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ルネサス、経営を脅かす爆弾…1兆円超の有利子負債、1兆円超の「のれん代」

文=編集部
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「ルネサスエレクトロニクス HP」より

 半導体大手のルネサスエレクトロニクスが英アナログ半導体メーカー、ダイアログ・セミコンダクターを買収する。ダイアログの全株式を6157億円(ほかにアドバイザリー費用22億円)で取得する。21年末までに買収を完了する予定だ。

 ダイアログは高速通信規格「5G」関連の技術を持つ。ルネサスの主力は自動車向けだが、米中貿易摩擦や車載半導体の不足など経営環境が変わるなか、成長が見込める5Gに経営資源を集中させる。

「製品や技術、Go To Market(製品の市場投入戦略)の相互補完関係にあり、シナジーの創出が非常にスムーズに予見できる」。2月8日の会見で柴田英利社長は大型買収の意義をこう強調した。買収完了から4~5年後に210億円の増収効果、3年後に130億円のコスト削減効果を見込む。

 ダイアログはロンドン郊外に本社を置き、独フランクフルト証券取引所に上場している。電源制御ICの技術に強みをもち、米アップルのスマートフォンの電源ICなどに使われている。売上高に占めるアップルの比率は6割弱あり、近年はIoT関連のM&Aで多角化を図ってきた。ダイアログの2019年12月期の売上高は1644億円、営業利益が398億円。ルネサスは買収資金を調達するため三菱UFJ銀行とみずほ銀行から総額7354億円を限度に借り入れる契約を結んだ。

 ルネサスは海外のアナログ半導体メーカーを相次ぎ買収してきた。2017年、米インターシルを3200億円、2019年には同じく米のインテグレーテッド・デバイス・テクノロジー(IDT、現ルネサスエレクトロニクス・アメリカ)を7300億円で傘下に収めた。相次ぐ大型買収によって今後、1兆円台ののれん代が重くのしかかる。

産業革新機構主導のトップ人事で迷走

 ルネサスは日立製作所と三菱電機の半導体部門が統合した旧ルネサステクノロジと、NECエレクトロニクスが合併して2010年に誕生した。東日本大震災で経営危機に陥り、産業革新機構(現・産業革新投資機構)の金融支援を受けて乗り切った。

 産業革新機構主導で16年6月、呉文精氏が社長兼CEOに就任した。自動車部品カルソニックカンセイの社長や日本電産副社長を歴任した経験が買われた。呉氏は大型買収に突き進む。17年2月に米インターシル、19年3月に米インテグレーテッド・デバイス・テクノロジー(IDT)を計1兆円超で買収した。のれん代と無形資産の合計は1兆円を超え、減損リスクを抱えた。ルネサスは「IDTの買収価格は割高だった」と認めざるを得なくなった。

 呉氏は経営悪化の責任を取り19年6月に社長を退任。革新機構出身の柴田氏が社長に就いた。柴田氏はCFO(最高財務責任者)として呉氏と一緒に買収を主導してきた。自動車中心からデータセンターや高速通信規格「5G」といった成長市場を開拓できる体制をつくるべく英ダイアログの買収に踏み切った。

5G普及を追い風に黒字転換

 ルネサスの2020年12月期の連結決算(国際会計基準)は、売上高にあたる売上収益は前期比0.4%減の7156億円、営業利益は10.4倍の651億円、最終損益は456億円の黒字(前期は63億円の赤字)に転換した。

 車を制御するマイコンなどの自動車向けの売上収益は8%減の3410億円。新型コロナウイルスの感染拡大による世界的な自動車生産の落ち込みを受け、昨春には売り上げが激減したが足元で急回復し、10~12月期は7~9月期比で約2割増えた。

 データセンターや携帯基地局など産業・インフラ・IoT向けは3636億円と10%伸びた。高速通信規格「5G」の普及などで世界的に半導体が活況だったことに加え、過去の統合効果が実を結び始めた。

 21年1~3月期の連結売上収益は1970億~2050億円(前年同期比10~15%増)となる見通し。車載向け半導体は需給が逼迫し、顧客に値上げを告知した。車載向け以外でも値上げを進めており、「値上げ効果で、営業利益を21年12月期に100億円、22年同期に200億円押し上げる」(株式市場関係者)。

