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関西スーパー、オーケーより“見劣り”するH2Oと経営統合の事情…既存株主に損害か

文=松崎隆司/経済ジャーナリスト
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関西スーパーマーケット(「Wikipedia」より)

 関西スーパーの買収をめぐって、大手百貨店グループのH2Oと急成長を続ける食品スーパー、オーケーストアを運営するオーケーが全面戦争を展開している。

 きっかけとなったのは、2016年9月のオーケーによる関西スーパーの株式取得からだ。9月1日に関東財務局に提出した大量保有報告書によると、オーケーは関西スーパーの5.6%の株式を取得したことが明らかとなった。オーケーは筆頭株主である取引先持株会(2016年3月末時点で10.07%)に次ぐ第2位の株主となった。

 さらに翌2日には保有比率を8.04%まで引き上げたという。この買い増しに危機感を抱いた関西スーパーは、地元でしのぎを削るライバル食品スーパーを子会社に持つH2Oにホワイトナイトを要請。第三社割当増資で約10%の株式をH2Oに発行し、オーケーへの対抗措置を講じた。

 実はこのときオーケーの思惑は別のところにあったという。「義理のある関西スーパーをなんとか支援したかった」とオーケー関係者は語る。オーケー創業者の飯田勧は1980年代に関西スーパーの創業者、北野祐次の厚意で社員の研修を依頼していた。

「1980年代、オーケーの社員研修を関西スーパーでやってもらっていた」(オーケー関係者)

 当時、関西スーパーはアメリカ式の近代的スーパーマーケットを日本に初めて導入した会社として注目を集めており、業界各社にそのノウハウを教える存在だった。なかでもオーケーは大規模に社員を派遣し、その後、その社員たちがオーケーの屋台骨を支える経営幹部や店長に育っていった。そのため飯田にとって北野は足を向けて寝られない存在だ。

 オーケーが頑なに関西進出をしなかったのも、北野に対する義理立てだったという。しかし、名誉会長を務めていた北野が2013年2月12日に他界、その後社長の井上保が病気を理由に14年10月1日に退任し、常務取締役営業本部長だった福谷耕治が社長に就任した。

 ところが、関西スーパーはその後、業績が悪化。これを目の当たりにした飯田は「恩義を受けた自分が支えなければ」と思ったという。ところが北野や井上がすでに他界し、関西スーパー経営陣とのパイプは途絶え、直接仁義を切る相手がいなくなっていた。そこで、何よりもまず株を取得したというのだが、結果的にこれが裏目に出たというわけだ。

特別委員会を設置

 一方でH2Oは関西スーパーとの資本提携を契機に関係を深め、「資本業務提携によるシナジー効果を追求」(H2O広報担当者)、水面下で関西スーパーとの経営統合を進めていたという。

 H2Oは20年3月期には大幅な減収減益となり131億円の赤字を計上、この年の秋には大きな戦略転換に迫られた。新型コロナで大打撃を受けたH2Oは10月30日、19年5月14日に策定された中期経営計画を取り下げ、新しい計画の策定を開始した。そしてグループの柱の事業だった百貨店事業の再建と食品事業を「第2の柱」として、(1)食品事業の一体運営と(2)SM事業(阪急オアシス、イズミヤ、カナート)の標準化、(3)運営力再構築を全社プロジェクトで強力に推進することを打ち出した。そして食品事業の強化策の一環として、関西スーパーとの経営統合が内部的に検討されるようになったという。

 その一方、オーケーは6月9日、上場来最高値の一株2250円でTOB(株式公開買い付け)をかける経営統合案を送付。6月17日には関西スーパー会長の玉村隆司は当初、「非常に高くご評価いただきありがとうございます」と発言していたという。

 その後、7月3日に、関西スーパーは経営統合案を検討するために社外取締役を中心に構成される特別委員会を設置した。そのようななか、関西スーパーは7月12日には、H2Oとの資本業務提携を進化・発展させるために具体的な条件の協議を開始し、17日にはH2Oとの経営統合案も特別委員会に諮問することを決定。そして8月31日にはH2Oとの経営統合案を発表した。

