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「相馬勝の国際情勢インテリジェンス」

中国当局、馬雲氏設立の大学の入学者募集を停止…民間教育産業への規制を強化

取材・文=相馬勝/ジャーナリスト
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サイト「Alibaba.com」より

 中国の電子商取引最大手アリババグループの創業者、馬雲(ジャック・マー)氏が2015年に創設した「湖畔大学」が、9月開始予定の今年度の入学希望者の募集を中止したことが明らかになった。すでに、校門前に置かれている石に刻まれた「湖畔大学」の「大学」の上にペンキが塗られ、その名称も「湖畔創造研究中心(センター)」と変更された。

 同大は馬氏が中心となって立ち上げた起業家育成専門のビジネススクールで、馬氏が初代学長を務めるほどの力の入れようだったが、ロイターは「中国当局が馬氏の経済界への影響力拡大を懸念した」と伝えている。湖畔大学の名称は、アリババの本社がある浙江省杭州市の風光明媚な景勝地「西湖」にちなんだもので、大学が西湖の湖畔に建設されたためだ。同大は馬氏のほか、多くのトップビジネスパーソンが教壇に立ち、指導と講義を含む3年間のプログラムを通じて、次世代の社会的意識を持つ起業家を育成することを大学の理念として掲げていた。

 しかし、入学資格は厳しく、入学時にはすでに3年間の実業経験をもち、3000万元(約5億円)以上の年収などの条件を満たした者だけ対象となり、授業料は3年間で28万元(約4700万円)であり、年間30人程度しか受け入れていなかった。馬氏は大学創設5年目の2020年の入学式で、「湖畔大学には5年間で1万1788人の入学希望者が応募してきたが、入学した学生はたったの254人で、合格率はわずか2%だった。これはハーバード大学やスタンフォード大学よりもはるかに難しい、高い競争率だ」などと述べて、同大に入学する人材の優秀さを豪語するとともに、同大を「300年続く教育機関にしたい」と意気込んでいた。

 しかし、中国当局が昨年11月、電子決済サービス「アリペイ」を運営するアント・グループ(アリババ傘下)の株式上場を中止したことで、局面が変わったようだ。その後、アリババは4月、独禁法違反で過去最大となる182億2800万元(約3100億円)の罰金を徴収されるなど、事業継続にも大きな影響が出ていた。事業継続どころか、馬氏は一時軟禁状態となり、当局の監視下に置かれるなど、身の危険も差し迫まる状況に陥っていたとみられる。

 英経済紙「フィナンシャル・タイムズ」は同大学が当局に狙われた主な理由の1つとして、中国のトップ起業家らが中国共産党ではなく、馬氏の目標達成に協力することを懸念したためだと報じるとともに、消息筋の話として「当局は馬氏が大学を信者の育成や、影響力拡大のための道具として利用することを決して許さないだろう。馬氏のカリスマ性を徹底的に貶める策略の一環だ」と指摘している。

 これを裏付けるように、中国政府は最近、教育産業への規制強化を狙う「民間教育促進法」改正案を発表し、「民間の私立学校は当局の指導を遵守しなければならない」などとする条項を付け加えている。

 馬氏は5月10日、浙江省杭州市のグループ本社で行われた創業17周年の記念イベントに参加した。馬氏がリモートではなく、多くの人々が集まっているグループの行事に直接参加するのは、昨年11月のアント・グループの株式上場中止以来、初めてだけに、ようやく、馬氏の復活の兆しが見えたかと思われたのもつかの間、ここにきて本業には関係のない「湖畔大学」の運営にまで当局が口をはさんできたことで、馬氏は依然として危機的な状況にいることが実証されたかたちだ。

(取材・文=相馬勝/ジャーナリスト)

●相馬勝/ジャーナリスト

1956年、青森県生まれ。東京外国語大学中国学科卒業。産経新聞外信部記者、次長、香港支局長、米ジョージワシントン大学東アジア研究所でフルブライト研究員、米ハーバード大学でニーマン特別ジャーナリズム研究員を経て、2010年6月末で産経新聞社を退社し現在ジャーナリスト。著書は「中国共産党に消された人々」(小学館刊=小学館ノンフィクション大賞優秀賞受賞作品)、「中国軍300万人次の戦争」(講談社)、「ハーバード大学で日本はこう教えられている」(新潮社刊)、「習近平の『反日計画』―中国『機密文書』に記された危険な野望」(小学館刊)など多数。

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