東京株式市場でソニー株が上値を追い、連日、年初来高値を更新している。11月4日、19年ぶりの9000円回復を果たした後も騰勢が続き、11月25日には9854円をつけた。10月28日、通期の業績見通しを上方修正して以降、好業績銘柄株物色の中心的な存在となった感がある。
ソニー・インタラクティブエンタテインメント(SIE)が11月12日、7年ぶりの新型ゲーム機「PlayStation 5」を発売した。世界で1億台超を売った「PS4」の後継機だ。PS4の発売時に比べ、インターネット経由のダウンロードや課金が増えるなどゲームの利用環境は様変わりしている。ハードからソフトに軸足を移すことで、ソニーは効率的に稼ぐ力を高めている。
グループ会社のアニプレックスが東宝と配給するアニメ映画『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』が10月16日の公開から11月23日までの39日間で興行収入が259億円を突破するなど、好材料はほかにもある。
今後の試金石は株価1万円の大台の回復だ。エレクトロニクス株の柱だったソニーの株価はITバブル崩壊とともに1万円を割り込み、今日まで回復できずにいる。PS5を起爆剤に、2001年5月以来となる1万円の大台を回復できるのか。
アナリストはPS5の伸びに注目している。市場がPS5を注視するのは連結業績に占めるゲームの重みが増しているからにほかならない。
今やゲームを中核とするエンタメ企業
業績は回復基調にある。21年3月期の連結決算(米国基準)は売上高及び営業収入が前期比2.9%増の8兆5000億円の見込み。営業利益は17.2%減の7000億円と従来予想(6200億円)を800億円上回る。純利益は37.4%増の8000億円となる見通し。12%減の5100億円から一転して、最終増益となる。
最終増益は2年ぶりのこと。最高益となった19年3月期(9262億円)に次ぐ2番目の高い水準となる。市場(アナリスト)平均予想(5367億円)を大きく上回る。「多様なポートフォリオを持つことが、レジリエンス(回復力)を高め、新たな事業拡大の機会を与えてくれている」。十時(ととき)裕樹最高財務責任者(CFO)は決算説明会でこう強調した。
上方修正の最大の要因はゲーム事業だ。21年3月期は売上高が従来予想から1000億円引き上げ2兆6000億円に。営業利益は3000億円と従来予想より600億円増える。新型コロナウイルス禍に伴う巣ごもり消費の拡大を受け、自宅で遊ぶ人が増え、PS4などを利用する人のゲーム時間が9月は前年同月比30%増えた。時代劇アクションゲーム「ゴースト・オブ・ツシマ」などが好調だった。11月発売の新型機PS5も引き合いが強く「初年度の販売実績でPS4の760万台以上の達成を目指している」(十時CFO)。
旧作などを定額課金で遊び放題にできるサブスクリプション(継続課徴金)サービスを強化してきた。オンラインで他の利用者と対戦できる有料サービス「PSプラス」の会員数は20年9月末には4500万人強と、16年3月に比べて2倍以上に増えた。一連のサービスを合わせたアクティブユーザーは月間累計で1億人を超える。
音楽事業と映画事業も回復は早く、音楽で220億円、映画で70億円の営業利益を上積みした。その結果、ゲームと音楽(売上高8500億円、営業利益1520億円)、映画(売り上げ7600億円、営業利益480億円)の3事業を合わせた売上高は4兆2100億円、営業利益は5000億円の見込み。全社に占める3つの事業の割合は売上高で5割弱、営業利益(セグメント間消去前利益)は7割強に達する。ソニーはゲームを核とするエンタメ企業なのである。
エレクトロニクス事業は営業利益を70億円引き上げて670億円に。金融も130億円上積みして1550億円に上方修正した。
唯一、減収・減益に下方修正したのが半導体事業だ。売上高は9600億円と400億円減額した。営業利益は1300億円から490億円引き下げて810億円に下方修正した。世界シェアの5割を握る画像センサーが振るわない。9月に米商務省が米国技術を使って製造する半導体を中国のファーウェイに供給することを禁止し、同社へのセンサー出荷を停止したためだ。
時価総額はパナソニックの4.5倍
平井一夫前CEO率いるソニーはテレビ事業からの撤退に踏み切れず、パナソニックより一周遅れと揶揄された。その後、ソニーはテレビ事業で大リストラを断行し、スマートフォン向け画像センサーと家庭用ゲーム機に集中的に投資した。18年3月期に20年ぶりに営業最高益を更新し、コロナ禍にもかかわらず足元の業績も堅調だ。株式時価総額(11月25日時点)はソニー12.2兆円、パナソニック2.7兆円と4.5倍もの大差がついた。ソニーはゲームに特化した戦略が効を奏した。
国産第1号のテープレコーダーの開発に象徴されるように、ソニーの創業事業は電機だ。栄光をもたらしたエレクトロニクス部門の再生は長年の課題となってきた。
エレキの統合会社がソニーの商号を引き継ぐ
11月17日、エレクトロニクス事業を手がける中間持ち株会社のソニーエレクトロニクスと、同社傘下のデジタルカメラ、テレビ・オーディオ、スマホの3子会社を統合すると発表した。ソニー本体が2021年4月、ソニーグループに社名を変更するのに合わせ、この統合会社がソニーとなる。統合会社の社長兼最高経営責任者(CEO)にはスマホ子会社の槙公雄副社長が就く。
「次世代のソニー株式会社を率いてもらうのに最適な人物だ」。ソニーの吉田憲一郎会長兼社長兼CEOは槙氏のエレキ事業会社トップの就任に合わせて、社内にこうメッセージを発した。創業事業のエレキ事業がソニーの商号を引き継ぐ。
ゲームを中核とするエンタメ会社に進化したソニーは、21年4月、ソニーグループに移行し、第2の創業に挑む。創業事業であるエレキに第2の創業を託す。「日本発で世界初のものを創ってこそ人より先に進むことができる」。これが、創業者の井深大氏のソニースピリットである。
創業以来、10年周期で消費者を熱狂させる斬新な商品を送り出してきた。しかし、2000年のプレイステーション(PS)2以降、世界的規模の大ヒット商品は生まれていない。第2の創業にあたり、エレキ事業で“ソニーにしかできない商品”を生み出すことができるかが問われている。
(文=編集部)