9月2日の東京株式市場でJR西日本株が一時、前日比991円(16%)安の5020円まで下げ、年初来安値を更新した。1996年10月の上場以来、最大の1日の下落率となった。前日(9月1日)に発表した大規模な公募増資を嫌気し、売り注文が広がった。終値は803円(13%)安の5208円だった。売買高は前日比13倍の1177万4300株と大幅に増えた。
他の鉄道株も公募増資に踏み切るのではとの連想から、JR東日本は一時、前日比640円(9%)安の6780円、JR東海も990円(6%)安の1万5160円まで下げた。私鉄大手でも西武ホールディングス(HD)が96円(7%)安の1244円、小田急電鉄は113円(4%)安の2433円と鉄道株全体に下げが波及した。
JR西日本は発行済み株式総数の3割弱に相当する最大5266万株を新たに発行して2786億円の資金を調達する。9月13日、発行価格を1株4996円に決定した。13日の終値から3%ディスカウントした水準だ。
増資の発表資料でJR西日本は、2022年3月期は2期連続の連結最終赤字を見込んでいる。新型コロナウイルス感染症の拡大の影響で非常に厳しい経営環境が続いているなかで、「早期に財務体質の改善を図ることが必要と考え、資金調達を決断した」と説明した。
25年の大阪・関西万博の開催や、大阪に総合型リゾート(IR)を誘致する計画があることを踏まえて大阪駅周辺の再開発に力を入れる。2786億円のうちから700億円を大阪駅西側エリアの再開発に充てる。1000億円は運行の効率化や新規車両の投入など、設備投資に回し、残りの1000億円で長期債務を返済する。
コロナ禍による鉄道の利用客の落ち込みなどで21年3月期に2332億円の最終赤字に転落した。22年3月期の第1四半期(21年4~6月期)も320億円の最終赤字で、通期でも1165億円の赤字を予想している。自己資本比率は20年3月末に34.1%だったが、今年6月末で22.9%まで低下した。
その後、9月21日に5001円まで下げ、10月8日の終値は5412円(前日比67円高)だった。関東の地鉄株は10月7日に小田急電鉄が2405円、京王電鉄は5510円と年初来安値を更新した。
アナリストが公募増資を“サプライズ”と感じた理由
それでは、なぜJR西日本の公募増資が“ウエストショック”をもたらしたのか。
JPモルガン証券のアナリストは「JR西日本の公募増資は想定外だった。他社においても公募増資があるのではとの思惑が広がっている」と語る。東海東京調査センターのアナリストは「鉄道株はこれまでエクイティファイナンス(公募増資などによる株式市場からの資金調達)の必要性や可能性は強く意識されなかったため、JR西日本の発表はサプライズだった」とコメントした。
アナリストの評価は手厳しい。鉄道各社は鉄道以外の資産があるため、エクイティファイナンに頼らなくても、手持ち資産の売却でキャッシュの創出や自己資本の改善が可能だからだろう。これまでのように銀行からの借り入れや社債の発行ではなく公募増資に踏み切る理由が判然としない、というのが共通認識のようなのである。
日経平均株価が上昇していることが公募増資を決めた背景にあるのではないのか、と株式市場の専門家はみているが、その後、9月後半から中国恒大集団のデフォルト(債務不履行)懸念などで、株価は8日連続して下げた。JR西日本も当然、下げた。
発行済み株式数が3割弱増えると1株当たりの利益が稀薄になる。既存株主にとって時価発行増資はデメリットでしかない。JR西日本はこれまで以上に、企業価値の向上を株主に具体的な数字で示す必要に迫られている。
JR東日本は首都圏、JR東海は東海道新幹線というドル箱を持っている。これに対して、JR西日本は不採算の地方路線を多数抱えている。JR九州、四国、北海道はもっと深刻だが、JR西日本も打開策を見いだすのが難しい構造的な弱点がある。
関西圏は私鉄が強く、JR西日本は阪急阪神ホールディングス(阪急電鉄、阪神電気鉄道)、近鉄グループホールディングス(近鉄)との激しい競争にさらされている。南海電気鉄道、京阪ホールディングス(京阪電気鉄道)、阪急系の神戸電鉄という私鉄の包囲網もある。JR西日本は今回の増資で利益の向上を求められるわけで、不採算路線の行方にも影響を及ぼすことになる。
沿線の住民にとって、生活路線の廃止は死活問題になる。JR西日本は不採算路線の廃止に、どのような道筋をつけるのだろうか。公募増資の結果、待ったなしの解答を求められることになった。
(文=編集部)