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白井美由里「消費者行動のインサイト」

スーパーやネット通販等の数量限定・期間限定、劇的な売上増効果…なぜ買ってしまう?

文=白井美由里/慶應義塾大学商学部教授

 これがリアクタンス理論です。自由に選べると思っていたものが選べなくなったことで、心理的抵抗感が生じ、心が引かれてしまう現象です。障壁(バリア)は、ブロックされたモノを入手したいという動機づけを強めるのです。なお、この現象の発生には、自由に選択できることが予め期待されていることと、その自由な選択が消費者にとってある程度重要であることが前提条件になります【註4】。

「キツネと酸っぱい葡萄」の効果

 こうした抵抗感は、品切れや生産終了などで欲しい商品を購入できないときにも生じます。そのとき、その商品を喉から手が出るほど欲しいと思うのであれば、リアクタンス理論で説明されるように、魅力度がさらに高まります。

 しかし、どの消費者もこのような反応をするわけではありません。なかには「この商品はこの点が良くない」などネガティブな面を考えて評価を下げ、自分を納得させる消費者もいるでしょう。この現象はイソップ寓話の「キツネと葡萄」と同じなので、「酸っぱい葡萄の効果(サワーグレープ効果)」と呼ばれます。

 酸っぱい葡萄の効果は、高価格品を入手できないときに発生しやすいとされています【註4】。高価格品の購入は出費に対する心理的な痛みを伴うので、もともと「自由に選択している」といった感覚が強くないからです。つまり、自由な選択が奪われたとしても、心理的抵抗感は小さいのです。

 このことから、選択になんらかの「迷い」がある場合にも、自由選択の感覚は弱まるので、「酸っぱい葡萄の効果」が発生しやすいと考えられます。期待したように機能しないかもしれない、事故に遭うかもしれない、病気になるかもしれない、友人に褒められないかもしれないなど、知覚リスク(不安)を伴う購買で生じやすいでしょう。

購入の限定と心理的抵抗感

 購入に「限定」をつける販売方法への消費者の反応は、リアクタンス理論と一致することが数多くの研究で実証されています。

 インマンらが行ったスーパーの購買データの分析からは、売上が値引きによって202%、購入数量の限定を付けた値引きによって544%上昇したことが示され、購入数量限定の効果はかなり大きいことが確認されています【註5】。ただし、この限定の効果は値引き率が低いとき(5%ぐらい)には見られません。

白井美由里/慶應義塾大学商学部教授

白井美由里/慶應義塾大学商学部教授

学部
カリフォルニア大学サンタクルーズ校 1987年卒業
大学院
明治大学大学院経営学研究科
1993年 経営学修士
東京大学大学院経済学研究科
1998年 単位取得退学
2004年 博士(経済学)
慶応義塾大学 教員紹介 白井美由里 教授

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