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たかぎこういち「“イケてる大先輩”が一刀両断」

平均年収300万円で“使い捨て”だったアパレル販売員、激変…一人で月数千万円売り上げも

文=たかぎこういち/タカギ&アソシエイツ代表、東京モード学園講師
平均年収300万円で“使い捨て”だったアパレル販売員、激変…一人で月数千万円売り上げもの画像1
「Getty images」より

 アパレル業界では2019年までは、労働人口の減少、若者の就業意識の変化などによる「恒常的な人材不足」が課題となっていた。しかし2020年のコロナ禍がもたらしたニューノーマルにより、アパレル業界の雇用状況は激変。上場アパレル企業を筆頭に業界で始まっていた不採算店舗の閉鎖を含む事業規模の最適化が進められた。

 2019年秋の消費増税、暖冬の消費減に加え、2020年春には予想外のコロナ禍で一気に従来の雇用環境に大変化が起きた。従来、百貨店卸を中心とするアパレルメーカーは、過去の成功体験から商品開発・製造に偏り、店舖での販売を軽視する傾向があった。組織的な販売戦略を軽視し、販売員個人の能力に依存し、誤解を恐れずにいえば“人員を使い捨ててきた”という歴史がある。本社勤務の社員は正社員中心の一方、販売現場は販売代行業者や1年単位の契約社員が中心であった。

 今回は、コロナ禍以降のアパレル業界の雇用環境を多角的に検証してみたい。

1.コロナ禍が激変させた売り手市場

 いくつかの視点で雇用状況を検証してみよう。最も比較しやすいのが新卒採用である。コロナ禍による店舗閉鎖、社内での早期希望退職者の募集と業界全体での就業者数減少が進むなか、新卒募集現状はどうであろうか。

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『アパレルは死んだのか』(たかぎこういち/総合法令出版)

 2020年4月、アパレル業界の大手就職サイトでは、説明会の参加募集が大幅に減少した。その後も採用凍結や採用中止も続出し、売り手市場が一気に買い手市場へと変化するかに見えた。政府発表でも、大学生の2020年10月1日時点での就職内定率は69.8%と前年同期比で7ポイント減。2008年のリーマンショックに次ぐ下落幅となった。服飾系学校では、大学同様、今年は苦戦気味である。デザイナーなどの技術職の求人が最も減少。今まで募集が多かった販売職も、調整弁となり減少している。

 そのなかでもEC、デジタル系を支える人材への求人は強い。アウトドア、スポーツアパレル、リユース企業の採用意欲は依然高い。服飾系学校が輩出する人材と業界が求める人材とのミスマッチも見られるのは、今後の教育カリキュラム改善への期待に応えるべき課題のひとつであろう。いかなる業界でも変革するのは、若い力である。意欲ある若者には、いつも門戸は開かれている。

 中途採用では、どのような変化がみられるだろうか。アパレル・ファッション業界に特化している人材紹介会社クリーデンスの求人データを見てみよう。コロナ禍がいったん落ち着き出した2020年10月頃からは、中途採用が動き始めた。ここでも、顕著な変化が見られる。「MD・バイヤー」「営業・店舗開発」「店長・販売」のカテゴリーでは明確な雇用形態の見直しが進んでいる。

 13年では、これらの職種での正社員募集比率は50%弱で、契約社員が主体であった。しかし19年では、正社員募集比率が70%強となり今後も正社員採用が増加傾向にある。EC、デジタル系は右肩上がりで増加している。つまり、従来は評価が低かったデザイナー、MD、販売職が、専門職としてアパレル業界で再認識されつつある。これらの専門職で実績を持つ人材には、新しい雇用形態の選択肢が広がりつつある。

2.2020年コロナ禍で新しく誕生したSNSを駆使する次世代プロ販売員

 販売職の平均年収は、基本給が270万円から320万円程度、これに販売インセンティブが加算され460万円程度が上限となっている。

 15年、三越伊勢丹は、年間販売額が1億円を超える販売員には、将来の役員並みの待遇も検討すると発表した。都心に展開されるインポート衣料を販売するセレクトショップでも、同じく特定の顧客を持ち毎年高額な売上を維持する優秀な販売員と業務委託契約を結び、個人事業者扱いにする例もある。

