日立グループ「御三家」の一角、日立化成は2020年10月1日、昭和電工マテリアルズに社名を変更した。昭和電工は19年12月18日、日立化成に9640億円を投じ、TOB(株式公開買い付け)で子会社にすると発表した。20年3月24日から4月20日に実施したTOBを通じて、日立化成を連結子会社に組み入れた。日立化成は6月19日、東証1部から上場廃止となった。
日立化成は売り上げ、利益では昭和電工に劣るものの、時価総額は8501億円(19年12月18日時点)、従業員約2万3000人と、いずれも昭和電工の2倍近い大所帯だ。「小が大を飲みこむ」かたちの買収である。
買収額は昭和電工の連結売上高(19年12月期9065億円)を上回り、社運を賭けた大型のM&Aであった。昭和電工はハードディスクと電子材料用高純度ガス、鉄スクラップを溶かすために使われる黒鉛電極の3つの事業が、それぞれ数千億円の市場規模で、世界シェアのトップを握っている。これに対して日立化成が高いシェアを持つのは封止材や配線板などの半導体向け材料や自動車向けリチウムイオン電池負極材などの先端部品だ。
昭和電工の森川宏平社長は「買収により世界トップクラスの機能性材料メーカーになりたい」と力説した。次世代通信規格「5G」など通信需要の増加などで半導体関連の成長は底固いと判断。この分野で成長戦略を描いた。
M&Aに伴う「のれん」代などの償却資産は6259億円
昭和電工の2020年12月期の連結決算が日立化成を買収して初の決算だった。日立化成(現・昭和電工マテリアルズ)を連結子会社にした20年第3四半期期首から売上高や損益を取り込んできた。
2020年12月期の連結決算は売上高が前期比7.4%増の9737億円と増収となったが、営業損益は194億円の赤字(その前の期は1208億円の黒字)、最終損益は763億円の赤字(同731億円の黒字)だった。新型コロナウイルスの営業利益へのマイナスの影響が186億円、昭和電工マテリアルズとの統合関連費用を389億円計上した。
主力の黒鉛電極事業は市況の回復が想定より鈍かった。自動車生産が回復したためドア向けの樹脂製品やブレーキ用の摩擦材が復調。半導体製造工程で使う高純度ガスや研磨剤などは伸びた。家電製品の電源用のアルミ圧延品と研磨材に用いるセラミックの事業で約166億円の減損損失を計上した。昭和電工マテリアルズの売上高は3027億円、営業損益段階で63億円の赤字だった。営業赤字になったのは、のれん代などの償却や棚卸資産の評価替えを行ったためだと説明した。
昭和電工マテリアルズの企業会計基準上の評価額は、無形固定資産が2159億円、のれん代(買収額と買収先企業の純資産との差額)が3651億円、投資その他の資産が449億円の合計6259億円。償却期間は20年。初年度にあたる20年12月の償却額は、無形固定資産81億円、のれん代91億円、その他11億円の計183億円だった。
2021年12月期の連結決算は売上高が前期比31.5%増の1兆2800億円、営業損益は450億円の黒字、最終損益は140億円の赤字を見込む。同決算では昭和電工マテリアルズの業績が通期で寄与する。売上高は6100億円、営業利益は前期の棚卸資産の評価替えがなくなり100億円の黒字を計画している。全社の業績に占める昭和電工マテリアルズの割合は売上高で47%、営業利益では22%を占める。
償却額は無形資産が161億円、のれん代が183億円、その他22億円の合計366億円。これが最終損益が赤字になる原因だ。今後も年間366億円見当の償却負担が重くのしかかる。
事業の切り売りで財務の悪化を食い止め
日立化成を9640億円で買収した結果、悪化した財務内容の健全化や半導体部材などへの集中投資を行うため、2000億円相当の事業を売却する考えを示した。1月28日、飲料缶と電子部品に使うアルミニウム事業を米投資ファンドのアポロ・グローバル・マネジメントに売却すると発表。売却額は明らかにしていないが500億円超になるとみられる。21年8月以降に売却手続き完了する予定だ。
売却するのはアルミ缶と圧延品。2つの事業の19年12月期の売上高は合計で約550億円。自動車部品などの機能性部材は昭和電工に残す。昭和電工のメーカー商社である昭光通商(東証1部)は丸紅系投資ファンド、アイ・シグマ・キャピタルに売却する。同ファンドが100%出資するSKTホールディングスが3月5日から4月15日までTOB(株式公開買い付け)を実施。買い付け価格は1株あたり796円。昭光通商株を44%保有する昭和電工は29%分を応募する。SKTの買い付け総額は75億円でSKTの持ち株比率は85%に高まる。TOBが成立すれば昭光通商は上場廃止になる。
武田薬品工業は19年、6兆円超を投じてアイルランド製薬大手シャイアーを買収した。膨らんだ有利子負債を返済するために既存事業を売り払ってきた。20年8月にアリナミンなどを手掛ける一般用医薬品(大衆薬)事業を米投資ファンド、ブラックストーン・グループに2420億円で売却すると発表した。21年2月、糖尿病薬事業を帝人に1330億円で譲渡すると公表した。
武田薬品は「選択と集中」による事業の絞り込みを名目に事業を切り売りしており、「かつての輝きが消えた」(武田薬品の元役員)。昭和電工は武田薬品と同じ道を歩み始めているのだろうか。昭和電工の「小が大を飲む」M&Aは失敗に終わることになりそうだという厳しい見方もある。
(文=編集部)