スーパーやネット通販等の数量限定・期間限定、劇的な売上増効果…なぜ買ってしまう?
現代の消費社会は成熟し、モノで溢れています。買い物をする店や商品にも選択肢があり、自分の好きな店で好きなものを買うことができます。この「選択の自由」は今や当たり前のことであり、あまり意識することはないかもしれません。しかし、私たちが日常的に行っている購買意思決定を見ると、程度はさまざまですが、この自由が制限されることが結構あります。今回は、そうした状況下での消費者行動について見ていきたいと思います。尚、ここで対象としている自由は、一般的に言われている「自由」ではなく、特定の行動における「選択の自由」です。例えば、ブランドAではなく、ブランドBを選ぶ自由です。したがって、ある選択の自由が制限されたとしても、他の自由への影響はありません。
自由に入手できたモノが入手できないとき
選択の自由が制限されるとき、人はどのように反応するのでしょうか。この反応を説明する最も有力な理論は、ブレームが提唱した「リアクタンス理論」です【註1、註2】。リアクタンス理論によると、人は「自由に選べる」と思っていたモノが選べなくなると、心理的な抵抗感(リアクタンス)を抱き、その制限された自由を回復しようとします。どのように回復するかというと、選べなくなったモノの魅力度を上げ、取得意欲を高めるのです。
この現象を確認するために、ブレームらが行った実験を紹介したいと思います。実験では、4種類のアナログレコードを用意し、被験者には翌日のセッションでそのなかから好きなレコードをひとつ実験参加へのお礼としてもらえることを説明し、その上でそれぞれの楽曲を聴いてもらい、好ましさを評価してもらいました。そして翌日のセッションでは、前日の好ましさ評価が第3位になったレコードのみ、入手できなくなったことを説明し、再び同じ4種類のレコードを聴いてもらい、好ましさを評価してもらいました。
その結果、入手不可能になったレコードの評価のみが上昇したのです。魅力度がそれほど高くなかったレコードが、選べなくなった途端により魅力的に感じられたことになります。
実例もあります。フロリダ州マイアミ・デイド郡は1971年に非リン酸法を制定し、リン酸系洗剤の販売と使用を禁止したのですが、施行7~9週後に行った調査から、この地域に居住する主婦のリン酸系洗剤に対する評価が、購入可能な別の地域に居住する主婦の評価よりも高くなったことが報告されています【註3】。