関西スーパーとの資本業務提携のあり方について継続的に検討を進めてまいりましたが、約10%の出資を前提としたゆるやかな業務提携では、高次元のプライベートブランド商品の開発や取引先政策、物流政策、情報管理・活用などの政策判断を伴う取組みの実現は難しいと考え、2021年7月12日から関西スーパーとの資本業務提携を更に進化・発展させ、経営統合を行うことについての検討を本格化し、具体的な条件等に関する協議を開始しました」(H2O広報担当者)

オーケー側の不信感

 しかし、関西スーパーはH2Oにはオーケーの提案を受けている事実を伝え、H2Oとのみ経営陣同士で経営統合の協議を進める一方で、オーケーにはH2Oとの経営統合協議の事実があることをひた隠しにした。この関西スーパーの対応に、大株主でもあるオーケー側の不信感が頂点に達した。

「関西スーパーの特別委員会が本当に自社株主の利益のために機能しているならば、オーケーの提案とH2Oとの統合案という2つの提案があるなかで、もしH2Oのほうが本当に優れているならば、私たちにオーケー以外の提案があることを示し、より良い条件を引き出すために交渉すべきだった。一方とのみ協議を進めるやり方は、本当に公正に企業のため株主のために検討したのではなく、最初からH2Oとの結論ありきという疑念を株主が抱くことになる」(オーケー関係者)

 問題はこれだけではない。H20との経営統合案はオーケーの提案と比べても極端に見劣りのするものだという。H2Oと関西スーパーとの間で行われる経営統合案というのは、株式交換によって、H2Oグループの完全子会社であるイズミヤと阪急オアシスの2社の株式を対価として、関西スーパーは発行済み株式数を超える3383万4909株もの新株をH2Oに発行するというものだ。これにより、H2Oは58%の関西スーパー株式を保有する支配株主となるが、その一方で、既存の株主には大規模な希薄化が発生する。

 さらに、関西スーパーの説明によると、同社を上場会社として存続する会社と事業子会社に分割して、上場会社として存続する会社を、関西スーパー、イズミヤ、阪急オアシスの3社を統括する中間持株会社にするという。これにより、関西スーパー株主は大幅な株価上昇益を享受できるというバラ色の未来を強調する。

「当社の少数株主の皆様は引き続き当社の普通株式を保有していただくことができます。当社の少数株主の皆様は、本吸収分割の効力発生後は、当事業会社を承継した会社(新関西スーパーマーケット)、イズミヤ及び阪急オアシスの3社を傘下に収める持株会社となる当社の株主となります。その結果、当社の株主の皆様は、売上高4000億円規模の食品スーパーグループの株主となるとともに、今後創出されるシナジーや当社の株価の上昇益を享受することができます」(2021年9月24日付関西スーパーマーケットのニュースリリースより)

 また、関西スーパーの説明では、一株当たりの理論株価についてもアイアールジャパンの算定書では2400~3018円、プルータスでは1787~3128円と、オーケーが提示している公開買付け価格の2250円よりもはるかに高い理論株価が算出されている。これが事実であれば、株主にとってはまるで夢のような経営統合だ。しかし本当にそうだろうか。

「そもそも8月31日のH2Oとの経営統合発表後には関西スーパーの株価は一時的には上がりはしたものの、その後は発表前の水準の1300円台まで下がっていました。その後、9月3日にオーケーがTOBの意向を表明するとTOB価格の2250円に寄せて市場株価も上がったという経緯があります。そんななか、H2Oとの経営統合が可決された場合には、市場株価は関西スーパーが公表した理論株価に近づくどころか現在の市場株価よりもさらに下がる可能性があります。現在の市場株価は、オーケーによるTOB期待を織り込んでいますが、H2Oとの経営統合が可決すると、当然オーケーはTOBを実施しないので、現在の市場株価に織り込まれているTOB期待が消失することになります。

 加えて、H2Oとの経営統合によって、関西スーパーの新株式が大量に発行されることになるので、既存株主の持ち分が大幅に希釈されることからも、状況次第では、株価は8月31日経営統合発表前よりも下がる可能性すらあります」(市場関係者)

