アウトドアグッズのスノーピークの業績が好調だ。8月に発表された、連結の2021年12月期 第2四半期決算短信を見ても、売上高は116億7300万円で前年同期比77.6%増、営業利益も16億1300万円で同513.5%と大きく回復した。コロナ禍前の一昨年に近い水準まで戻している。
コロナで外出が規制されたり旅行に行かなくなったりと、人の移動が大きく減った20年と比べてややマシになったとはいえ、21年に入っても依然として人の移動が制限されていたことを考慮に入れると、スノーピークの業績、特に営業利益の増加は目立つ。
スノーピークのビジネスモデルは、テントや寝袋、調理グッズなど、キャンプグッズの企画開発、製造、販売だ。自社でも店舗を構えて小売りをしていることもあり、アパレル業界における、SPA(Specialty store retailer of Private label Apparel)に、一見似ているように見える。
しかし、SPAのビジネスモデルをとるアパレル業界は、このコロナ禍での人の移動減少や巣ごもり消費を受けて、打撃を受けている企業も多い。そうしたなかで、なぜスノーピークが好調を持続しているのかを、ポジショニングと体験型マーケティングの視点で考えてみたい。
ロイヤルユーザーを獲得
スノーピークのファンは「高くてもいいもの」というブランドイメージを持っている。競合他社よりも少し高めの価格設定をしていることもあり、高級なものというイメージがあるうえに、品揃えの多さ、製品の質の高さ、接客の良さが、ファンから高い評価を得ているのだ。
製品の質だけではなく、ユーザーが商品を買うときの店員の親切な受け答え、おすすめの的確さといった「良質な顧客体験」は、ファンをロイヤルユーザーにする。この層がリピーターとしてさまざまな種類のキャンプグッズを購入することで売り上げが立っていく。
キャンプが趣味の人は、「状況によって使い分けられるテントを5種類用意してある」とか、寝袋やタープと呼ばれる大きな日除け、バーベキュー用の調理器具などなど、幅広いグッズを購入する。私の友人で、自宅の寝室丸ごとキャンプグッズという強者もいる。
こうやってみていくと、やはりキャンプ好きにとって、グッズを買うこと、揃えることに対するニーズには際限なく、一人ひとりの入れ込み具合が大きい業界に見て取れる。
一方で、キャンプの市場も拡大している。キャンプは密にならない空間でやれること、家族やソロキャンプなど少人数で行けるということもあり、キャンプ人口が広がっている。さらに、有名芸能人もキャンプ用に山を買ったとか、YouTubeにソロキャンプ動画を投稿するといったことがネットニュースでも話題になっている。
市場が拡大するなかで、スノーピークはコールマンなどの直接競合と比べて、「高いけれども質の高い良質の製品とサービス」だと認識されていることで、市場で優位なポジションに陣取っているのだ。
ランドステーション
また、スノーピークが現在取り組んでいる新しい形の「顧客接点」の広げ方とその内容に注目をしたい。
スノーピークは自社製品の物販だけではなく、飲食店を併設している店舗や、ストアを併設しているキャンプ場を運営している。なかでもおもしろいのが、東京、長野、京都にある体験型複合施設ランドステーションという業態の店舗だ。
長野のランドステーションでは、物販の直営店に加え、レストランやカフェ、観光案内所も併設している。さらにマルシェも開催され、宿泊ができるプランも用意されている。
原宿店では「土地に深く根づく、⼈⽣と野遊びの案内所」というコンセプトで、朝日酒造とスノーピークが共同開発した日本酒「久保田 雪峰」「爽醸 久保田 雪峰」を販売している。
この事業のコンセプトは、キャンプグッズを売るということではなく、キャンプを通して楽しむ「充実した生活のサポート」を提供することなのだ。ホームページには、この事業コンセプトが「衣食住働遊」とシンプルにまとめられている。
こうなってくると、キャンプビギナーやキャンプ未体験のアウトドア好きの層も、「同じアウトドアで楽しむならスノーピークのランドステーションに行こう」という気になる。スノーピークでは、「秋の野遊び始めよう」というコンセプトで、ビギナー向けのサイトを運営している。そこでは、「秋キャンプがなぜ楽しいのか?」「どうすれば楽しめるのか?」といった情報を提供した上で入門者向けのグッズの説明をしている。キャンプ人口の増加を受けた、新しくキャンプを始める人たちに向けての取り組みだ。
このように物を売る前に、ビギナーに有益な情報を提供し、丁寧にキャンプについて教えることで、初回購入をしてもらうのだ。そして顧客は自社が提供する場所で楽しさを経験することで、どんどんとキャンプが好きになっていき、また次に買うアイテムを教えてもらうというステップを顧客は体験する。
単に、物を作って売るだけでは今の時代、なかなか難しい。スノーピークの事例から学べることは、自社のブランドの強みを活かして、どうしたらターゲット層を楽しませることができるのかという買い手目線での戦略の組み立て方だ。
企業が売りたいものと、顧客が欲しいものは違う。値引きしないと売れない、新しい顧客が獲得できないという問題を抱える企業にとって、有益な事例だ。