「還付金が受けられる」などと告げて口座情報を聞き出す“還付金詐欺”、「未払い金があるので至急振り込んでほしい」などと架空の債務によってお金を振り込ませる“振り込め詐欺”など、お年寄りを食い物にする特殊詐欺は、手口を多様化しつつ、毎年多くの被害を出している。警察庁がまとめた2019年の特殊詐欺の認知件数は、前年比5.6%(1008件)減の1万6836件、被害額は同21.3%(81億4000万円)減の301億5000万円だった。
兵庫県宝塚市の中川智子市長も、被害に遭いかけたと同市の広報誌12月号で明かし、市民に注意喚起をしている。市長は10月下旬、携帯電話に「利用料が未納なので電話をください」というショートメール届いたことから電話をかけると「29万円をすぐに振り込まないと、大変なことになる」などと督促を受けたという。「別の人に代わる」と告げると電話が切れたものの、危うく騙されるところだったと述懐している。そのうえで、「市役所から医療費の還付金などでいきなり電話をすることはない。気をつけてほしい」と注意を促した。
そんななか、埼玉県警の発信したツイートが話題になっている。
「【特殊詐欺情報】 本日(11月28日(土))、鴻巣市で、市役所職員を装う者から『敬老祝い金があります。銀行の口座番号を教えて下さい。』等の詐欺電話が確認されています。 被害に遭わないために、留守番電話に設定するなどし、不審な電話に出ない対策をしましょう」
【特殊詐欺情報】
— 埼玉県警察犯罪情報官 (@spp_jyouhoukan) November 28, 2020
本日(11月28日(土))、鴻巣市で、市役所職員を装う者から「敬老祝い金があります。銀行の口座番号を教えて下さい。」等の詐欺電話が確認されています。
被害に遭わないために、留守番電話に設定するなどし、不審な電話に出ない対策をしましょう。#埼玉県警 pic.twitter.com/e2GNkDKdxg
11月28日、特殊詐欺とみられる電話が埼玉・鴻巣市内で確認された、と注意を促す内容だ。だが、それから1時間もしないうちに、次のようなツイートを発した。
「【特殊詐欺情報~解決】 本日(11月28日(土))、鴻巣市で、市役所職員を装う者から『敬老祝い金があります。』等の詐欺電話が確認されていますとお知らせしましたが、詐欺電話ではなく、実際に市役所職員が該当者に対して電話連絡していることがわかりました。ご協力ありがとうございました」
【特殊詐欺情報~解決】
— 埼玉県警察犯罪情報官 (@spp_jyouhoukan) November 28, 2020
本日(11月28日(土))、鴻巣市で、市役所職員を装う者から「敬老祝い金があります。」等の詐欺電話が確認されていますとお知らせしましたが、詐欺電話ではなく、実際に市役所職員が該当者に対して電話連絡していることがわかりました。ご協力ありがとうございました。#埼玉県警
先のツイートで注意を促した電話は、特殊詐欺ではなく本物の市役所からのものだったというのだ。市役所から土曜日に、銀行口座番号を聞く電話がかかってきたということで詐欺と勘違いしたようだが、実際の顛末を鴻巣市役所・福祉課に問い合わせてみた。
勘違いはなぜ起きたのか
–敬老のお祝い金を振り込むために、銀行口座番号を問い合わせる電話をかけたというのは事実なのでしょうか。
福祉課担当者「順を追って説明しますと、敬老のお祝い金は本来、直接該当者のご自宅までお届けにあがっています。それが新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、銀行振り込みとなりました。そこで、お祝い金を贈呈する該当者には『口座振替依頼書』をお送りし、それに口座情報を記入して返送していただき、振り込むという流れです。
今回話題になった件については、7月に通知をして返送いただいた『口座振替依頼書』に記載されていたのが“ゆうちょ銀行”だったので、店名について確認のために電話したのですが、先方がそのことを失念されていたということで、詐欺と勘違いされてしまったわけです」
–(本来、市役所の業務が休みのはずの)土曜日に電話があったということも、詐欺と勘違いされる要因になった可能性があります。土曜日に電話をかけることは、よくあるのでしょうか。
福祉課担当者「電話をかけるのは基本的には平日の日中で、返送いただく書類にも『日中に連絡が取れる電話番号』を記載していただいています。本件の方の場合も、平日に何度か電話したのですが、つながらなかったため、土曜日にかけることになりました」
つまり、口座情報を書面で送ってもらったものの、記載漏れがあり、一部確認のために電話をしたが、相手がそのやり取りを失念していたために詐欺と勘違いされたということだ。高齢の方が相手ということもあり、仕方のない面もあるだろう。
鴻巣市役所としては、期限までに返送がない方などに確認をする際についても、今後は郵送で行うことを検討しているという。ただし、利便性などを考慮すると、電話での問い合わせが一切なくなるとはいえないとして、対応に頭を悩ませている様子がうかがえる。
今回は「勘違いでした」と笑い話で済ませられるが、実際に詐欺に遭えば笑いごとではない。銀行口座を聞かれる電話があった場合には、詐欺の可能性を疑うくらいがちょうどよいのかもしれない。
(文=編集部)