武田総務相、携帯会社を「異常」「欺いている」と中傷…菅政権、国民に料金プラン見直し要請
「政府が率先して国民に『携帯プランを見直せ』って呼び掛けるなんて異常だ」
ある携帯大手関係者は、こう肩を落とした。加藤勝信官房長官は1日午前の記者会見で、NTTドコモがメインブランドの引き下げに加え、サブブランドの新設も行うという日本経済新聞報道について問われ、以下のように答えた。
Q:携帯電話料金の引き下げに関して伺う。NTTドコモが携帯電話料金の値下げを行うと報じられている。携帯大手3社の対応が携帯大手3社の対応が出そろった形ですが、その評価に関して。また、主力ブランドか格安ブランドのどちらで値下げするか、対応が分かれた。これについての評価も。
A:携帯電話料金の低廉化については、国民の皆さんに高い関心があり、目に見える形で行われることが大事だということを申し上げてきたところであります。(中略)携帯電話料金については、10月27日に総務省からモバイル市場の公正な競争環境の整備に関する具体的な取り組みをまとめたアクションプランがすでに公表されております。複数のサブブランドで新料金プランが発表されて、失礼、同プランが公表されてから、複数のブランドで新料金プランが発表されており、また引き続き各事業者が料金の低廉化の成果を国民に実現していただけるような形で検討が進められていくことを期待しているところであります。
(中略)国民の皆さんにもぜひこの機会にご自身の料金プランを確認していただき、ご自身のニーズに合った料金プランや事業者の見直しをしていただくことをお願いしたいと思います。それから、そのサブブランドの話がありましたが、アクションプランを通じて公正競争環境の整備に向けた取り組みを進めてきており、その中で事業者間の乗り換えの円滑化を図っていくことが重要だと考えております。
で、現在そのメインブランドからサブブランドへの変更については同一事業者内の変更であっても乗り換えのハードルが高くなってる一方、サブブランドからメインブランドへの変更については手数料を全額無料とするといった割引特典が提供されている例もあると承知をしておりまして、料金プランだけではなくてそうした事業者間の乗り換えの円滑化やサブブランド間のプラン変更も含めて、議論していくことが必要だというふうに考えております。
Q:政府による料金の引き下げの要請に対し、KDDIの高橋社長が日経新聞のインタビューで「国に携帯料金を決める権利はない」と述べている。公共の電波を割り当てられた企業に対して、料金の国際的な水準を理由に政府が一定程度介入することを理解できるが、担当大臣が特定企業を名指ししたり、さらなる値下げ、値下げ水準に言及する行為は民間企業の萎縮を招くのではないか。
A:携帯電話については公共の電波を使って提供されているものであります。そうした中で、料金が不透明である、諸外国と比べて依然として高いとの指摘があるわけでありますから、政府としては事業者間で競争がしっかり働く仕組みを整備すること、これは政府の役割だと思っています。
競争の結果として、国民の皆様に目に見える形で低廉化の実感を得ていただくことを目指しているわけでありまして、事業者間の乗り換えの円滑など、まさに競争促進のための具体的な取り組みを講じていく、また対応してことは、まさに政府が果たすべき役割だと考えています。
引き続き政府としては、公正な競争環境の整備を通じて、国民・利用者にとって、安くてわかりやすくて納得感のある料金やサービスの早期の実現に努めていきたいと考えております。
とうとう菅義偉政権の愚劣さがここに極まったというしかない。官房長官が民間企業の事業について「料金プランや事業者の見直しをしていただくことをお願いしたい」と注文をつけるなど、異例を通り越して異常だ。本サイトでも繰り返し書いている通り、携帯電話料金は認可制ではなく、裁量は事業者にある。それについて、所管大臣の武田良太総務相では飽き足らず、政府全体のスポークスマンである官房長官まで引っ張り出してゴリ押しするとは呆れて物が言えない。私は前回の記事で日本が市場経済を重んじる資本主義国家だと書いたが、どうやらそれは違ったらしい。
