関西の老舗スーパー、関西スーパーマーケット(関西スーパー)の臨時株主総会が異例の事態に直面している。上場来最高値という破格の条件でのTOB(株式公開買い付け)による関西スーパーの完全子会社化を先に提案していた関東のスーパー・オーケーと、後出しで非上場子会社2社との株式交換により関西スーパーの子会社化で合意していたエイチ・ツー・オー・リテイリング(H2O)が真っ向から対立。
H2Oとの経営統合は関西スーパー株主に対する経済条件では明らかに劣ると考えられたものの、取引先株主に固められた盤石の安定株主比率を誇る関西スーパーにおいては、H2Oとの経営統合議案が圧倒的に優勢とみられていた。しかし、オーケーによる猛烈な追い上げと、株主にデメリットの多いスキームに取引先株主からも疑問の声が上がり、さらに米国の議決権行使助言会社2社からは、H2Oとの経営統合は株主に不利益があるという反対推奨が出されたことで、当日までどちらに転ぶかわからない展開となっていた。
10月29日に開催された関西スーパーの臨時株主総会は6時間にもおよび、H2Oとの経営統合議案は僅差で勝利した。特別決議の要件をわずかに上回る66.68%という前代未聞の僅差での決着となった。総会結果を受け、オーケーはTOB提案を撤回。H2Oとの経営統合が可決したという結果に市場は嫌気を示し、関西スーパーの株価は急落。翌営業日の11月1日はストップ安を記録し、その後はH2Oとの経営統合を発表する前の株価水準も下回る状況となった。
総会前には、関西スーパーは自社の株主に対してH2Oとの経営統合で自社の株価はオーケーの提示した2250円を上回り、最大3128円にもなり得ると吹聴してきたが、市場からは見事なほどの低評価を受けたかたちとなった。
しかし、それもつかの間、総会からわずか1週間後の11月5日に、中立の立場で臨時株主総会の調査を行う総会検査役から、総会での投票で異例の経緯があったとする報告書が裁判所に提出されたというのである。
その報告書には、総会検査役は経営統合議案が「きわめて僅差で否決となる集計結果を確認したが」「関西スーパーマーケットから、本総会の議決権行使のうち、『棄権』と取り扱っていた1名の株主の議決権行使の内容を、『賛成』として取り扱う旨の報告を受け、その結果、本議案は可決された」と記されている。
オーケーはこの報告書を受け、議決権の集計結果に疑義があるとして、神戸地裁に株式交換の差止めを求める仮処分を申し立てた。仮にこの申立てが認められれば、再び関西スーパーにTOBの提案を行うという。
いったんは確認された「否決」
関西スーパーの株主総会でいったい何があったのだろうか。株主総会が行われたのは、10月29日午前10時から。場所は伊丹シティホテル3階「光琳の間」だ。当日、その会場には100人を超える株主が集まった。
総会が始まると、株主からは「正気の沙汰じゃない。なぜ業績ボロボロのイズミヤ、阪急オアシスと統合しなければならないのか」「統合による理論株価の算定根拠を説明してほしい」といった声が上がり、関西スーパーは苦しい説明を強いられることになる。
株主からの矢継ぎ早の質問が続くなかで、議長は13時40分、質疑応答を終了し議案の採決に移る旨の説明がなされた。議長の福谷耕治氏は採決の際、「マークシートにご記入のない投票用紙をご提出いただいた場合、棄権としてお取り扱いいたします」「棄権は事実上、反対と同じ効果を持つことになります」と繰り返し注意喚起したという。
13時50分、会社関係者が、着席している株主席を回り、回収用の透明なプラスチックの箱で投票用紙を集め、13時55分、議長から投票用紙の回収が完了したので会場閉鎖を解除し15時まで休憩にするとの説明があったという。集計作業は14時5分ごろから始められ、15時10分ごろには総会検査役のもとに「議決権行使集計結果報告書」が交付された。
今回の株主総会では、H2Oとの経営統合に関する1号議案から3号議案まで出席株主の議決権の3分の2以上の特別決議を必要する議案だったが、その「議決権行使集計結果報告書」は1号議案(65.71%)、2号議案(65.74%)、3号議案(65.76%)といずれも3分の2に届いていなかった。
否決という結果を確認した総会検査役は15時20分ごろに議場に戻り、検査役のために用意されていた座席に着席した。本来、ここで経営統合議案は否決になって株主総会が終了するかに見えた。
否決から可決への変更
ところが、総会検査役が議場に戻っているなかで、15時40分ごろ、ある男性が受付に来て、自分はマークシートに記入せずに白票を投じたが、どのような扱いになっているのか確認したいとの申し出があったという。申し出を受けた会社関係者は、その場で弁護士を呼び、その株主から話を聞いた弁護士は総会検査役を呼びに行ったという。そして、15時45分ごろ、集計結果を確認して議場に戻っていた総会検査役は関西スーパーの代理人弁護士に別室に呼び出された。その別室には、件(くだん)の男性株主がいた。一部報道によると、この男性は関西スーパーが設立した業界団体に所属する山口県にあるスーパーの代表者とされ、関西スーパーとは親密な関係の株主ともいえる。
この株主いわく、議決権行使書つきの委任状ですべての会社提案に「賛成」で事前に郵送していたが、議事の内容を聞くために総会に出席したのだという。関西スーパーは傍聴のみの株主にはモニター席を用意していたが、この男性は議長らの生の声が聞きたいと総会への出席を選び、投票用紙や出席票の交付を受け総会会場に入場したという。
受付で提示した職務代行通知書にも「賛成」と記載していたが、あろうことか、この株主は、総会会場ではマークシートを白紙で提出している。議長から繰り返された「マークシートを白紙で出せば棄権とみなされる」という説明は聞いていたという。
白票として出されたこの株主の投票は、総会検査役が確認した集計結果では当初「棄権」扱いになっていたが、関西スーパーの弁護士は、議決権行使書や委任状で「賛成」欄に〇をつけていることなどから、この白票を「賛成」として取り扱うことにしたと総会検査役に説明したという。不思議なことに、この間、議長はもちろん、関西スーパーの責任ある立場の人間は一切介在していない。
このような経緯で、結局3つの議案はいずれも否決から可決へ変えられた。
3つの疑問
この報告書を見る限り、多くの謎が浮かんでくる。
・議長の株主への説明と異なる白票の取り扱いが果たして認められるのか。
・投票後1時間40分以上も経ってから、なぜその株主は申し出たのか。その株主に誰かが連絡をすることはなかったのか。
・報告書を見る限り、代理人弁護士だけの判断で白票を「賛成」にしたように見えるが、これだけ重大な判断が議長や責任者の関与なく行われたのか。
関西スーパー側は「株主様が投票時に示された議決権行使の意思表示を正確に反映して集計を行ったものであり、この取扱いの適法性に何らの疑義もございません」と主張する。
その一方で、オーケー側は「多くの株主の皆さまが真摯にご検討されてきた中で、このような疑義が生じたことは大変残念。公正を期して司法の判断を仰ぐことにしました」(同社広報担当者)
果たして裁判所はどのように判断するのか。株式交換は本年 12 月1日に効力発生することから、裁判所の判決はその前に発表されるものとみられている。