政府の新型コロナウイルス分科会は10月23日、年末年始の感染対策の提言をまとめた。2021年は1月4日を仕事始めとする企業が多いため、年末年始の休暇の分散や祝日である11日までの休暇延長を促す。冬の再流行を懸念し、帰省や初詣での人出の集中を避け感染リスクを抑える。
提言は「年末年始の休暇に加えて、前後でまとまった休暇を取得すること」を国家公務員に奨励した。経済団体や地方自治体への呼びかけも要請した。一般的な年末年始休暇は20年12月29日(火)から21年1月3日(日)までの6日間。分科会では、12月28日(月)より前の25日(金)ごろから1月11日(月、成人の日、祝日)までを休暇とする案も出た。実に連続、18日間だ。
西村康稔経済財政・再生相は提言を踏まえ、経済団体や地方自治体に要請する。それに先立つ10月26日の記者会見で、要請には「1月11日までの休みとすることを含める」とした。その一方で、全業種での実施は難しいとの考えも示し「休みを分散して取るのが基本だ」と語った。「日本全体として取り組む必要がある」とも強調した。
これを受けて、経団連、日本商工会議所、経済同友会の経済3団体は会員企業に協力を呼び掛けた。経団連は10月27日付の文書で「各社の事情に応じて可能な範囲で有給休暇取得の促進や環境整備に取り組むよう」求めた。
文科相は正月休みの延長を学校に求めない
西村経済再生相が要請した年末年始休みの延長には政府内から反対の声が挙がった。
萩生田光一文部科学相は10月27日の閣議後の記者会見で、年末年始の学校の冬休みについて「文科省として延長を要請することは考えていない」と述べた。萩生田氏は4月からの長期休校の影響を踏まえて「感染対策を徹底しつつ、学びを保障することが重要だ」と指摘。夏休みに加えて、すでに冬休みの短縮を決めた学校もあることなどを念頭に「授業時間が足りず、現場の先生方に努力をいただいている。あえてこの時期に全国一斉の延長などを通知しない」と語った。
萩生田氏は西村氏からあらかじめ相談があったことを明かし「学校は無理だと伝えた」。「(学校の)設置者の判断で(休みを)延ばすなら、それは否定しない」と付け加えた。設置者とは各自治体の意味と思われる。
経済3団体は新春賀詞交歓会を開催
西村経済再生相は10月30日、経団連など経済3団体や全国知事会とのテレビ会議で年末年始の休暇取得を分散するよう協力を呼びかけた。「企業・業種の事情に応じた分担や交代など工夫してほしい」と訴えた。
経団連の古賀信行審議員会議長は「分散を図るためには休暇をくっつける措置が必要だと認識している」と答えた。経済同友会の桜田謙悟代表幹事は「国民の大半が一斉に同じ時期に休む慣行は再点検する必要がある」とした。日本商工会議所の三村明夫会頭は「業種・業態で対応が困難なところがある」としつつも、「政府、自治体の対応を参考にしたい」と含みを残した。
会談後、経団連の古賀信行氏は報道陣の取材に応じた。例年1月上旬に東京都内で行う経済界3団体の新春賀詞交歓会は開催する方針を明らかにした。首相、3団体のトップが出席する経済界、産業界にとっての新年のイベントである。今年は1月7日に開催した。とはいえ、例年通りの飲食を伴うパーティー形式ではなく着席方式とし、参加者についても人数を限定する。また、名称で「パーティー」は使用しない。
年末年始の休暇延長は企業経営者には寝耳に水の話だった。経済3団体は新春賀詞交歓会を開催することになったため、年末年始の休暇は企業の自主的な判断に委ねられた。
日立は休暇分散の求めに応じる
日立製作所は11月9日、年末年始の20年12月28日(月)~21年1月8日(金)までの期間中、社員に有給休暇の取得を推奨すると発表した。国内で勤務する日立グループの約15万人の従業員が対象となる。もともと5日間ある年末年始休暇に加え、有給休暇を使うことで最大17連休の取得も可能となる。
日立の中西宏明会長は経団連会長である。本来の年末年始休暇に加え、業務に支障がない範囲内で有給休暇取得を促し、政府や経団連が求める休暇分散の求めに応じる。東芝も、20年12月25日(金)~21年1月8日(金)を有給休暇取得の推奨日とする。国際石油開発帝石は12月28日(月)と21年1月4日(月)に特別休暇を付与し、12月26日(土)~21年1月4日(月)までを休暇とする。年末年始休暇は計10日になる。
“コロナ大臣”の西村経済再生相が求めた、祝日にあたる1月11日までの休暇延長は、どうやら幻で終わりそうだ。大山鳴動して何とやらである。
(文=編集部)