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楽天、有利子負債が危険水域に…社名変更と日本郵政との提携、報じられない“真の目的”

文=編集部
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楽天の三木谷浩史社長(撮影=編集部)

 若かりし頃の孫正義が国内で企業買収を模索していた時、8歳年下の三木谷浩史という名前のバンカーのアドバイスを受けた。「M&A(合併・買収)で名を挙げた孫に最初に買収の手ほどきしたのは自分だ」というのが三木谷の自慢だ。

 投資の世界に参入した楽天の三木谷浩史会長兼社長はM&Aを駆使して楽天経済圏を広げていったが、インターネットビジネスやプロ野球、携帯電話などさまざまの分野で孫のソフトバンクグループを後追いしてきた。

 楽天は4月1日付で社名を楽天グループに変更する。社名変更は1999年にエム・ディー・エムを楽天に変えてから22年ぶりのことだ。親会社の社名にグループをつけることで、主要子会社に権限を委譲し、子会社の株式上場を視野に入れている。「孫がソフトバンクをソフトバンクグループにしたことの猿真似だ」と評されていることを三木谷は知っているのだろうか。

起死回生の勝負に出た背景

 三木谷は起死回生の勝負に出た。1997年の創業以来最大規模となる資本の受け入れを決断。自前主義を捨てた。3月12日、第三者割当増資で2423億円を調達すると発表した。日本郵政、中国ネット大手テンセントの子会社のほか、米小売り最大手ウォルマートが引受先となる。調達した資金は携帯電話事業に投入し、基地局の整備に使う。

 日本郵政は3月下旬に楽天に1499億円出資し、楽天株の8.32%を保有する第4位の株主になる。テンセントの子会社が3.65%(約657億円)、ウォルマートも0.92%(約166億円)出資する。日本郵政傘下の日本郵便が持つ2万4000局の郵便局内で、楽天モバイルの携帯電話の申し込みカウンターを設置する。全国の郵便局や配達網を活用し、幅広い年代から新規契約を取ることを目指すという。

ソフトバンクを後追いした携帯電話事業で巨額赤字

 ソフトバンクグループ(SBG)は2020年3月期に投資先の米ウーバー・テクノロジーズなどの評価損で創業以来最大となる1兆円の赤字を計上したものの、21年同期には日本企業として過去最大となる3兆円の純利益をあげる予定だ。

 楽天は19年12月期に投資先の米ライドシェア大手リフトに関連して減損損失を計上し、最終赤字に転落した。20年12月期もSBGのようにはV字回復とはいかなかった。楽天の20年12月期の連結決算(国際会計基準)は最終損益が141億円の赤字(その前の期は318億円の赤字)と2期連続の最終赤字だった。売上高にあたる売上収益は1兆4555億円と、その前の期を15.2%上回ったものの、営業損益は過去最大の938億円の赤字(同727億円の黒字)に転落した。電子商取引(EC)や金融事業は好調だったが、携帯電話事業の先行投資が重くのしかかった。

 楽天は携帯電話事業に29年3月までの10年間で計8000億円を投じる予定。携帯の基地局の整備計画を5年前倒しする。4Gの人口カバー率を21年夏に96%まで急ピッチで高めるとしている。4G屋外基地局の償却負担などコストが増大し、携帯電話事業は20年12月期に2270 億円という、巨額の営業赤字を計上した。

 NTTドコモ、KDDI(au)、ソフトバンクの携帯大手3社は3月から5分以内の通話を含めると20ギガ(ギガは10億)バイトで月2980円と事実上、横並びの料金となった。これは「楽天潰し」の新プランと呼ばれている。携帯大手3社が大幅値下げに打って出るなか、楽天はひるむどころか、さらに攻めの姿勢を貫く。

「4位にとどまるつもりはない。圧倒的な地位を築く」。2月12日、オンライン会見で三木谷は携帯電話事業の展望を語った。「データ使用量が1ギガバイト以下の場合、月額料金はゼロ円」。楽天が携帯電話大手3社の大幅値下げに対抗する新料金プランがこれだった。「容量無制限で月額2980円」の単一料金プランを展開していたが、4月から20ギガバイト以下の場合、0~1980円に下げる新料金と提示した。

 新プラン発表後、楽天モバイルのサイトや店舗に申し込みが急増。「申込者数が(従来のペースの)4倍近くになった」(三木谷)。楽天は3月9日、自社回線による携帯電話サービスの契約申し込み数が累計で300万回線を超えたと発表した。20年12月末時点で200万件だったから、21年1月に発表した新料金プランが追い風となり、300万回線に到達したことになる。20年4月に携帯電話事業に参入し、「初年度の契約数300万件」を目標に掲げていたが、目標を達成した。

