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なぜアナログレコードは廃れ、なぜ今、人気再燃しているのか?CDのデメリット

文=明石昇二郎/ルポライター
アナログレコード
「Getty Images」より

30年前の「アナログレコード」ルポ

 音楽業界では、インターネットの「音楽配信サービス」が全盛となり、その一方でCDの売り上げが落ち込んでいる。そんな中、アナログレコードの売り上げが増えているのだという。それも、日本国内に限った話ではなく、世界的な傾向らしい。レコード専門店も相次いでオープン。NHKでは11月に入ってから2度にわたって「アナログレコード人気再燃」特集を組み、アナログレコードファンたちの熱狂ぶりを伝えている。

 そんな報道に触れながら、今からちょうど30年前に筆者が書いた「『LPレコード』という名のメディアが消える」という記事のことを思い出していた。今では「ツキノワグマ写真家」として知られる友人の写真家・澤井俊彦氏とともに立ち上げた、求人雑誌「フロム・エー」(現在は休刊)での連載企画「東京B面91」の第2回で書いたのが、その「LPレコード」ルポだった。デジタルをもてはやし、アナログを小バカにする当時の世間の風潮が、我慢ならなかったからである。

 そこで今、アナログレコードの魅力に気づき、情熱を傾けているという「アナログレコードファン」の皆さんに、かつてアナログレコードはどのようにして廃れていったのかを知ってもらえたらと思い、ここに30年前のルポを再掲することにした。この記事では、当時はまだ廃れる気配などまったくなかった「出版メディア」についても触れており、世の「諸行無常」を改めて気づかせてくれるものでもあった。

「フロム・エー」1991年5月21日号掲載 連載「東京B面91」第2回「『LPレコード』という名のメディアが消える」

(登場人物の肩書や、「今年」「現在」などの表記は1991年5月当時のものです。修正せず、そのまま再掲しました。)

 レコード針最大手のナガオカが昨年解散した(筆者注:2021年現在、同社は新体制で存続している)。コンパクトディスク(CD)の急成長でレコード針の需要が激減したためである。今ではアナログレコードを置いているレコード屋など滅多にない。当然、レコード針を置いているレコード屋もめったにない。現在、CDとアナログレコードの生産比率は98対2。レコードプレスの工場も、国内では1カ所しか残っていない。が、ここも今年の秋で閉鎖されるという。オランダのフィリップス社とともにCDの技術開発をした、ソニー(株)の広報センターに話を聞いてみたところ、

「CDによってLPを積極的にツブそうとしたわけではないんです。例えばナガオカさんが“泣いた”ような形になっちゃいましたよね。でもウチとしては、よりよい音質をお客様に提供するためにこのようなものを開発して、それがおかげ様で受け入れられて今のようなCDの普及につながりました……というようなストーリーでしかお話しできないんですよ」

……わかりました。では、他の部分は自分で取材してみることに致します。

現代の生活感覚にマッチした「CD」

 今、世はCD一色である。CDが登場した1982年頃は「十年やそこらでLPにとってかわることはない」と言われていたのに、結構簡単に勝負がついてしまった。CDの利点は何と言っても「操作が簡単」であることと「雑音がない」こと。しかも収録時間が一目でわかり、聴きたい曲だけを聴きつづけることもできる。東京・タワーレコードの佐野学セールスマネージャーは、CD繁栄の理由を次のように解説してくれた。

「これは時代を語ることになりますが、とにかくみんな忙しいんで、聴きたい曲だけを聴けるというのは非常に魅力なんじゃないですか。アルバム買ってその中に聴きたいのが一曲あるとすれば、CDならそれだけをずっと聴ける。情報が氾濫する忙しい時代である現在、欲しい情報だけ取り出せるというCDの特性が非常に喜ばれたんじゃないですか」

 また、アナログレコードでいい音を出そうとすると再生装置にお金と手間がかかる、というのは“常識”だったが、CDならズボラにしてても結構いい音が出てくる。5万円ほどの「CDラジカセ」でもそこそこの音で聴けちゃうのだ。CDは音のレベルの底辺を持ち上げた、とも言えよう。

