外食産業でも数少ない成長市場の回転寿司業界が、曲がり角を迎えている。帝国データバンクの調査によると、2020年度の回転寿司市場(事業者売上高ベース)は前年度から約3%減少の7200億円前後にとどまり、右肩上がりの成長から一転、初の縮小に転じると見込まれている。回転寿司業界の現状について、帝国データバンクデータソリューション企画部情報統括課副主任の飯島大介氏に話を聞いた。
大手で増収はスシローとくら寿司のみ
――これまで、回転寿司業界は積極的な出店やファミリー層の囲い込みなどで成長してきました。
飯島大介氏(以下、飯島) ファミリー層の囲い込みに加え、近年は増加するインバウンド需要にも後押しされ、19年度の市場規模は過去最高の7400億円台に達するなど、拡大傾向にありました。コロナ禍で外食産業全体が逆風に晒された20年度も、他の業態に先駆けて店内飲食からテイクアウトに転換を図り、ウーバーイーツなど宅配サービスの利用拡大を進めてきました。
昨秋以降は「Go To イート」にも助けられ、コロナ禍でも手軽に食べられるメニューとして、回転寿司は消費者に支持されました。こうした外部環境から、縮小する外食産業の中でも回転寿司業界は例外として、新型コロナの影響は比較的限定的なものにとどまると考えられてきました。
――しかし、やはりコロナ不況に襲われたということですね。
飯島 最初の緊急事態宣言によって店舗の時短営業や休業を余儀なくされたことが影響し、一時期は売上高が前年同期比7割減となる企業も出ました。また、昨年後半はテイクアウトやデリバリーに他の業態が相次いで参入したことで、消費者の選択肢が次第に増えた点も影響しました。特に地方の独立系チェーン店では、移動自粛の影響で、本来なら帰省客で賑わうはずだったお盆や年末年始の「まとめ買い」需要が消失したことも大きな痛手となったとみられます。
9月以降はGo To イートの恩恵で巻き返しの動きもありましたが、年度を通じて見ると、4~6月の落ち込みを取り戻すには至らなかったという形です。
――大手チェーン店の動向はいかがですか。
飯島 上場4社のうち、20年度の業績が前年を上回っているのはスシローとくら寿司のみです。最大手のスシロー(現・FOOD & LIFE COMPANIES)は客単価の高いテイクアウトが順調に推移したこともあって、20年度9月期で過去最高の売り上げを記録。くら寿司の同年度10月期連結決算は減収、初の最終赤字に転じましたが、これは主にロックダウンの影響を大きく受けた海外事業の急減速が要因です。国内事業に限れば、売上高は前期比0.5%増で過去最高となるなど好調でした。「鬼滅の刃」とのコラボが話題となるなど、集客の回復に成功した点も大きいです。
一方、かっぱ寿司と元気寿司は、いずれも21年3月期で減収・赤字決算となりました。両社ともGo To イート以降は売り上げが回復しましたが、12月以降の“第3波”、再度発出された緊急事態宣言などの影響を受けました。
――特に地方の独立系チェーン店は厳しいイメージですが。
飯島 16年には首都圏に店舗を展開した「かいおう」、18年には神奈川県を地盤とする「ジャンボおしどり寿司」の運営会社(当時)がそれぞれ経営破綻していますが、最近は目立った大型倒産の発生はありません。確かに大手と比べてもコロナ禍の影響は受けていますが、中堅10社の業績(予想を含む)を見ると、売り上げの減少幅は平均で1割超にとどまり、最大でも約2割の減収となっています。
――回転寿司業界の今後の動向については、どう見ていますか。
飯島 たとえば、スシローは21年中に持ち帰り専門店を10店出店すると発表しました。また、都心などへ積極的に出店し、21年度決算では前期比22.3%の増収を見込んでいます。くら寿司は入店から会計まで従業員と接触しない非接触型の店舗を増やすなど、コロナ禍でのニーズに沿った店舗開発を進めています。
初の縮小に転じるとはいえ、回転寿司市場は売上高7000億円台をキープしており、厳しい淘汰が起きるほどの状況ではありません。今後も、各社はテイクアウト需要の伸長をベースに、新たな戦略を打ち出していくことでしょう。ただ、最近ではコロナ禍の「孤食」ニーズをとらえ、おひとりさま需要などを取り込んだ焼肉業態が新たに台頭するなど、外食産業全体で変化が見られる状況だけに、今後の各社の戦略は注目に値するでしょう。
(構成=長井雄一朗/ライター)