。
「会社としては、とにかく【独自】の文字を打てる映像を撮ってこい、との指示を現場に出しています。実際、外部や契約スタッフが“独自”ネタを取ってきたら報奨金が出ます。決して大きな額ではないのですが、社員でない彼らからすると馬鹿にできない金額でしょう。社員登用と金銭という人参をぶら下げることで、安く使える外部スタッフのモチベーションを無理やり上げようとしているのです。
その半面、独自を狙いすぎるあまり、それぞれの担当という持ち場も疎かになり、不確かなネタや真偽が怪しい情報などの判別の水準が落ちているのです。その独自ネタに関しても、結局は週刊誌やネットニュースの内容を後追い取材したものを、それっぽく出しているだけですから。つまり、報道全体の質の劣化ということにつながっています」
実際に、報道、教育・教養分野の番組の視聴率各トップ10を見ると、かろうじて『Mr.サンデー』が10位にラインクインしているだけで、他社に大きな差をつけられている。現在、テレビマンが最重要視している「個人視聴率」でも同様に苦戦が目立つ(数字は11月最終週:ビデオリサーチ調べ)。
フジテレビお家芸のドラマも低調で、もともと強みであったスポーツ部門でも低迷が目立つ。バラエティもランキング入り番組なしと、悲惨な状況だ。唯一、『鬼滅の刃』特需を受けてアニメ部門は好調だ。
コロナ特需ともいえる現在のテレビ業界において、各局が潤う中でフジテレビが置かれた状況は厳しい。今後の展望について、先出社員はこう話す。
「今年頭から個人視聴率を狙えとの大号令があり、現場的には『どうしたら伸ばせるか』と手探りの状況でいろいろやってきました。今はコロナ関連の内容を出しておけば最低限の数字は確保できますが、怖いのはコロナ収束後です。上層部の指令で予算減、人員減が加速するなかで、とてもじゃないですが質の高い番組づくりをできるとは思えません」
かつて“テレビ界の雄”と謳われたフジテレビが、栄光の姿を取り戻す日はまだまだ遠そうだ。
(文=編集部)