わかりやすさのために架空の例を出すと、トランプ米大統領が米国の携帯キャリアに対して「携帯電話料金を下げないと認可を取り消す!」「ぶっつぶす!」などとすごんでいる様子が連日報道されたとしたら、どう思うだろうか。携帯キャリアはお気の毒ということ以上に「何でそこまでたかが携帯料金にこだわるの?」と異常に感じると思う。そういう状況に日本は陥っているということだ。
武田総務相、再び恫喝
さて、武田総務相は1日の記者会見でも相変わらず、十八番の恫喝を披露した(動画はこちら/詳細はこちら)。実際に見ていこう。
Q:携帯電話料金について伺います。NTTドコモが本体ブランドで大容量プランを中心に料金引下げを検討しているほか、新たなブランドを立ちあげて月20ギガバイトで3,000円前後のプランの導入を検討しているとの報道があります。現時点での大臣の期待と受け止めをお願いいたします。
A:それぞれの経営的戦略に基づいた経営判断だと思いますので、個別のコメントは差し控えさせていただきたいと思いますけれども、いずれにしましても、コロナ禍において家計の負担が重くのしかかっている通信料を何とか皆さんに対して理解を求め、国民の負担を軽減するために努力をしていただきたい、ただそれに尽きると思います。国民が、軽減された実感を味わっていただけるような環境を作っていただきたい。このことを切にお願いしたい次第であります。
Q: 先日27日金曜日の会見の中で、乗換えの障壁、具体的な金額を示されました。これは中途解約金やMNPの手数料だと理解していますが、残された課題はありつつも、是正される政策というのは、もう既に走っているものだと思います。これをあえて先般紹介された意図や背景を改めて教えていただけないでしょうか。
A: 走っている政策だと思いますか。
Q: MNPの手数料は……。
A:それ自体が、ある意味「まやかし」なんです。9,500円の中途解約金をやめるという、これは、2019年の電気通信事業法の改正以前の方には、この負担は軽減されてないんです。それ以降の新規契約の人しか適用されないんです。それ以前に契約した人は何の特典もないんです。そんなのって、あり得ますか。
Q:その点は、課題として当時残されていたと。
A:それを全然どこの会社も言わないじゃないですか。本当の実態を隠して、表のきれい事ばかりで国民を欺いているじゃないですか。
Q:残された課題に早く着手したいということで
A:もちろん、そこのところをきちっとやって初めて、こうした制度改革に踏み切ったと言えると思うんです。ほとんどの方がその恩恵にあずかれない制度は、全く改革にはなってないと私は考えています。
Q:携帯料金引下げについて教えていただきたいのですが、競争政策の結果というよりも、大臣が求められているのは、公共性や社会への還元というところを唱えて事業者の努力を求められていると思うのですが、制度が伴わない料金引下げは、結果的に、短期的にはユーザーにとってはすごく魅力的でも、中長期的に見ると、例えば、MVNOや新規参入の楽天モバイルにとっては非常に影響が大きいと思えるんですが、結果、大手3社の寡占化をまた後押ししかねない懸念もあるんですけれども、このあたりの考え方、改めて整理して教えていただけないでしょうか。
A:大手3社の寡占化を後押しするわけがないじゃないですか。この異常な状況を正常化するために、正常な環境を作ろうと我々努力しているんです。これをやったらMVNOの皆さん方が犠牲になるのではないかと。とんでもないです。すべての移行というか、乗換えのハードルを取っ払うように我々努力しているのですから。その一番恩恵を被るのはMVNOの皆さんなんです。一番の恩恵はそこにくると思いますよ。ですから、それによって初めて公正な市場競争が生まれる。
私は政治や行政の力で値段を上げ下げすることは適切ではないと思う。我々はとにかく、当たり前の競争原理が働く市場を作る環境をいかにして作るか。そのことをずっと訴え続けたわけであって、そのためには、乗換えの、国民にわかりにくい、目に見えない障害を取っ払うことが、一番その近道だと判断しているわけですから、MVNOの皆さんにとっては一番恩恵にあずかる道だと確信をいたしております。
