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鈴木貴博「経済を読む“目玉”」

フリマサイトの商品説明文に騙されたがキャンセル勝ち取り…ストリート経済の処世術

文=鈴木貴博/百年コンサルティング代表取締役
フリマサイト
「gettyimages」より

「私はストリートで育ったから、こういうトラブルは日常茶飯事なの」と豪語する知人がいます。居酒屋でからまれたとか、ちょっと目を離した隙に何かを盗まれたとか、刑事事件にまでなれば警察の力を借りることができますが、そうでもないトラブルの場合、日本は民事不介入の原則で自分の身は自分で守らなければならないときがあります。そういったとき、ストリートでの生存能力が必要になります。

 そして今回の記事のポイントが「ストリート経済の拡大」です。今現在もそうですし、これから先の未来ではなおさら、私たちを取り巻くストリート的な経済が大きくなっていきます。法律やルールできちんと守られた経済とは違う別物の経済。インターネット通販、SNSやフリマなどスマホ経済圏が広がることで、経済全体にそのような変化が起きます。

 たとえばテレビは衰退産業です。そしてスマホ経済圏ではYouTubeやTikTokがそれに代わります。結果としてユーチューバーが一大勢力になってくるのですが、テレビ業界とは異なり行政の管理下にないYouTubeでは、ルール無用のユーチューバーたちの目立った者勝ちの世界になりがちです。

 町のドラッグストアでは安全性が確認されたサプリや美容化粧品が販売されていますが、SNSの口コミで販売を伸ばしている商品には「偽りあり」と消費者からクレームが入るような商品が交じっています。口コミでも実際そのようなネガティブな反応が書き込まれるのですが、「すばらしい効き目でした」というやらせの口コミの多さに本物の口コミが埋もれてしまいます。

 実は昭和の時代には、このようなストリート経済が本物の経済のなかでも起きていました。今でいう迷惑YouTuberと同じことを、テレビの俗悪番組として普通にタレントがしていました。大手メーカーの商品でも、テレビCMで虚偽の演出をしても許される時代でもありました。

 当時の洗剤のCMでは「これまでの洗剤と新しい洗剤の比較」で白いシャツを洗って比較する演出が定番だったのですが、なぜかこれまでの洗剤は毎回黄ばみが残り、新しい洗剤では真っ白になる。その真っ白になる新しい洗剤が数年たつとまたリニューアルして、シャツを洗うと黄ばみが残るほうの旧商品として登場する。消費者団体が調査したら、なんのことはない、CM出演者は演出家に渡された新品のシャツを見てその白さに驚いた演技をしているだけ。そんな事実が報道ですっぱ抜かれても「だから何?」とスルーされていた時代が昭和でした。

 バブルの頃は大企業のトラブルの解決を反社会勢力が担うという構図も当たり前にありましたが、平成を通じて大企業は反社とは一切取引ができなくなりました。こうして台頭してきたのがいわゆる半グレです。

やっかいなのは「中間のケース」

 日本経済のいわゆるコンプライアンスは平成の30年間でかなりの浄化が行われ、マスの経済の世界では騙しや不良品が駆逐されていきました。そして私たち消費者は徐々に騙しへの耐性も失っていきました。

 では令和の時代に不良品がなくなったかというと逆で、インターネット通販では安価だけれどもすぐに壊れる商品があふれています。注文すると、すぐではなく10日ぐらいして中国から国際郵便で届く商品が多いことから、俗に“中華”と呼ばれたりもします。

 スマホの普及で私たちの生活がネット中心となり、その結果として拡大しているのがこれらのストリート経済であり、そのなかで個人や少人数の組織でよからぬビジネスを展開する勢力が力を増やしている。

 毎日テレビよりもSNSを見る時間が長く、お店よりも通販やフリマで買い物することが多ければ、当然ですがストリート経済と接する機会が増加します。そのような環境下で生きていくのであれば、私たちはストリート経済への対処法も身につけなければならない。今はそのような時代です。

「それはわかるけどアマゾンや楽天、ヤフオクメルカリにだってルールはあるから、私たちの取引は守られているんじゃないの?」

と思うかもしれません。ここで重要なのが、冒頭にお話しした民事不介入のラインです。明らかな詐欺にあえばルールは私たちを守ってくれますが、ストリート経済でやっかいなのはそうではない中間のケース。

 私自身、ヤフオクやフリマサイトの利用頻度は増えています。個人間の取引でも大半のケースではスムースに取引が終わるのですが、一定頻度でトラブルが起きることも事実です。その場合でも多くの場合は合理的に話し合いができて解決するものですが、そうでもない場合も起きるわけです。実例をあげて対処法を考えてみましょう。

実例1 故障したプリンター

 フリマサイトで中古のプリンターを購入しました。商品説明では「つい最近まで使っていた完動品」と書かれていましたが電源を入れたらいきなりエラーランプがつきます。ネットで調べるとそのエラーランプの点滅が意味するのは「メーカー修理が必要」というサインですが、ご存知かもしれませんが大手メーカーは販売後一定期間を過ぎたプリンターの故障は修理してくれません。

 それで話し合って取引キャンセルとなったのですが、問題は私の手元に届いている故障品。取引相手は「そのまま返送しなくても大丈夫です」というのですが、それは返送コストがかかるから。私からすれば着払いで返送したほうが楽なのですが、それをやられると相手にはさらに1200円ほどの損失が上乗せになる。だから相手はストリート流の交渉に入るのです。

 このときは実は私が意図的に折れました。プロフ欄で相手の方が「事故に遭って在宅となり不要品を処分している」と書いていたので、ちょっとかわいそうになったのです。私が400円払って粗大ごみに出したのですが、このように自分に不備がなくても少額のお金で穏便にすますというのもストリート取引のたしなみかもしれません。

