ソニーが完全復活を印象付けた。東京株式市場の時価総額ランキングでソニーは約14兆円で第3位。トヨタ自動車(約26兆円)、ソフトバンクグループ(約21兆円)の後を追う(2月25日現在)。時価総額が10兆円に回復したのは1年前の2020年1月10日のこと。IT(情報技術)相場に乗って株価が上昇した2000年以来の快挙だった。
ソニーの時価総額の推移を見ておこう。2000年に14兆円までアップしたが、テレビなどエレクトロニクス(エレキ)の不振で12年には一時、7000億円台まで下落した。
その後、ゲームや音楽事業などエンタメ部門を中心に経営を立て直した。21年3月期の純利益は1兆円超を確保する見通し。19年3月期の9162億円を上回り過去最高となる。21年3月期の第3四半期(累計)の決算発表翌日(2月4日)の株価の終値は1万1650円。前日比1015円高と暴騰した。時価総額も14兆6913億円と21年ぶりに過去最高を更新した。
新型ゲーム機PS5が好調
21年3月期連結決算(米国会計基準) の純利益は過去最高の1兆850億円(前期比86.4%増)となる見通し。従来予想は8000億円だった。売上高は従来予想から3000億円増の8兆8000億円(前期比6.5%増)、営業利益は2400億円増の9400億円(同11.2%増)を見込む。
主力のゲーム事業(ゲーム&ネットワークサービス分野)が快走する。売上高が従来予想から300億円増の2兆6300億円、営業利益は400億円増の3400億円を予想している。20年11月、7年ぶりとなる新型ゲーム機プレイステーション5(PS5)を発売したのが追い風となった。
「PS5の初年度(21年3月末までの)販売台数はPS4の初年度実績である760万台以上を目指す」。十時裕樹副社長兼CFO(最高財務責任者)は20年10月の決算説明会で、こう述べた。21年2月にはPS5について「350万台を突破したが、世界的に半導体不足もあり、需要に対しこたえられていない」とし、改善に努めたい、とした。
「初年度760万台以上という数字は、最低限のライン。どれだけ上積みできるかが勝負となる」(ゲーム業界に詳しいアナリスト)
証券各社の初年度の販売台数予想は760万~1100万台とバラツキがあり、平均で900万台といったところだ。半導体不足が、どう影響するかは見通せない。
巣ごもり消費によるソフトウエアの販売増や、ネット対戦などができる定額サービス「PSプラス」(月額850円など)の会員増などが寄与し、ゲーム部門の収益を押し上げた。リカーリング(継続課金)と呼ばれる方式をとり、事業の収益安定化につながるPSプラスの会員は20年末で4740万人に達した。この1年で900万人弱増えたことになる。PS5の購入者の87%がPSプラスに加入しているという。ゲーム事業は今や営業利益全体の36%を稼ぐ大黒柱となった。
「鬼滅の刃」のヒットも寄与
音楽分野(アニメ事業を含む)も売上高は500億円増の9000億円、営業利益は280億円増の1800億円に上方修正した。子会社、アニプレックスが配給する『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』のヒットが大いに寄与した。
これに対して映画は売上高を従来予想から100億円減額して7500億円とした。新型コロナウイルスの感染拡大に伴う劇場閉鎖が続き、作品の公開延期が相次いだためだ。広告宣伝費を絞ったことや前年度に公開した作品などをホームエンターテイメントやテレビなどへ配信することで得られるライセンス料もあって、営業利益は240億円増の720億円に上振れする。ゲーム・音楽・映画の3事業(エンタメ部門)の営業利益の合計は5920億円。全体の営業利益の63%を占める。収益構造からみるとソニーは、もはやエンタメ会社なのだ。
半導体事業(イメージング&センシング・ソリューション分野)の売上高は500億円増の1兆1000億円、営業利益は550億円増の1360億円とした。昨年、米中摩擦の激化でファーウェイのモバイル機器向けのセンサーの出荷を一時中止したことから、売り上げが落ち込んだ。しかし、出荷は再開され、ファーウェイ以外の顧客からの引き合いも活発だ。
デジカメやスマートフォンの電機事業(エレクトロニクス・プロダクツ&ソリューション分野)の売上高は200億円増の1兆8900億円、営業利益は580億円増の1250億円となりそうだ。金融分野も生命保険の特別勘定における運用益増で金融ビジネス収入を1400億円上乗せし1兆6000億円、営業利益は150億円増の1700億円に増額した。
“ソニーらしさ”を具現化する製品
ソニーとパナソニックは宿命のライバルだったが、近年、業績は、はっきり明暗を分けた。ソニーが明、パナが暗である。ソニーの時価総額は過去最高の14兆円を更新したが、パナソニックのそれは3.4兆円。4倍超の開きができてしまった。
リーマンショックで両社とも巨額な赤字を抱え、水面下に沈んだ。パナソニックはプラズマテレビからの撤退などの構造改革を進めて巨額赤字から脱却を果たした。だが、その後は低迷が続くデジタル家電事業を引きずり、電気自動車(EV)向けの電池でも大口顧客の米テスラに振り回されている。
ソニーは4月に社名を「ソニーグループ」に変更し、エレキ中心だった組織体制を刷新する。22年3月期から始まる新たな中期経営計画でどのような施策を打ち出すかが、今後を占うカギとなる。ゲームを中心とするエンタメ事業への依存を強めており、コアとなる新たな事業の育成が急務だ。