世界で新型コロナウイルスのワクチン接種が始まっている。年初における各国の人口当たりの接種率を見てみると、世界で最初にワクチンの承認を行った英国は1.6%、英国に次いでワクチンの承認を行った米国は1.3%となっているが、世界で最も接種率が高いのはイスラエル(11.6%)である。これに対し、日本でのワクチン接種開始の目標は最短で2月下旬だとされている。
世界各国で新型コロナウイルスの感染拡大が続くなか、英国の医療調査会社「エアフィニティー」は昨年12月上旬、国民の多くがワクチンを接種することで感染拡大を抑える「集団免疫」を獲得し、社会が日常に戻る時期を予測した。それによれば、米国は今年4月、英国は今年7月、EU各国は今年9月であるのに対し、日本は来年4月と先進国の中で最も遅い結果となっている。感染者数、死者数ともに、欧米諸国に比べて格段に少ない日本だが、ワクチン接種に遅れをとっていることが災いしたかたちとなっている。
このような懸念が影響しているのだろうか、昨年11月以降、中国で製造したとされる新型コロナウイルス感染症の未承認のワクチンが日本国内に持ち込まれ、日本を代表する企業の経営者など一部の富裕層(計18人)が接種を受けていることが明らかになっている(1月1日付毎日新聞)。このワクチンは、中国共産党幹部に近い中国人コンサルタントが持ち込んでおり、東京都内のクリニックで日本人医師が接種しているという。「自国のワクチンをテコに中国政府が日本に対する影響力拡大を狙っている」との指摘もある。
シノファーム製ワクチン
日本に持ち込まれているワクチンは、中国の製薬会社「中国医薬集団(シノファーム)」が製造したものといわれている。シノファーム製ワクチンは昨年夏以降、中国国内で緊急投与として医療従事者ら約300万人に投与されてきたが、中国の国家薬品監督管理局が正式な承認を行ったのは昨年12月31日である。このワクチンの有効性に関する詳細なデータは公表されていないが、シノファームは12月30日「暫定的なデータとして79.34%の有効性がある」と発表している。
欧米で最初に承認されたワクチンが「新型コロナウイルスのタンパク質の一部を発現するメッセンジャーRNA(核酸)を体内に投与する」というまったく新しいタイプであるのに対し、シノファームが開発したワクチンは「ウイルスを熱や化学物質で不活化(殺して毒性をなくす)して体内に投与する」という従来のワクチン製造法に則ったものである。不活化ワクチンは、人での使用実績があることから相対的に安全性が高いとされる一方、有精卵を用いて大量培養するため開発に長期間を要するとされている。
前述の中国人コンサルタントは、安全性について「副反応なら安心してください。注射した部分のちょっとした筋肉痛とか、ワクチンを打ったときによくあることばかりです」と太鼓判を押しているが、はたしてそうだろうか。
中国では多くの人々がワクチン接種の臨床試験に参加しているが、「接種後に深刻な副反応に苦しみ、病院で治療を受けている」との噂が後を絶たない。ワクチン接種後の副反応で最も懸念されているのは「ADE(抗体依存性感染増強現象)」である。ワクチン接種によりつくられた抗体がウイルスの細胞への侵入を防ぐのではなく、逆に細胞への侵入を助長する現象のことである。ADEが生じれば重症化するリスクが高くなる。
新型コロナウイルスと遺伝子情報がほぼ同じであるSARSウイルスの不活化ワクチン開発の際にADEが生じたことから、「新型コロナウイルスの不活化ワクチンでも同様の問題が起きる」ことを懸念する専門家は少なくない。
昨年11月と12月の2回にわたり妻とともに中国産ワクチンを接種した金融機関の代表は前出毎日新聞のインタビューに対して「新型コロナウイルスに感染したら自己管理の甘さを示すことになり、企業経営者としては到底許されない。自分の順番がいつ来るかわからないことから、法に違反するかもしれないが、ワクチンを接種することにした」とその理由を述べたが、新型コロナウイルスワクチンは「重症化防止」には効果があっても、「感染防止」にはつながらないとの見解が一般的である。中国産ワクチンの接種は、「感染防止」に役立たないばかりか、ADEのリスクに曝されるという極めて危険なものであり、「百害あって一利なし」である。
日本、ワクチンに対する懐疑的な感情
毎日新聞は「中国産ワクチンを他の人に販売・譲渡する目的で日本に無許可搬入する行為は『医薬品医療機器法』違反の可能性がある」と指摘しているが、世界各国の政府が新型コロナウイルスワクチンの承認や広範な接種に乗り出していることを背景に、各国の警察機関によって組織されている国際刑事警察機構(ICPO)は12月上旬に「オンラインと実世界の両方で、新型コロナウイルスワクチンに関連した犯罪活動が多発する恐れがある」と警告を発している。
本事案について厚生労働省の関係者は「未承認ワクチンであっても、医師が『自由診療(公的医療保険が適用されない診療)』で接種することは法的に可能である」とした上で「医師の管理もなく、本当かどうかわからないワクチンを接種することはとても危険である」と懸念を示している。
日本国内では過去の薬害や副反応に対する扇情的な報道などの影響でワクチンに対する懐疑的な感情が根強いことから、その接種が他の先進国に大きく後れを取るとの見方が広がっている(2020年12月23日付ブルームバーグ)。政府は、中国産ワクチンが国内に流通している事実を把握するとともに、その危険性を広く国民に周知することが喫緊の課題ではないだろうか。
(文=藤和彦/経済産業研究所上席研究員)