事例2 サイズの違うケース

 あるアメリカ製の有名なキッチン家電で音がとてもうるさい商品があります。調理のためにスイッチをいれるとあっという間に野菜や肉が砕けてペースト状になり便利なのですが、とにかくけたたましい音が出ます。アメリカの郊外の一軒家なら気にならないのですが、日本の集合住宅では周囲の反応が気になってしまいます。

 そんな人のために、それをすっぽりと覆うケースがアメリカのアマゾンで売られています。スタバでフラペチーノをつくるときに使われるブレンダーをアクリルケースが覆っていますが、あれとよく似たものを作ってマーケットプレイスで販売している人がいるのです。300ドルほど支払って取り寄せたところ、なんと相手の発送ミス。サイズが合いません。

 これも相手と英語で話し合い、正しいサイズのものを送ってくれたのですが、問題は手元の商品。国際郵便で返送すると高額のコストがかかります。すると相手から「君がヤフオクで売りさばいてくれないか? 売上の半分をあげるから」とオファーがありました。

 2万円と定価より安く出品した商品は、1週間ほどで私のとは一回り違うサイズの商品を使っている人が買ってくれて、約束どおり半額の1万円が私の手元に残りました。アメリカ人はつくづくタフだなと思った出来事ですが、結果的には彼も返送されるよりも損にはならないのでしょう。そのうえで私も300ドル(約3万3000円)の商品を1万円安く手に入れることになりました。最初に送られた商品をオークションで安く買った人も含めて三方がまるくおさまったという意味では、いい感じのストリート経済の解決事例ではないでしょうか。

事例3 輩(やから)との遭遇

 フリマサイトiPhoneを購入したのですが、購入ボタンを押した直後に失敗に気づきました。買ったつもりの機種と実際に買った機種が違うのです。

 フリマサイトでいい状態のiPhoneを探すのは伏魔殿のようなものです。こちらはiPhoneXの美品が欲しいと思っていても、検索結果ではそうではない商品がどんどん表示されます。価格が安いと思って押してみたらiPhone8やiPhone7だというのが日常茶飯事。「目立つ傷もなくきれい」だという表示の商品でも「Face IDが機能しません。ジャンクとしてお考えください」などと平気で商品説明が書かれています。「ジャンクなら目立つ傷がないとかにチェック入れるな!」と思うのですがここはストリート。自分がうっかりしていると変な商品を購入してしまいます。

 さて、なぜ失敗したのか理由は後述しますが、とにかく間違った機種をフリマサイトで割高な価格で購入してしまいました。すぐに取引メッセージを通じて「取引をキャンセルできないか?」と申し出たのですが、相手からは高圧的な返信が。

「せっかくこれまで他のユーザーの注目を集めていたのにキャンセルして再出品になればそれが消えてしまう。迷惑だから買ったものはきちんと買ってくれ」

 ごもっともな反応でこちらはぐうの音もでません。そしてすぐに「発送したから受け取ってくれ」と追い打ちをかける連絡が届きます。

 なんで失敗したのか調べてすぐに理由がわかりました。商品説明文と商品名が違うのです。商品説明文にはiPhoneXSだと書かれていて、それは私が探していた商品なのですが、商品名の欄にはiPhoneX SpaceGrayと書かれている。彼が送ってきたのはiPhoneXでした。

 説明と違う商品を売ったのなら私のほうに分があると思いますが、実はストリート経済はそう簡単ではありません。フリマサイトのカスタマーサービスに連絡をとったところ、このような商品説明が違うケースのトラブルでも事務局は自動キャンセルしないルールになっていて、当事者間での話し合いをするように返事がきました。話し合いがつかなければ最終的に救済制度があるのですが、まずは8日間、当事者間で話し合えというのです。

 相手は輩です。最悪騒がれた場合として私が覚悟したのは3万円ほど。その損失についてはいったん泣き寝入りし、たぶん届いた商品をフリマサイトで売れば2万円ぐらいは取り返せるという損失計算はしました。

 とはいえストリートで生き抜く多少の耐性は私も持っています。商品名と商品説明が食い違っているのは事実で、その点で事務局にクレームを入れている旨を伝えたところ、分の悪さを理解したのでしょう。無事、相手がキャンセルに応じてくれる結果に。

 ストリートではにらみ合いになって「イエス」と言ったら負けです。でも常にファイティングポーズ一辺倒だと、いつか大怪我をするかもしれません。ストリートでは負けたままで逃げたほうが被害が少ないケースがあるのも事実。日本人が少なからずこれと同じリスクに直面する時代が来たのだと私は思っています。ストリートでの身のこなし方が問われる時代がやってきたのです。

鈴木貴博/百年コンサルティング代表取締役

鈴木貴博/百年コンサルティング代表取締役

事業戦略コンサルタント。百年コンサルティング代表取締役。1986年、ボストンコンサルティンググループ入社。持ち前の分析力と洞察力を武器に、企業間の複雑な競争原理を解明する専門家として13年にわたり活躍。伝説のコンサルタントと呼ばれる。ネットイヤーグループ(東証マザーズ上場)の起業に参画後、03年に独立し、百年コンサルティングを創業。以来、最も創造的でかつ「がつん!」とインパクトのある事業戦略作りができるアドバイザーとして大企業からの注文が途絶えたことがない。主な著書に『日本経済復活の書』『日本経済予言の書』(PHP研究所)、『戦略思考トレーニング』シリーズ(日本経済新聞出版社)、『仕事消滅』(講談社)などがある。
百年コンサルティング 代表 鈴木貴博公式ページ

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