カシオ計算機の「G-SHOCK」は1983年の発売以降、世界中で愛され、累計出荷個数が1億3000万個を超すロングセラー商品となっている。そんなG-SHOCKに関して最近、興味深い2つの記事を目にした。以下、G-SHOCKに対して、ブランド価値の継続という視点より検討したい。
マーケティングにおいて、ブランド研究はもっとも活発に取り組まれているテーマのひとつといえる。しかしながら、多くの人が興味を持つであろう”新規ブランドの構築”というテーマは、一般化が極めて難しいからか、あまり見かけない印象である。
一方、”既存ブランドの価値の評価やマネジメント”といったテーマに関しては、多くの研究が見られる。たとえば、ブランドのマネジメントに関して、「企業ブランドと製品ブランドを、いかに組み合わせて管理すべきか」という問題は、長きにわたり議論が繰り返されている。
伝統的に日本企業は企業ブランドを、米国企業は製品ブランドを重視する傾向が強いといわれる。トヨタ自動車ならば「トヨタ」という社名を、GMの場合は「キャデラック」や「シボレー」といった製品(群)名を重視するということである。キャデラックやシボレーにおいては、クルマのエンブレムすら独自のものとなっている。
もちろん、こうしたことは傾向にすぎず、トヨタはレクサスを米国市場に投入する際、トヨタという企業ブランドをまったくアピールしていない。もっとも、米国市場では大衆車というイメージが強いトヨタブランドという背景のもと、高級車ブランドとしてレクサスを立ち上げたため、当然ではあるが。
また、既存ブランドの活用にかかわるブランド・エクステンション(ブランド拡張)というテーマも、長きにわたり議論が続いている。たとえば、キリンビールの「一番搾り」というブランドは、「黒生」「糖質ゼロ」など7つの商品にまで拡張されている。強い既存ブランドの拡張は消費者に大きな安心感をもたらし、さらに新規ブランドの構築よりも低コストで済む場合が多い。
一方、何かひとつの商品に問題が生じた場合、そうした影響はブランド全体に及ぶなど、デメリットも存在する。
また、仮に強いブランドを構築できたとしても、競争が激化する現代の市場において、そうしたブランド価値をいかに維持していくのか、ということも興味深いテーマである。たとえば、一時期大きな話題となったルイ・ヴィトンと村上隆氏とのコラボは、売上の拡大よりもブランドを陳腐化させないという狙いのほうが強かったように思われる。
G-SHOCK「復活サービス」
10月5日付日本経済新聞によると、カシオはG-SHOCKの過去モデルを修理する「復活サービス」を開始するとのこと。「DW-5000C」や「DW-5600C」など、廃盤で保守サービスも終わっている人気モデル8機種が対象となる。サービス内容はべゼル・バンド・電池の交換であり、料金は1万560円となっている。修理を通じて、過去モデルの保有者情報などのデータを集め、ファンとの関係性強化を図る狙いがあるようだ。
また、10月14日付カシオ計算機ニュースリリースによると、G-SHOCKのスクエアデザイン5600シリーズをベースに、パーツを組み合わせることで約190万通りから自分好みのG-SHOCKがつくれるカスタマイズサービス「MY G-SHOCK」を、10月20日より自社サイトにて開始するとのこと。自分好みのG-SHOCKがつくれるだけでなく、プレゼントとしての需要も見込んでいるようだ。料金は1万5400円~となっており、注文から3~5週間程度で入手できる
ブランドを陳腐化させない取り組みとして、一般には継続的な広告展開、新製品の投入、イベントの開催などが盛んに行われている。しかし、こうした取り組みは表層的で、一過性に終わるケースが少なくない。
一方、上記のG-SHOCKの取り組みは派手さには欠けるかもしれないが、一人ひとりの顧客との関係性を構築・維持・強化する上で極めて有効である。真のブランド価値の継続は、こうした地道な取り組みの積み重ねこそが重要なはずだ。
(文=大﨑孝徳/神奈川大学経営学部国際経営学科教授)
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