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郵政民営化、幻想崩れる…かんぽ生命・ゆうちょ銀行、遠のく民営化、政府の経営関与深く

文=編集部
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JPタワー(「Wikipedia」より

 かんぽ生命保険の不適切契約問題で、日本郵政グループの前経営陣は総退陣した。増田寛也・元総務相が社長に就任して再出発した日本郵政は1月6日から2年目に入ったが、初っ端から躓いた。かんぽ生命の自社株買いが見送りになったからだ。

 日本郵政グループは2019年夏、郵便局で扱ったかんぽ生命の保険商品で不正販売が多数発覚。外部の弁護士による特別調査委員会が20年3月に公表した報告書は「市場のニーズに対応した商品開発を行うなど、時代や環境の変化に対応できるビジネスモデルへの転換を図ること」を提言した。

 この提言を受け日本郵政は20年11月13日、中期経営計画を発表。このなかで「郵政民営化法に基づき、金融2社(ゆうちょ銀行、かんぽ生命保険)の株式はその全部を処分することを目指し、できる限り早期に処分する」とした。「金融2社の経営状況、日本郵政および日本郵便のユニバーサルサービス確保の責務の履行への影響などを勘案しつつ」と断っているが、基本は早期に処分である。

「日本郵政が保有するゆうちょ銀、かんぽ生命の株式について保有割合を50%程度とし、新規業務の事前届け出制への移行を目指す。引き続き、株主に対する利益の還元を経営上の重要な施策のひとつとして位置付ける」と明記した。

 持ち株会社である日本郵政は現在、議決権ベースでゆうちょ銀行に89%、かんぽ生命に64%出資している。郵政民営化法の規定で出資比率が5割を下回らない限り、2社は新規事業を行うにあたって国の認可が必要になる。中計計画の期間内に株式の売却を進め、経営の自由度を高める。

 ブルームバーグは先月16日、「かんぽ生命は、早ければ月内に開く取締役会で自社株買いを決議する方向で調整に入った」と複数の関係者の話として伝えた。自社株買いの規模は3000億円程度。持ち株会社の日本郵政が持ち株を一定程度売却する。これにより郵政の出資比率を現在の64%から50%を切る水準に引き下げる、というシナリオだった。

 自社株買いによって、かんぽ生命の経営の健全性を示すソルベンシー・マージン比率(不測のリスクに備えた支払い余力)は低下するが、年明けの1月に一部を資本として認められる劣後債を1000億円規模で発行して、経営の健全性を担保することにしていた。だが、12月23日に開催した取締役会で自社株買いの決議を見送った。日本郵政の増田社長は25日午後の定例会見で、かんぽ生命の自社株買いについて問われ、「決定した場合は速やかに公表する」と述べるにとどめた。

 自社株買いが市場に伝わると、かんぽ生命の株価は急騰し、見送りの観測が出たとたんに急落した。株価の推移を見ておこう。ブルームバーグが自社株買い計画を報じた翌12月17日の株価は取引開始直後から取引高が急増し、一時、先日比228円(12.0%)高の2119円と19年6月11日以来の高値を付けた。その日の売買高は前日比6.9倍の720万株に膨らんだ。自社株買いの早期実施に対する期待が剥げ落ちると失望売りが広がり、株価は反落した。

日本郵政、かんぽ生命、ゆうちょ銀行の民営化は先送りされる

 政府は20年3月3日、保有する日本郵政株と東京メトロ株の売却期限を27年度まで5年延長することを決めた。復興財源確保法で両社株の売却収入は22年度までに東日本大震災の復興財源に充てるよう定められている。

 日本郵政株については、郵政民営化法の定める下限の「3分の1超」にまで出資比率を下げる予定で、一連の売却により総額4兆円を調達する方針。すでに第2次売却までに約2.8兆円を確保した。

 日本郵政グループを取り巻く経営環境は厳しさを増している。かんぽ生命の不祥事をきっかけに株価は大きく下落した。かんぽ生命株は20年3月23日、上場来安値の1137円を記録。個人投資家は大きな含み損を抱える事態となった。こんななかで日本郵政がかんぽ生命株を大量に売却すれば、株価は一段と落ち込む懸念がある。だから、大規模な売り出しは難しい。そこで、3000億円の自社株買いを計画したわけだが、こちらも当面、見送りとなった。

 日本郵政グループの金融2社には、民業圧迫を回避するため郵政民営化法により民間銀行や保険会社よりも厳しく業務を規制する「上乗せ規制」が課せられている。郵政民営化が遅れることにより、政府が深く関与する体制が長引くことになる。この結果、日本郵政、かんぽ生命、ゆうちょ銀行は自立と成長がさらに遅れる。

 そもそも、半官半民の郵政グループの経営の自由度が増すと考えること自体が幻想でしかないのかもしれない。

(文=編集部)

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