 そして、小さなCDのほうが場所をとらず、保存も簡単。こんなところにまで東京の住宅事情は反映しているんだろうか。つまりCDは、アナログレコードに比べ「便利」だったのである。CDが発売された当初、ジャズファンやクラシックファンの間から「CDは音がもの足りない」などのクレームが出たが、最近はメーカーの側も音をつくるテクニックをおぼえてきたため、音にうるさい人々の満足をもCDは満たし始めているようである。

「CDなんてクソくらえ!」

 しかしCDへの移行は、決して“いいことずくめ”というわけはなかった。

「日本では『CD、CD』と言われてますけど、どっこい、アナログファンだって沢山いるわけです」

 吉祥寺のジャズ盤専門店「ディスクSHOWA」の松崎政博店長は、ある意味でユーザー切り捨てとも言えるCD移行に対し、憤りを隠せない。なるほどシステム全体が移行すると、それまでのソフトウェアが使いものにならなくなってしまうわけで、つまりアナログからCDにのりかえるということは、同じ内容のソフトをまた買わなくちゃならん、ということにもなる。総どっかえなのだ。メーカーの側がもう新しいLPを出さず、針もつくらないとなると、ユーザーの側はもう、なす術がない。

 CDの欠点には「レコードジャケット」の問題、なんてものもある。ジャケットはそれ自体が一つの芸術になりえた。それがCDとなってからというもの、実に味気ないものになった。LPサイズのものをそのまま小さくしただけなので、ビートルズの「サージェント・ペパーズ」(筆者注:ザ・ビートルズの名盤「サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド」のこと)なんて、CDのジャケットでは何だかわけがわからんものになっている。しかもあれだけ小さくなったところにバーコードが入る。もはや「アート」ではない。

 まだある。表に参加ミュージシャンなどのデータを載せるスペースがなくなり、パッケージの中に入ってしまった。「説明が何もないので、これじゃあ買えない」という声も聞かれる。

 まだまだある。第三世界ではCDなどほとんど普及していないので、世界の音楽に対応しづらくなってしまった。例えばブラジルの音楽など、CDではごく限られた種類しか手に入らない。

        ※

 過去のものを全部否定しているような、いわゆる「CD文化」に根強く反抗しているのは、ジャズファンである。彼らの中には「CDクソくらえ」と断言する者も。その中の一人、前出の松崎さんに再登場してもらおう。

「ジャズファンで、今でもレコードを買い、CDを買わないという人が多いのは、ひとつの“抵抗”なんですよね。でもメーカーはそんなこと知らない。今、レコードが沢山売れているなんてことは、ほんとバカな話なんですけど」

 実は今、アナログレコードは売れているのである。レコード会社の中には、発売しているレコードの返品率がたった2%なんてところもある。現代の“アナーキー”はロックよりジャズだ。

どっこい「アナログ」は良い

 では、果たしてLPに代表される「アナログ」というものは、CDに代表される「デジタル」に劣るものなのだろうか。こんな話がある。

 CDがかなり普及し出していた86年末、キングレコードが高品質の重量版アナログLP、「スーパー・アナログ・ディスク」を発表した。レコードを通常のものより厚くしたのは、カッティングの溝を深くするため。これまでに74タイトルが出ており、そのジャンルはジャズ、ポピュラー、そしてクラシック。プレス枚数は1タイトル平均5千枚ほどで、そのほとんどが完売されている。この「スーパー・アナログ・ディスク」は、メリット、デメリットをはっきり言うヨーロッパの評論家達からも絶賛されており、キングレコードには熱烈なファンレターが海外からも届いているという。