 楽天は「23年12月期の黒字化に必要な契約数は700万件」としていたが、今回の値下げで、4月から想定していた利用者1人当たりの収入も下がり、黒字化のハードルは一層、高くなった。それでも三木谷は、契約の増加や解約率の低下で「黒字化の時期は変わらない」と強気だ。

 三木谷が自信の根拠としているのがポイントサービスだ。楽天は複数サービスの利用でポイント還元率が最大16倍まで上がる「スーパーポイントアッププログラム(SPU)」をテコに利用者を囲い込む。20年のポイント発行額は4700億円で19年から約5割伸びた。全国の小売店や外食、JR東日本の電子マネーのチャージにも利用でき、ポイント消化率は9割以上。他の携帯3社にない伝家の宝刀だ。

 20年の通期決算では楽天市場、楽天トラベルなどの国内EC事業が約580億円、楽天カード、楽天銀行など金融事業は約810億円の営業利益を稼ぎ出した。三木谷には携帯電話事業を通じて新しいユーザーを取り込めれば、収益基盤をさらに強固にできるという計算が働いている。

有利子負債は危険水域に達した

 基地局への投資負担は重い。携帯電話事業の21年12月期の赤字額は、20年同期(2270億円の営業赤字)を上回る見通しだ。年2000億円規模の投資はあと2年は続く。

 最大の懸念は財務だ。20年12月期の社債及び借入金は約2.5兆円と、前の期から8600億円も増えた。その結果、収益力からみた借入金の返済能力を表すEBITDA(利払い・税引き・償却前利益)有利子負債倍率は17.7倍となった。その前の期の5.9倍を大きく上回っている。健全性の目安とされる10倍を突き抜けており“危険水域”に達している。

 このため、海外を中心に事業の撤退、見直しを進めている。三木谷は20年8月、投資先の米ライドシェア大手リフトの取締役を退任し、同社を持ち分法適用会社から外した。図書館向け電子書籍の米オーバードライブ・ホールディングスの全株式を売却し、中東のライドシェア大手カリームの株式の一部も手放した。今後、投資資金を捻出するため、スペインの配車アプリなどの持ち分や、買収したバイバー・メディア(キプロス)などの売却が株式市場では取り沙汰されている。

「GMOインターネットのように子会社の株式を次々と上場して資金を調達することが社名変更の先にあるシナリオ」(新興企業の動向に詳しいアナリスト)

 株式市場の“常識”だ。取扱高11兆円で業界首位の楽天カードなどフィンテック関連事業の株式公開が視野に入っているとみられる。新しい事業に育成にかかる資金を機動的に集め、負債を大きく増やさずに、1億人規模といわれている「楽天経済圏」の成長を目指せるのかどうかが財務戦略のカギとなる。

全国2万4000の郵便局の屋上に楽天の基地局設置か

 3月12日、都内で記者会見した日本郵政社長の増田寛也は「楽天は最高のパートナー。デジタルとリアルの双方の特徴を掛け合わせ、相乗効果を最大限に引き出したい」と述べた。三木谷は「日本全国にネットワークを持つ日本郵政と戦略的パートナーを結べるのは世界に類を見ない、新しい提携だ」と語った。

 新たに調達する資金は携帯事業への投資に使う。昨年4月に本格参入した携帯事業は全国に基地局を広げている最中だ。ただ、投資負担は重く、自己資本比率は昨年末時点で4.9%と18年末に比べて5.6ポイントも悪化した。兆円単位の投資が必要になる携帯事業を展開するには財務の強化が急務だった。

 三木谷がスペードのエースとして切ったのが日本全国に郵便局網をもつ日本郵政との提携だった。全国に2万4000局ある郵便局の屋上に携帯電話の基地局を設置できると見込んでいる。

 楽天モバイルの携帯を販売する店舗は全国に200店しかない。大手3社の実店舗は2000店舗を超えており、楽天の10倍以上だ。それが、日本郵政との提携によって、2万4000の基地局と実店舗をもつことになる。郵便局に楽天モバイルの携帯を申し込む専用コーナーができれば、楽天モバイルが日本一の携帯電話会社になる可能性もある。

 日本郵政は民営化したとはいえ、郵政株の過半数は政府が握る。公共性の高い郵便サービスを展開する日本郵政が特定の民間企業と資本・業務提携したことに関して異論が出るのは確実だろう。郵政との提携がすんなりいくかどうかは不透明だ。

 今回、目を引いたのは、中国IT大手テンセントの出資。テンセントは中国最大のSNS「ウィー・チャット」を運営し、電子商取引の巨大企業アリババ集団がライバルだ。アリババ集団の筆頭株主はSBGである。楽天の三木谷がテンセントと組んで、SBGとアリババ集団に対決を挑む構図が出来上がる。

 とはいっても、楽天がテンセントと手を握るのは、アリババ集団と共同歩調を取り成功しているSBGの後追いにほかならないという厳しい見方もある。
(文=編集部、文中敬称略)

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