家具・インテリア大手、ニトリホールディングス(HD)の業績は巣ごもり需要で好調だ。2021年2月期の連結決算は、売上高は前期比11%増の7169億円、営業利益は28%増の1376億円。34期連続の増収増益を達成した。純利益は29%増の921億円と過去最高益となった。2ケタ増益は17年2月期以来。年間配当は前期比15円増え123円とした。
新型コロナウイルスの感染拡大で在宅勤務が増え、仕事用の机や椅子、調理器具などの販売が伸びた。既存店の客数は13%増。自社のネット通販も6割程度伸長した。昨年の政府の1人10万円の定額給付金の効果で、大型家具の買い替え需要が盛り上がった。
22年2月期は、売上高は前期比22%増の8736億円、営業利益は5%増の1439億円と35期連続の増収増益を見込む。純利益は7%増の986億円の見通し。年間配当は1株当たり140円と17円の増配を予定している。18期連続の増配となる。
20年12月、ホームセンター大手、島忠へのTOB(株式公開買い付け)が完了し、今年1月、子会社にした。今期は島忠の売り上げと利益が上乗せされるため、島忠との統合効果を数字で具体的に示せるかどうかにかかる。既存事業はコロナ特需の反動減を見込むほか、海外で生産した商品の粗利益率が為替レートの影響で悪化する。
仕入れ商品が中心の島忠は、PB(プライベートブランド)が9割を占めるニトリと比べて粗利益率が20ポイント以上低い。島忠との統合でニトリHD全体の営業利益率は3ポイント低下する。
似鳥昭雄会長の決算会見は「島忠とのシナジー創出に向けた道筋についての説明」に費やされた。「島忠の家具部門は赤字」と指摘し、「島忠で扱う商品についてPBを拡充して利益率を改善させる。島忠の売上高経常利益率を5年で、およそ2倍の12%(20年8月期は6.6%)に引き上げる」方針を打ち出した。
この実現のために6月、島忠との共同店舗を出す。島忠の既存店舗を改装し、2階部分にニトリの家具の専門コーナーを設ける。まず、関東地区の店舗から始め、全国に広げる。共同店舗が経営統合後の試金石となる。
ファッションの次はファミレスに進出
今年3月、ニトリHDはファミリーレストラン事業に参入した。似鳥会長は「衣食住の事業を展開したい」と考えており、ファミレス事業にも進出した。
東京・足立区の「ニトリ梅島ショッピングセンター」内で営業していた飲食店チェーンの建物に、ニトリの子会社ニトリパブリック(札幌市)が居抜きで「ニトリダイニング みんなのグリル」の第1号店を開店した。広さは約130平方メートル、座席数は約50席だ。
看板メニューのチキンステーキは税込み500円。お手軽価格でニトリを訪れたファミリー層の開拓を狙う。4月27日、神奈川県のニトリモール相模原の駐車場に2号店を開く。2店の営業成績を見て今後の展開を決める。
2019年、アパレルブランド「N+(Nプラス)」が始動した。40代以上の中高年の女性をターゲットにしており、価格帯は2000~5000円のものが多い。ニトリの家具・インテリア用品と同じで「おしゃれで機能性に優れた商品」を提供している。
「N+」は、現在は17店舗を展開。ららぽーとやイオンモールといった大型商業施設に出店している。昨年の売れ筋アイテムは羽毛入りパンツで5000本売れた。大型のショッピングセンターより、ニトリの店内にインナーショップ形式で出店している店舗のほうが売り上げが順調に推移しているという。22年2月期は5店舗を新規に出店する。メンズ商品の開発は視野に入れているものの、現段階で具体的な計画はないという。
株式市場は拡大路線に懸念抱く
似鳥会長は3月31日の決算説明会で、22年2月期の35期連続の増収増益に執念をみせた。偉業ともいえる大記録であることは間違いないが、似鳥会長の“熱量”に比べて株式市場の反応は冷ややかなものだった。一夜明けた4月1日の株価は一時、前日比5%安の2万355円まで売られた。買収した島忠との統合効果に懸念が広がったからだ。
ニトリHDには、島忠のような大きな会社を買収した経験がない。それだけに、統合がうまくいくかどうかを懸念する向きが多いことを示している。島忠との統合効果が上がるかどうかが、35期連続増収増益の決め手となる。
「これからはまったくの異業種でも、流通業なら積極的にM&Aを含めて考えたい。可能性があるならどんどんやる」
似鳥会長はいっそうの拡大路線を敷くと明言した。婦人服の「N+」に続いて、ファミリーレストランに進出するなど事業意欲は旺盛だ。だが、異業種進出にアクセルを踏み込む似鳥会長の姿に「2032年に3000店、売上高3兆円」の目標達成への焦りを感じ取る向きは少なくない。
決算説明会では外資系証券のアナリストから「本業に経営資源を集中してほしい」と率直な意見が出た。22年2月期に35期連続の増収増益を達成して、投資家の懸念を払拭しなければならない。
(文=編集部)