「毎年1000万円あった年間売り上げが、昨年は700万円まで落ちたよ」――あるタクシー会社のドライバーがこぼした。営業成績トップのドライバーだが、84万円をキープしていた月間の売り上げは55万円に下がり、「年収は約600万円から400万円に落ち込んだ」と語る。月収レベルで50万円から33万円という下がり方だ。
固定給など存在しないオール歩合制のタクシードライバー。その収入は景気に左右される。昨春の緊急事態宣言で客足そのものが減り、同時にテレワークの加速で街中の営業マンも少なくなった。バイトドライバーである筆者の場合、忘年会で忙しくなるはずの12月は平年なら65万円程度の売り上げがあったが、昨年は40万円ちょっとだった。
そして、年明けに2度目の緊急事態宣言が発令され、再び街から人の姿が少なくなった。乗客のいない駅で客待ちをするほど、つらいものはない。夜がまるで動かないため、筆者は隔日勤務(1日おきの勤務)から日勤(昼間だけの連日勤務)に代えてもらったが、同じように勤務体系を変えた夜勤(夜間だけの連日勤務)ドライバーを10人ほど目にした。
飲食店の時短営業や成人式中止が大打撃に
緊急事態宣言が再発令された1月8日(金)は、信じられない数字を目にした。筆者が勤務する事務所に貼り出されたドライバーごとの平均売り上げが、何と2万円台前半(税別)にまで落ち込んだのだ。ちなみに、前年同日=3連休直前の金曜日は平均4万3000円。今年は、その半分以下である。最大手の日本交通も、ある営業所では平均売り上げが3万円(税別)にまで落ち込んだという。
「夜9時から11時まで都心を流しに流したけど、1人も乗せられなかった。こんなこと初めてだ」「普段は8万円やるのに、今日はようやく5万円だった」とドライバー連中がこぼす通り、都心から客が消えた。
居酒屋やバーがやっていなければ客足は途絶えるのが、タクシー業界の実情でもある。夜の街とは一蓮托生なのだ。結局、3連休最終日の1月11日(月)の売り上げは、昨年の緊急事態宣言時と同程度だった。
「ほとんどの自治体が式を取りやめたことで、成人式の客を1人も乗せなかったよ。例年、この日は成人式で動く若者が1000円、2000円と使うから、回数勝負の日なんだ。40回で6万円といった具合だね。それがすべてなくなり、20時間で1万円ちょっとしかできなかった。手取り5000円、時給にして250円。やってらんねーよ」
このように、多くのドライバーがため息をついていた。
大手が休車に踏み切らない事情とは
昨年の緊急事態宣言の際は、タクシー会社が数台を休ませることで空車が減り、結果的に需給バランスが整ったが、今回は休車に踏み切る大手が少ない。日本交通も国際自動車(kmタクシー)も、従来通り出庫させるという。
「うちに限らず、タクシー会社は乗務員が苦しもうがどうなろうが、会社の利益を最優先する体質です。こんなに苦しい事態なのに休車をしないのは、他社の休業を待っているからかもしれません」(日本交通のドライバー)
タクシーは1台あたりの売り上げが3万5000円(税込み)を切ると、走らせるだけ損になるとも言われる。どの会社もこのレベルを保つようなら、出庫台数は現状のままかもしれない。ライバルが減らなければ、ドライバーの売り上げも落ち込む一方となる。
ドライバー歴50年のベテランは「今が一番ひどい」と語る。
「1970年代のオイルショックのときは燃料が限られていたので、乗り合い(同じ方向の客を一緒に乗せる)でしのいだ。リーマン・ショックのときも東日本大震災のときも3カ月ほどで客足は戻ったけど、コロナは1年以上続く大ショックだよ。単価の低い客なんか乗せたくないって思ってたけど、今はありがたみがわかるね」
全国のタクシードライバーよ。朝の来ない夜はない。今はがんばって耐えよう。
(文=後藤豊/ライター兼タクシードライバー)