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江川紹子の「事件ウオッチ」第172回

「結婚の自由をすべての人に」今こそ同性婚法制化の検討を…江川紹子の提言

文=江川紹子/ジャーナリスト
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 最近、同性婚を巡る報道がいくつかあったので、今回はこの問題について考えてみたい。

 私自身が心を揺さぶられたのは、同性婚を求める「結婚の自由をすべての人に」訴訟原告の佐藤郁夫さんの死に関するニュースである。

放置されたままの不利益

 報道によれば、佐藤さんは1月4日に脳出血で倒れて入院し、意識が回復することなく、同月18日に亡くなった。享年61。代理人弁護士によると、入院先の病院で、同性パートナーに対して医師は「親族でなければダメだ」と病状説明を拒否し、別室から佐藤さんの妹に電話をかけた、とのことだ。

「結婚の自由」訴訟で行われた意見陳述に基づくと、佐藤さんと7歳下のパートナーは、約17年間同居していた。2019年1月には、地元の区役所に婚姻届も提出。区役所の職員は「不受理になると思います」と言う一方で、結婚記念カードを発行してくれた、という。

 佐藤さんはこの陳述書のなかでも、一方が病気で意識不明になった時の病院の対応について案じていた。それが現実のものとなってしまった。

 陳述書ではさらに、こう述べている。

「天国に逝くのは私の方が先だろうと思っていますが、最期の時は、お互いに夫夫となったパートナーの手を握って、『ありがとう。幸せだった。』と感謝をして天国に向かいたいのです」

 妹がよい理解者だったためだろう、パートナーは一緒に最期を看取ることができたようだが、そういう媒介者がいなければ、最期に立ち会うこともできなかったかもしれない。

 婚姻という法的な裏付けが得られないために、17年も共に暮らした家族が病気で倒れるという非常時に、病院から家族として扱ってもらえない。これは、あまりにも非人情な仕組みではないか。

 国が無策を続けている間に、自治体ではさまざまな取り組みが始まっている。

 2015年以降、同性カップルに対して婚姻同等と認めて独自の証明書を発行するパートナーシップ制度を始める自治体も、少しずつ増えてきている。今年4月からは、東京都足立区が新たに「足立区パートナーシップ・ファミリーシップ宣誓制度」を始める。

 全国に先駆けてパートナーシップ制度を導入した東京都世田谷区は、新型コロナウイルスで死亡した人の遺族が国民健康保険の「傷病手当」を受け取れる特例措置を、同性パートナーの遺族も対象とする独自の制度を作った。

 ただ、制度を導入している自治体数は、いまだ全自治体の5%にも達していない。同性カップルが置かれた環境は、住んでいる地域によって格差があまりに大きい。そのうえ自治体によって条件の違いがあり、一方が死亡しても法定相続人にはなれない、遺族年金が受け取れない、などの不利益がある、という。

各国が次々と同性カップルに法的権利を与えるなか、同性婚について検討すらしない日本

 世界では2000年以降、同性婚を法的に認める国が増えてきた。アジアでも、台湾が2019年に同性婚を法制化した。2020年12月には、スイスが婚姻平等法案を可決し、同性婚承認国は世界で29カ国となった。

 ほかに、同性カップルに婚姻関係にある男女に準じる権利を認めるパートナーシップ制度を国として導入している国々もある。タイは2020年7月に、パートナーシップ導入の法を制定した。

 2月25日、衆院予算委員会第3分科会での尾辻かな子議員の質問に対する衆院憲法審査会事務局の答弁によれば、日米欧の主要7カ国(G7)のうち、国が同性カップルに対しなんの法的保護も与えていないのは、日本だけだ。女性の地位・権利と同じく、この分野でも日本は国際的な潮流に、遅れを取っている。

 同性婚に反対する人たちが、決まって理由に挙げるのは「憲法」だ。

 確かに、憲法24条では「婚姻は、両性の合意のみに基いて成立し」と書かれている。ただ、この規定は、家と家の結びつきだった旧憲法下の結婚を、当事者の意思だけで認めることを宣言したものだ。憲法制定当時には、海外でも同性婚を認めている国はなく、検討すらされていないはず。憲法は同性婚を禁じているわけではないのではないか。

 25日の予算委分科会での尾辻氏のこの質問に対し、衆院法制局は次のように答弁した。

「少なくとも、日本国憲法は同性婚を法制化することを禁止はしていない、すなわち認めているとの許容説は十分に成り立ちうると考えております」

 衆院法制局は、議員立法などの際、議員や政党の依頼で法的な助言を行う部局だ。

 一方、内閣提出の法案や政令などの法解釈を検討する内閣法制局は、「(憲法制定当時)想定されていない。それ以上、検討したことはございません」と述べ、同性婚を認める法律が憲法上可能かどうか検討すらしていない、と繰り返した。

 憲法制定当時と今とでは、社会のありようは大きく様変わりしている。そんななか、国は必要とあれば、憲法解釈を変更し、憲法制定当時には考えられなかった政策も実現してきた。集団的自衛権の一部を容認するなども、憲法制定同時は、到底想定していなかったことのひとつだろう。

