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エコーカードでトラブル、ワンメーター客を「ゴミ」呼ばわり…タクシー業界の現実

文=後藤豊/ライター兼タクシードライバー
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「gettyimages」より

「なんで抜くんだよ、エコーカードを!」――これが客商売だろうか。

 SNSに上げられた、個人タクシードライバーの客を客とも思わぬ接客態度。いくら相手が近距離の女性でも、初対面の客に対してタメ口をきいたり、恫喝などしてはならぬこと。同業者として、ため息が出ずにはいられない。

「おつりはいいわよ。家でも買って」――チップをもらう接客術

 今から25年ほど前の初乗務の日。慣れぬ仕事に戸惑いながらも、期待感と緊張感で心臓がバクバクしていた私は、車庫を出庫して間もなく、中年の女性客から手を挙げられた。

「お待たせいたしました。どちらまでですか?」「新宿駅までお願いします」――初勤務にドギマギする私に対して、「新人さん? ウチの夫もタクシーを運転してるけど、毎日楽しそうにしているわよ。がんばってね」と優しく声をかけられた。ワンメーターで1000円を差し出され、「おつりはいいわよ。家でも買って」と言われたことを昨日のように覚えている。

 思えば、この客と同じ車内にいた、わずか10分ほどの空間が、タクシードライバーとしての接客の始まりだった。

 このときに気がついた。老若男女、どんな人にも気持ちよく乗っていただくためにすべきこと。それは、ドアを開けて客を迎え入れる際、必ず「おはようございます。どちらまでですか?」と言葉をかけることだ。

 当然だが、お客様に気持ちよく乗っていただくためだ。乗客が気持ち良くなれば、運転する私も気分が良くなる。「おつりはいいです」と言っていただいた瞬間、こちらのテンションも上がっていく。

 仮にワンメーターでも、気持ちよく仕事をしていると、その客を降ろした直後に遠距離客に出会えたりするのが、タクシーのおもしろさである。加えて笑顔を絶やさずにいると、知らぬ間にチップが積み重なっていく。

 ごく簡単な相乗効果だが、こんなことさえわかっていない運転手は少なくない。私が所属する会社にも、お客様が「近くてすいません」と言っているにもかかわらず、無言で発車させたり、「チッ」などと口にするドライバーが存在する。病院につけているにもかかわらず、動きの遅い高齢者に「早く乗れや!」などと暴言を吐く輩すら存在する。

 悲しいが、これもまた業界の現実である。ワンメーターの客を「ゴミ」などと口にするドライバーに対し、心の中で「バカかお前は」と感じている。

「お前が言うゴミに、俺たちは食わしてもらってるんだよ!」――ケンカになるから口にはしないが、こんなことさえわからぬドライバーが少なくないのが現実だ。

「苦情をもらうな、チップをもらえ」――社長の名言

 乗客に声をかけた直後、客のテンションが低ければ余計な話はしない。声のトーンが高ければ天気の話をする。話が盛り上がると自分のことをしゃべる運転手も少なくないが(ケースバイケースではあるが)、私は逆に質問をするようにしている。

「ワクチン接種センターまで」と言われれば「何回目ですか?」

「東京ドームまで」と言われれば「巨人の先発は誰ですか?」

「錦糸町ウインズ」までと言われたら「今日のメインは何を買います?」

 客が興味を持っていそうな質問をすると、相手の口は滑らかになる。それが、相手に気持ちよく乗ってもらうタクシードライバーという仕事ではないだろうか。

「苦情をもらうな、チップをもらえ」――私が所属する会社の社長は、このようなセリフを口にする。たまりにたまったチップは、25年間で200万円ほど積み重なっている。

後藤豊/ライター兼タクシードライバー

後藤豊/ライター兼タクシードライバー

1966年千葉県生まれ。東京都内の中小会社でタクシードライバーを兼務するライター。競馬と野球をメインに、雑誌や書籍で執筆をしている。主な著書に『テイエムオペラオー伝説』『競馬 伝説の名勝負 GⅠベストレース』(ともに星海社、共著)などがある。

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