
東日本大震災から10年が経過した。そして東京電力福島第1原発の事故発生からも10年。固唾をのんで推移を見守っていた事故当時の緊張感は、今後も忘れることはないだろう。
国連科学委員会による「被ばくによる健康影響少ない」との報告
この10年の間に、現地では廃炉に向けた作業が進められ、先月は3号機で、使用済み燃料プールからの核燃料の取り出しを終えた。作業に当たった人たちには、心から敬意と感謝の気持ちを表したい。ただ、溶け落ちた燃料デブリの回収は困難で、今後いつになったら作業が完了するのかは不明。廃炉までの工程は何合目まで来ているのかもよくわからない状況は、10年経っても続いている。改めて、原発事故がもたらす影響の大きさを感じる。
そんななか、原子放射線の影響に関する国連科学委員会(UNSCEAR)が、この事故の影響に関する最新の報告書を発表した。ポイントは大きく分けて2つある。
(1)福島県民には被ばくの影響によるがん発症の増加は報告されておらず、今後もがんが増えることは考えにくい
(2)福島県が行っている、事故当時18歳以下の子どもを対象にした検査で甲状腺がん(もしくは「疑い」)との診断が増えたのは、被ばくの影響ではなく、高精度のスクリーニング検査がなされた結果とみられる
UNSCEARは、前回2013年の報告書でも、被ばくが原因の健康被害はないとみられる、としていた。今回の報告書では、さらに最新の知見を取り入れ、福島県民の被ばくレベルを再推計した結果、被ばく線量を大きく下方修正した。
UNSCEARは、1950年代に大国の大気圏内核実験が繰り返され、放射性降下物による環境や健康への影響について懸念が増大するなか、1955年の国連総会決議に基づいて設置された機関だ。米スリーマイル島原発事故(1979年)、ソ連チェルノブイリ原発事故(1986年)のほか、CT検査などの医療における放射線の人体への影響などについても報告書をまとめている。その報告は、ICRP(国際放射線防護委員会)の勧告やIAEA(国際原子力機関)のガイドライン、日本を含む各国の法律の基本にもなる。放射線被ばくに関して、もっとも権威があり、信頼される国際機関とされている。
UNSCEAR元日本代表の明石真言・東京医療保健大教授(被ばく医療)に対するインタビュー記事(3月9日付け朝日新聞デジタル、2018年5月12日付けSYNODOS)によれば、委員会は「Science, not policy - independent and unbiased」(「科学に根ざし、政策を取り扱わない、独立かつ公平な立場」)を大原則に、世界中の専門家が参加。今回の報告書は、客観性を保つため、日本以外の専門家が執筆した、とのことだ。
その結果、今回のような結論に至ったのは、朗報といえよう。報告書の内容が全国各地の人々に伝わり、今も一部に残る福島への偏見が取り払われ、風評被害がなくなることを期待したい。