一つ一つ検証していこう。まず、メインブランドからサブブランドへの乗り換えについてハードルについてであるが、武田氏は記者が指摘したMNPの手数料を携帯各社が廃止する方向で調整していることが決まっていることは「走っている政策だと思いますか」と凄んで無視し、中途解約金に話題を無理矢理絞った上で「まやかし」「本当の実態を隠して、表のきれい事ばかりで国民を欺いている」と論難した。
武田氏は中途解約金が9500円かかると主張するが、「これはあくまで満額かかった場合で、現在各キャリアともキャンペーンで乗り換え手数料が減額されたり、無料になることが多い。来年度には解約金自体を無料にする動きもあり、極論を持ち出してきたと言っていい」(冒頭の携帯大手関係者)。
続いて、制度が伴わない値下げはMVNOや楽天モバイルに中長期的にはマイナスで大手3社の寡占化を招くとの記者からの質問には「大手3社の寡占化を後押しするわけがない」「乗り換えのハードルを取っ払うことで一番恩恵を被るのはMVNOの皆さん」と反論している。ここまでくると反論するのもバカバカしいが、前回の記事でも指摘した通り、メインブランドの直接の値下げと、サブブランド設立による乗り換えの促進は両立しない。楽天が参入したにもかかわらず、ハシゴを外された状態になっていることもすでに指摘した通りだ。
最後の「私は政治や行政の力で値段を上げ下げすることは適切ではないと思う」との発言に至っては、もはや支離滅裂としか思えない。
菅首相、武田氏は中学生のヤンキー
武田氏は会見前に菅首相と官邸で話し、値下げの方針を話し合った上で、菅首相から「コロナ禍における重要な政策ですから、しっかりと結論を出してくれということで承ってまいりました」という。
菅首相は携帯料金値下げをコロナ禍における重要政策とするが、企業業績に直接手を突っ込むことで利益をはき出させ、一人当たり一カ月でせいぜい数千円の余裕を生むことにどれだけの効果があるのかはなはだ疑問だ。むしろ、「これまで中国は共産党支配でカントリーリスクがある」と主張してきた日本にこそ、時の政権によって市場経済がぶちこわされるリスクがあると国際的に示してしまったことをはじめ、圧倒的にマイナスのほうが大きいだろう。記者会見の質問でもあるように、大手3社の寡占化が強まり、乗り換えが進まないことは間違いないだろうから、その結果としては企業をいじめただけで終わる可能性が非常に高い。
はっきりと言えば、菅氏も武田氏もあまりに考えが浅く、中学生のヤンキーのようである。菅氏は自著『政治家の覚悟』(文藝春秋社)で何度も官僚などに「強く申し入れた」「強く要望した」ということを自慢げに書いているが、ゴリ押ししか能が無いのでは、日本のような民主主義社会のリーダーとしては失格である。
民主主義社会とは「手続き」である。利害や考えが違う相手をなんとかして説得して、その上で結論を出していく。あれこれ独裁できれば判断のスピードは速いかもしれないが、所詮リーダーが誤れば社会全体が沈む危うさのほうが大きい。現に、事実上の野党不在の自民党一強の下で、菅氏が独裁を振るえば、これほど愚かな結果を招くことはここまで書いてきた通りである。そういうことすら、最近はわざわざ書かないとおエラいさんにはわからなくなったらしい。
菅首相や武田総務相をはじめ、日本のリーダーとされる人間の多くは都合が悪いことを理詰めで押されるとキレる。怒鳴る。しっかり論理的に考える人間ではなく、単純に声が大きい人間になびきがちな社会の特質がはっきり表れているように思う。
筆者はこういう菅首相のような「叩き上げ」をムダに持ち上げる傾向が日本社会にあるように思うが、勉強、教養や学問などに敬意をあまりに払ってこなかったツケが今まわってきているように思う。叩き上げの現場主義も重要かもしれないが、学ばないとわからないことはある。経験だけでは不十分である。
日本社会ではバブル世代以降は特に真面目に勉強することや教養を積むことがないがしろにされ、「大学は遊ぶところ」「大学の勉強は役に立たない」という認識が定着した。総務省が平成28年に実施した社会生活基本調査によると、日本人就業者の学習、自己啓発のための時間は1日6分。驚くべき結果だが、そういうアホなオトナが作り上げてきた結果が安倍政権であり菅政権である。安倍氏もよくキレていたことも思い返してほしい。教養や知性の重要性は今一度見直されるべきだろう。そうしなければ、日本のリーダーはすべて「量産型スガ」ばかりになるだろう。
(文=松岡久蔵/ジャーナリスト)