オーケーの脅威

 そもそも関西スーパーとイズミヤ、阪急オアシスは同じ商圏内で競ってきたライバル同士だ。他の地域から客を呼び込むようなまったく新しい施策でもない限り、客の食い合いをするだけで収益は伸びにくい。

 しかも16年の資本業務提携以降は3社の間で商品の共同仕入れや共同開発、ポイントの共通化などを行っているが、イズミヤ、阪急オアシスは17年3月期から減収が続き、さらにイズミヤは17年3月期から20年3月期まで、阪急オアシスは18年3月期から20年3月期まで最終赤字に転落し、抜本的な経営の立て直しが求められている。

 そのようなH2Oと一緒になって本当に収益を伸ばすことができるのだろうか。H2Oと関西スーパーの間では3年間は現在の雇用条件と実質的に同等以上の条件で雇用を続けると合意しているというが、イズミヤや阪急オアシスの業績が想定どおりに改善しなければ、関西スーパーとの店舗統廃合や大規模なリストラを進めなくてはならない。現にH2Oが買収したイズミヤは買収後も希望退職者の募集、非食品事業や店舗のリストラなどを余儀なくされていた。

 このようなことを勘案すると、H2Oは関西スーパーの取得自体が目的というよりも、非上場子会社2社の株式と引き換えに上場会社の支配権を得るという破格の条件で関西スーパーを傘下に収めることで、スーパー激戦地に強いといわれるオーケーの関西進出を阻むことが最大の狙いではないだろうか。オーケーの脅威についてH2Oの関係者からも「営業利益率6%を誇るオーケーの競争力は脅威だ」という声すら上がっている。

 10月29日の臨時株主総会を前に、主要株主からも疑問が噴出している。第4位の大株主である伊藤忠食品が10月12日に関西スーパーに情報公開を求めて質問状を提出。(1)イズミヤと阪急オアシスの株式評価額と算定根拠の提示、(2)株主総会で反対した株主が株式の買取を請求する場合にオーケーが提示する公開買付価格(2250円)を下回ることがないのか、(3)経営統合後の目標株価と達成時期の目安などを19日までに回答するよう求めている。いずれも関西スーパーの株主としては当然確認すべきまっとうな質問だ。

 さらに、10月15日には、米国の議決権行使助言会社であるISSとグラスルイスの2社がそろって、H2Oとの経営統合に関する全ての議案に「反対」を推奨することを表明した。ISSは、大規模な希薄化や評価プロセス、親子上場による弊害など、さまざまな角度からH2Oとの株式交換の懸念点を指摘。「オーケーのTOBの方がH2Oとの株式交換よりも一層有益」との見解を示した。自社の大株主だけでなく、中立的な議決権行使助言機関からも続々と疑問が呈される格好となった。

 これを受け、オーケーは同日中に、「グローバルに議決権行使に関する助言を行っている ISS 及びグラスルイスも、独立した立場から本株主総会議案について、公正かつ中立的に分析したうえで、弊社と同様の懸念を抱き、上記結論に至ったもの」と歓迎するプレスリリースを発表した。

 泣き所を突かれた関西スーパーは、翌営業日の10月18日には「当社の公表情報を誤解又は曲解するもの」とさっそくISSとグラスルイスに嚙みついた。大株主や議決権行使助言機関などを巻き込みながら、10月29日の株主総会に向けて当事者の舌戦が激しさを増している。

 果たして関西スーパーをめぐるH2Oとオーケーの戦いはどちらに軍配があがるのか。成り行きが注目される。

松崎隆司/経済ジャーナリスト

松崎隆司/経済ジャーナリスト

1962年生まれ。中央大学法学部を卒業。経済出版社を退社後、パブリックリレーションのコンサルティング会社を経て、2000年1月、経済ジャーナリストとして独立。企業経営やM&A、雇用問題、事業継承、ビジネスモデルの研究、経済事件などを取材。エコノミスト、プレジデントなどの経済誌や総合雑誌、サンケイビジネスアイ、日刊ゲンダイなどで執筆している。主な著書には「ロッテを創った男 重光武雄論」(ダイヤモンド社)、「堤清二と昭和の大物」(光文社)、「東芝崩壊19万人の巨艦企業を沈めた真犯人」(宝島社)など多数。日本ペンクラブ会員。

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