1兆4000億円に膨らむ「のれん代」と無形資産

 最大の懸念は「のれん代」である。2020年12月期末の有利子負債は6937億円、のれん代は5904億円、無形資産は3647億円。ダイアログの買収資金を7354億円の借入金で賄うため、有利子負債は1兆4000億円を超える。ダイアログの買収で、のれん代と無形資産が4500億円増加すると見られている。のれん代と無形資産の合計は1兆4000億円程度に達するとの試算もある。

 国際会計基準(IFRS)ではのれん代は資産という位置付けになっており、コストとは考えない。このため、買収した企業の経営状態が変わらなければ費用として計上する処理は行わない。

 一方で資産価値はリアルタイムで変動するという考えに基づいており、のれん代は毎年、精査される。のれん代が毀損したと判断されれば、その分を損失として計上することになる。日本会計基準では毎年、定額で償却するので、突然、巨額損失に見舞われるという事態にはなりにくい。IFRSだと、業績が悪化した時に一気に損失が表面化する。IFRSを採用している企業の業績のブレは、どうしても大きくなる。

 積極的にM&Aをおこなっている日本企業はIFRSを採用していることが多いが、突然、巨額損失を計上して経営危機に陥るケースが後を絶たない。半導体市況は浮き沈みが激しく、減損リスクは大きい。巨額買収を続けるルネサスの懸念材料だ。

半導体業界は世界的再編の渦中にある

 昨年、半導体業界で大型M&Aが相次いだ。日本円換算で1兆円を上回る規模のM&Aが7月以降、4件あった。9月には米エヌビディアが最大400億ドルを投じ、ソフトバンクグループから英アームの株式を取得することで合意した。米トランプ政権による中国・華為技術(ファーウエイ)との取引規制で事業の先行きが不透明になったことがM&Aを加速させた。各社は合従連衡で経営リスクの軽減に動いた。

 半導体の需要は人工知能(AI)、5G、IoT、データセンターなど、あらゆるデジタル分野で拡大が見込まれる。ルネサスによる英ダイアログの買収は世界的な半導体メーカーの争奪戦の一環だ。ルネサスの筆頭株主は官製ファンドの産業革新投資機構の投資会社INCJで32.15%を保有する(20年12月末)。INCJは投資分を回収するため保有株を売却する。この結果、ルネサスは純然たる民間企業になる。

 世界的な半導体争奪戦の渦中で、連続M&Aを重ねてきたルネサスが「買収する側から、買収される側に変わることだって十分にあり得る」(世界の半導体の動向に詳しいアナリスト)。

火災で自動車生産に影響必至

 2011年3月11日、東日本大震災が発生。茨城県ひたちなか市にある那珂工場が被災し、約3カ月間操業を停止した。完成車や部品メーカーの多くは、この工場から出荷されるマイコンと呼ばれる半導体を使っており、自動車のサプライチェーンが寸断され、自動車生産に大打撃を与えた。

 あれから10年。「ルネサス・ショック」が再び襲った。那珂工場で3月19日午前2時47分に火災が発生し約5時間半後に鎮火した。自動車向けを主力とする300ミリメートルウエハーの生産ラインのめっき装置の2%に当たる11台が焼損した。柴田英利社長は3月21日の会見で「1カ月以内での生産にたどりつけるよう尽力する」と述べた。ただ「一部では不透明感がある」として遅れる懸念を示唆した。

 半導体業界に詳しいアナリストは「生産再開はおそらく2~3カ月後、下手すれば半年後」という見方をしている。生産停止となった製品のうち3分の2程度は他のラインで代替生産が可能だが、3分の1については代替が難しいとみられている。自動車の生産に影響が及ぶのは必至だ。

 トヨタ自動車、日産自動車、ホンダ、マツダ、SUBARUなど多くの自動車メーカーは「状況を精査中」として、生産への影響などの確認作業に追われている。車載用半導体は需要急増に加えて米中貿易摩擦などで世界的に供給が不足している。さらに2月中旬、米南部テキサス州に寒波が襲来して大規模停電が発生した。マイコンのシェアで世界首位のオランダのNXPセミコンダクターズと3位の独インフィニオンテクノロジーズの工場が停止し、需給逼迫に追い打ちをかけた。

 こうした半導体不足などを受け、3月18~19日には日産や米フォード・モーター、トヨタが工場を停止した。そこにマイコンシェア世界2位のルネサスの火災が加わり、車載半導体3強のそれぞれの工場が停止する異常事態となった。自動車メーカーの追加減産のリスクが高まっている。

(文=編集部)

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