 ところが同性婚に関しては、内閣法制局が検討もせず、政府が法制審議会への諮問もしようとしない。要するに「政府はまったくやる気がない」ということだろう。現に困難な状況を強いられた人たちがいるのだから、それを解消するために、法改正ができないかかどうか、まずは検討すべきではないのか。

 それに、性的少数者を巡る人々の意識は近年、日本でも大きく変わりつつある。

 2020年に朝日新聞と東京大学・谷口将紀研究室が共同で、無作為で選んだ全国の有権者を対象に行った調査によれば、同性婚については「賛成」「どちらかと言えば賛成」が46%、中立31%、「反対」「どちらかと言えば反対」が23%だった。2017年に行った調査に比べて、賛成派は14ポイント増えていた。

 法解釈においては保守的な司法においても、私人間の争いなどで、同性婚に法的保護を与えるケースが出てきている。

 宇都宮地裁真岡支部は2019年9月、約7年にわたって同居していたカップルが一方の不貞によって破局したとして、30代の女性が相手の女性に損害賠償を求めた裁判の判決で、2人の関係を「事実婚」と認め、法的保護の対象になる、とした。判決では、憲法24条の規定についても言及し、「同性婚を否定する趣旨ではない」としていた。

 控訴審でも、東京高裁は「単なる同居ではなく(中略)結婚に準ずる関係にあった」と認定。被告側は「同性の内縁関係は法的保護に値する段階にはない」と主張していたが、同高裁は、同性婚を認める国や地域が増え、国内でもパートナーシップ制度を導入する自治体が出てきているなどの社会情勢を踏まえ、「同性であることのみで、法的に保護される利益を否定することはできない」と退けた。

 程度の差はあれ、世の中は少しずつ変化している。なのに、政府はまったく動かず、法改正が可能かどうかの検討すら行っていない、というのは怠慢ではないのか。

「何も変わらない。ただ愛し合う2人に結婚という形でその愛を認めてあげること」

 これに対し、野党3党は2019年に同性婚を認める民法改正法案を提出している。ただ、野党だけの提案では、広がりに欠けるように思う。

 同性婚の実現を目指す一般社団法人「結婚の自由をすべての人に〜Marriage for All Japan〜」のホームページには、自民党や公明党の議員からのメッセージも寄せられ、与党のなかにも賛同者はいることがわかる。家族の絆を強める、という大義名分が明確であれば、保守系の政治家の間にもっと賛同者が増える余地があるのではないか。

 超党派の議員連盟主導で自殺防止対策の議員立法を行い、その後も対策の強化を進めているように、家族のあり方にもかかわる同性婚については、政党の枠を超えて議論し、議員立法を目指すにしても超党派議員で法案を準備したほうがよいように思う。一気に「同性婚」を実現するのか、その前段階として、国としてのパートナーシップ制度を整えるのかなど、進め方についても幅広い議論をしてもらいたい。

 同性カップルも家族であることに変わりはない。家族が病気になった時に、病院からの説明も受けられない人がいる、そんな非人情な状態を改善しよう、というのは、イデオロギーや党派の問題ではない。

 それに、同性婚の合法化は、同性婚をしたくない人に、それを強いるものではない。反対している人にはなんの損失ももたらさず、世の中に害悪を与えるわけでもない。一方で、困っている人にとって大きな恵みとなる。

 Twitterなどで日本にも広く紹介された、ニュージーランドの元国会議員モーリス・ウィリアムソン氏の演説を思い出したい。同氏は2013年、同国の国会が同性婚を認める「婚姻平等法案」を審議していた際、ユーモアを交えながら法案支持を力強く訴えた。

 その中でウィリアムソン氏は、「この法案でやろうとしていることは、ただ愛し合う2人に結婚という形でその愛を認めてあげることです。それだけなんです」と強調。それ以外に、世界は何も変わらないとして、こう続けた。

「明日も太陽は昇ります」
「明日からも生意気な10代の娘さんに口答えされます」
「住宅ローンは上がりません」
「皮膚病になるわけでも、ベッドからガマガエルが出てくることもありません。世界は同じように続いていくのです。だから大げさにしないでください」
「当事者には素晴らしい法律ですが、それ以外の私たちにとっては、これまで通りの毎日が続くだけなんです」

 できる限り早く、今の非人情な仕組みが改善され、同性カップルたちの不安や困難が解消されることを願いたい。

(文=江川紹子/ジャーナリスト)

江川紹子/ジャーナリスト

江川紹子/ジャーナリスト

東京都出身。神奈川新聞社会部記者を経て、フリーランスに。著書に『魂の虜囚 オウム事件はなぜ起きたか』『人を助ける仕事』『勇気ってなんだろう』ほか。『「歴史認識」とは何か - 対立の構図を超えて』(著者・大沼保昭)では聞き手を務めている。クラシック音楽への造詣も深い。


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