ファミリーマートの澤田貴司副会長が2月28日付で退任し、顧問になる。2016年9月に旧ファミリーマート社長に就任。21年3月に副会長に退いていた。
「社長時代はコンビニのオーナーの集会などで人気者だった。広告塔の役回りだった」(ファミマ元役員)。
この1年は実務からは遠ざかり、退任は「本人の意向」(広報)としている。ファミマの経営のカジ取りは親会社の伊藤忠商事出身の細見研介社長と高柳浩二会長のコンビが担う。澤田氏は1月27日、再生医療関連のスタートアップ企業セルソース(東証マザーズに19年に上場)の社外取締役に選任された。セルソースは体型補正用婦人下着のマルコと提携し、医療支援クラウドのエムネスとも連携した。セルソースの社外取締役には官民のコーディネーターとして活躍している藤澤久美氏(シンクタンク、ソフィアバンク代表)が就いている。澤田氏が社外取締役になったことで“有名人”の社外取締役が増えた。
「志半ばでファミマを去ることになる」(澤田氏に近いベンチャー企業家)。澤田氏にとっては21年6月、自分の会社リヴァンプの新規株式公開に失敗したことのほうが痛手だったかもしれない。リヴァンプは21年5月、東京証券取引所から上場承認を受け、6月29日、ジャスダック市場にお目見得する段取りになっていた。創立者の澤田氏は持ち株を売り出し、新規上場で巨額の現金を手に入るはずだった。
リヴァンプは05年9月、「プロ経営者」として知られるファーストリテイリング出身の澤田氏と玉塚元一氏の2人が設立したコンサルティング会社である。16年、アンダーセンコンサルティング(現アクセンチュア)出身の湯浅智之氏が代表取締役社長執行役員CEO(最高経営責任者)に就任した。連結子会社4社、持ち分法適用会社4社でグループを形成していた。マーケティング事業ではBtoCビジネスを展開する企業に対する支援などを行っていた。
イグジットが頓挫
リヴァンプの売上高の4分の1が良品計画向け。カルチュア・コンビニエンス・クラブがリヴァンプ株式の議決権の20%超を保有しており、IPO発表当時の従業員数はグループ(連結決算ベース)で268人だった。創業者である澤田氏は126万株を保有し、第3位の大株主(保有比率は17.71%)。IPOに当たって100万株を売り出す予定だったことから、「リヴァンプの新規上場は澤田氏のイグジット(出資分の回収)の色彩が強い」(新興市場に詳しいアナリスト)と指摘されていた。IPOの際の公開価格は2710円だったから、公開すれば澤田氏は最低でも27億円超のキャッシュを手にすることになるとされていた。ところが、上場直前にIPOは突然中止された。
「ファミマの社長は退任したとはいえ、代表権を持つファミマの副会長がIPOで上場時の株価次第で30億円以上のキャッシュを手にすることに批判が出た」(新興市場に強い中堅証券会社の営業幹部)と取り沙汰された。「伊藤忠からも『好ましい話ではない』との指摘があった」(伊藤忠の元幹部)。
リヴァンプの共同創立者の玉塚氏は、発行済み株式の2.88%を保有する第7位の株主。ユニクロを運営するファストリやローソンの社長を歴任。ロッテホールディングスの社長に転じた。さらに、22年の年明け早々に、ラグビーの新リーグ、NTTリーグワンの理事長に就いた。ロッテの経営とラグビー新リーグ理事長という二刀流に挑戦中である。今春、玉塚氏は経済同友会の副代表幹事にもなる。「プロ経営者として再評価される途上にある」(前出の新興市場に詳しい証券筋)。
澤田氏は64歳。「上場企業トップへのスカウトの話もあると聞く」(前出の伊藤忠元幹部)。確かに話題は集めたが、ファミマの経営トップとしての実績は乏しい。「伊藤忠のドン、岡藤正広会長CEOの期待に応えられなかった」(同)との辛口の評価もある。
(文=Business Journal編集部)