 そこで、このレコードをプロデュースしたキングレコードの高和元彦さんにその“秘密”を聞いてみた。

「発売当時、盛んにCDと『スーパー・アナログ』との“聴き合わせ”をやったんですが、『スーパー・アナログ』の音を聴かせるとみんなブッ飛ぶんです。

 つまり、人間の耳はアナログなんですよ。人間の歌やアコースティックな音楽の音もすべてアナログ。今のデジタル技術はかなりのところまで来ているけど、まだクリアできていない部分がある、ということです。デジタルにはメリットもデメリットもあるし、アナログにもある。何だってそうなんですよ。そして音楽として、どちらの音が本物に近いかというと、アナログのほうが近いんです」

 何もCDは“ベスト”ではなかったのである。数年前より「アナログ」という言葉にはマイナスのイメージが与えられ、「アナログ」は時代遅れだと盛んに喧伝された。それから何年か経った今、デジタル技術が良くなっていけばいくほど、「アナログに近づいた」とか「アナログ的な良さがある」という言葉がチラホラ聞かれるようになった。バカな話である。例えば時計にしても一時はデジタル時計がやたら流行ったが、今ではほとんどなくなった。自動車の速度計にしてもアナログに戻っている。アナログ表示のほうがなぜだか人間の頭にはスッと入ってくるのだ。

 しかしアナログレコードの国内プレスの道は閉ざされてようとしている。でも、「スーパー・アナログ」は、スイスの工場で引き続きプレスされ、生き延びる。

        ※

 出版の世界に例えて言えば、活字の力が今現在100%発揮されているとは思えないし、思わない。写真や映像のほうが力がある、という人もいるが、だからといって活字メディアを全部やめてしまおうという話になどなりはしない。しかし、そんなことが現に進行中なのが、LP→CDへの移行にみられる音楽の世界なのである。「音楽はアナログレコードで」という“選択”があってもいいじゃないか。今まさに一つのメディアがなくなろうとしている。だから今後、アナログレコードは“ファッション”となるだろう。あと5年もしたら「あの喫茶店、レコードかけてるぜ」なんてことになっているかも知れない。

        ■

「30年前のLPレコード・ルポ」は以上である。こののち、街のレコード屋はレコードの棚数を減らしながら次第に「街のCD屋」へと姿を変え、そして消えていった。筆者の住む町にあったレコード屋は、今では中華屋になっている。

 記事冒頭で紹介した2本のNHK記事が示しているとおり、「アナログレコードは“ファッション”となるだろう」との見立ては、残念ながらそのとおりになってしまった。「便利」ばかりを最優先していると、歴史も伝統もあるメディアであろうと、突然消滅の危機に晒されるのである。それでも復活を遂げた「アナログレコード」メディアは、稀で幸運なケースなのかもしれない。

 30年前の取材の際、キングレコードさんからいただいた「スーパー・アナログ・ディスク」が、今も自宅の本棚で眠っている。「ブッ飛ぶ」音を久しぶりに聴きたくなったのだが、そのためには倉庫で埃をかぶっているレコードプレーヤーやらアンプやらオーディオ一式を引っ張り出さなくてはならない。

 でも、手放さずにいたからこそ、聴くことはできる。「捨てない」ことはすなわち「文化を守る」ことにも通じるのかもしれない。

(文=明石昇二郎/ルポライター)

明石昇二郎/ルポライター、ルポルタージュ研究所代表

明石昇二郎/ルポライター、ルポルタージュ研究所代表

1985年東洋大学社会学部応用社会学科マスコミ学専攻卒業。


1987年『朝日ジャーナル』に青森県六ヶ所村の「核燃料サイクル基地」計画を巡るルポを発表し、ルポライターとしてデビュー。その後、『技術と人間』『フライデー』『週刊プレイボーイ』『週刊現代』『サンデー毎日』『週刊金曜日』『週刊朝日』『世界』などで執筆活動。


ルポの対象とするテーマは、原子力発電、食品公害、著作権など多岐にわたる。築地市場や津軽海峡のマグロにも詳しい。


フリーのテレビディレクターとしても活動し、1994年日本テレビ・ニュースプラス1特集「ニッポン紛争地図」で民放連盟賞受賞。


ルポタージュ研究所

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