 これまで“プロ販売員”として活躍するには、顧客が訪れやすい都心のロケーションで、購入平均単価が高い販売店舗であることが前提条件であった。しかし、コロナ禍以降は、SNSの活用により距離、時間、ロケーション、在庫の制約を受けない“次世代プロ販売員”が増えた。

 それは、アパレル販売の世界における革命と呼べる。19年から本格化したInstagramでのコーディネート投稿、Twitter、YouTube、TikTokなどのSNS発信が、新しい購入動機として大きく育った。インフルエンサーとしてフォローワー数も増加し続けている。また、物流の発達により、当日配達や翌日配達が一般化した。店舗の営業時間もロケーションも関係なく、ECとの融合でショッピング体験が店舗販売からさらに解放された。24時間、自宅のベッドの上からでも、お気に入りの販売員のお洒落なコーディネートを参考に、ワンクリックで自宅に商品が届くのである。

 接客も、チャットやLINEなどでリモート対面接客も可能である。デジタルネイティヴ世代は、こうした形態に不便を感じない。たとえば、コロナ禍でクローズした秋田県や大分県の店舗から、販売員がSNSを活用して、一月に数千万円単位の売上を上げるケースも生まれている。

 AIの活用などが叫ばれるなか、アパレル産業では消費者の情感や感性に訴える業務は、まだ人間にしかできない。デジタル技術の進化はビジネスに役立つであろうが、それらを活かすクリエーションやコミュニケーションは、まだ人間しかできない分野である。

3.まとめ

 アパレル業界では現在、中途採用に積極的な企業は、以下の6つの特徴を持つ。

・DX(デジタルトランスフォーメーション)に積極的な企業

・郊外店に強みを持ち、かつコストパフォーマンスが高い企業

・財務内容に投資余力がある企業

・OEM、ODM関連であってもリスク分担がなされている企業

・グローバル展開に積極的な企業

・好感度な個性を持つブランド

 つまり、これからのアパレル企業が備えなければならない複数の条件である。すべては、もちろん必要ない。しかし、今回のコロナ禍で浮き彫りになった“継続できるアパレル企業”の概略が見えたのではないだろうか。衰退産業のように報道されるアパレル産業ではあるが、過去に大きな危機を何度も乗り越えてきたように、「人を幸せにできる産業」として生き残る可能性があることを、筆者は強く信じている。

(文=たかぎこういち/タカギ&アソシエイツ代表、東京モード学園講師)

たかぎこういち/タカギ&アソシエイツ代表/東京モード学園講師

たかぎこういち/タカギ&アソシエイツ代表/東京モード学園講師

カギ&アソシエイツ 代表/スタイルアドバイザー/コンサルタント(ファッション視点からの市場創造)/東京モード学園ファッションビジネス学科講師

1952年、大阪生まれ。奈良県立大学中退。大阪で服飾雑貨卸業を起業。22歳で単身渡欧後法人化代表取締役就任、1997年香港に渡り1998年、現フォリフォリジャパングループとの合併会社取締役に就任。オロビアンコ、マンハッタンポーテージ、リモワ、アニヤ・ハインドマーチなど海外ファッションブランドをプロデュースし、日本市場の成功に導く。また、第1回東京ガールズコレクションに参画。米国の有名ファッション展示会「d&a」の日本窓口なども務めた。時代に沿ったブランディング、MD手法には定評がある。2013年にファッションビジネスのコンサルティング会社「タカギ&アソシエイツ」を設立。著書に『オロビアンコの奇跡』『超入門 日・英・中 接客会話攻略ハンドブック(共著)』(共に繊研新聞社)、『一流に見える服装術』(日本実業出版社)、『アパレルは死んだのか』(総合法令出版)『アパレル業界のしくみとビジネスがしっかりわかる教科書』(技術評論社)などがある。
コンサルタントのタカギ&アソシエイツ

Instagram:@kohichi.takagi

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