「今回の不適切かつあるまじき行為は、アスリートへの敬意や称賛、感染予防への配慮が感じられず、大変残念に思う。河村市長には責任あるリーダーとしての行動を切に願う」
トヨタ自動車は河村たかし名古屋市長の行為に対し、上記のように異例の抗議コメントを出した。
発端は、東京オリンピック(五輪)ソフトボール日本代表の後藤希友選手(名古屋市出身・トヨタ自動車)の表敬訪問を受けた河村市長が4日、後藤選手の金メダルを無断でかじったことだった。河村市長は後藤選手にメダルを首にかけてもらうと突如、マスクを外してメダルを噛み、取材に詰めかけたメディア各社にカメラ目線を向けたのだ。この模様が地元テレビ局などで報じられると批判が殺到し、“炎上状態”になった。河村市長の公式Twitterアカウントには以下のように批判が続々と寄せられている。
「名古屋市民としてあなたが市長なんて本当に恥ずかしい。あなたが獲得した金メダルじゃないですよ。何考えてるんですか。選手の血と汗と涙の滲むような努力の結晶に断りもなく噛むとか何してくれてるんですか。新しいメダルと交換したって、その時の感動は返ってこない。本当に酷い」(原文ママ、以下同)
「選手のメダルをかじるだなんて、非常識すぎて言葉も出ません。人としてどうかと思います」
河村氏、市長ではなく個人として「最大の愛情表現」と弁明
そうした情勢を受け、河村市長は自身の事務所を通じて「最大の愛情表現だった。金メダル獲得は憧れだった。迷惑をかけているのであればごめんなさい」というコメントを発表したのだが、「迷惑をかけているのであれば」などという部分に対し、「悪いことをしていないという本音が漏れている」などとさらに批判をまねていた。
同市広報課の担当者は、このコメントについて「名古屋市・市長としてのコメントではなく、あくまで河村市長個人、ご自身のコメントです」と話す。
後藤選手を全社・全グループ一丸となって応援してきたというトヨタ自動車関係者は一連の河村市長の不可解な言動に次のように不快感をにじませる。
「市長でもない人に対し、金メダリストが表敬訪問などしますか。個人としてではなく、名古屋市のトップとして、なぜあのようなことをしたのかについてお話が伺いたいですね。名古屋市と弊社の間には、いろいろな込み入った事情もあります。いずれにせよ、河村氏が説明責任を欠いていることは間違いなく、社として不快感を表明することになったのではないでしょうか」
トヨタ社員の“親心”を踏みにじる行為
後藤選手は2019年にトヨタ自動車のソフトボールチームに入団。現在はトヨタ工業学園に勤務している。前出のトヨタ関係者は次のように語った。
「トヨタ工業学園は職業訓練学校で、後藤選手は学生の管理業務を担当しています。自分の練習のみならず、勤務が終わったあと学園のソフトボールクラブの指導もしています。朗らかで実直、かつスピード感のある仕事ぶりがグループ内では広く知られていて、社内広報誌で取り上げられることはもちろん、周囲の同僚からも愛されています。
今回の河村市長の一件は、そんな社内の後藤選手に対する“親心”を踏みにじるような行いです。河村市長は、メディアへの露出に異常にこだわるところがありますよね。後藤選手の頑張りや努力の結晶である金メダルを、市長自身のPRにつなげようという思惑がにじみ出ていて、ただただ不快です」
(文=編集部)