2021年3月から全国展開されたファミリーマートの衣料品ブランド「Convenience Wear(コンビニエンスウェア)」は、モードブランド「FACETASM(ファセッタズム)」のデザイナー・落合宏理氏の起用や、機能性の高いラインナップを揃えたことで、若い世代からも注目を集めているという。なぜファミマは、衣料品に改めて力を入れ始めたのだろうか。
“ファミマソックス”の着用動画が大流行
ファミマの衣料品ブランド・コンビニエンスウェアでは、今までのコンビニの衣料品コーナーでもよく見られた肌着やソックスのほか、1枚で外出できる「アウターTシャツ」や今治産のタオル、エコバッグなど、多様な商品が販売されている。
特に、白地に緑と青のラインというファミマのイメージカラーを用いた独自デザインの靴下は10~20代の若者を中心に「ファミマソックス」と話題になり、動画投稿アプリ「TikTok」に、このソックスを着用したムービーを「#ファミマソックス」のハッシュタグをつけてアップすることが流行した。
同ハッシュタグがついた数々の投稿の総再生回数は650万回を超えており、さらにネット界隈で広がりを見せている(2021年10月31日時点)。
加えて、今年6月には、俳優の木村拓哉が白地に青と緑のラインが入ったソックスを着用した写真をインスタグラムに投稿。「キムタクが履いているのはファミマソックスでは……」と話題を呼び、若者以外の世代にも手に取りやすいイメージが広がった。
ただ、同社の衣料品がここまで人気になった理由について、コンビニ評論家の渡辺広明氏は「SNS効果だけではなく、確かな品質も持ち合わせているからでしょう」と予測する。
コンビニエンスウェアの商品には、厳選されたオーガニックコットンや、旭化成が開発を手がけた汗をかいてもベタつかない「ペアクール」など、かなりこだわった素材が使われているのだ。
コンビニで売っている衣料品といえば、「外出先で服が汚れたり、急な宿泊になったときに買うもの」というイメージが強い。そのため、せっかく買ったコンビニ衣類を「その後も繰り返し着続けるのは恥ずかしい……」と抵抗を持つ人も多かったのではないだろうか。
しかし、今や「消費者側の意識も変化している」と渡辺氏は分析する。
「これまでのコンビニ衣料品も、品質はかなり良かったんです。ただ、主に緊急時の間に合わせとして購入されるという性格上、質に対するイメージはあまりよくありませんでした。しかし、近年の消費者は『どこで買ったか』というブランド志向から、デザインや品質にこだわって商品を選ぶ傾向に変化しつつあります。つまり、質さえ高ければコンビニ衣類でも積極的に着る、という意識に変わってきたといえるでしょう」(渡辺氏)
ファミマが高品質な衣料品PBを立ち上げられた理由
かつて、ファミマで無印良品の衣料品を扱っていたことを覚えている人は多いだろう。しかし、19年1月に提携が解消され、衣料品だけでなく、すべての無印アイテムの取り扱いを終了している。
ファミマが大手メーカーの衣料品の取り扱いをやめてプライベートブランド(PB)を立ち上げた背景について、渡辺氏はこう解説する。
「無印とファミマの提携解消についてはいろいろな要因がありますが、衣料品に関して言えば、ファミマは以前からPBに進出したいと考えていたはずです。そもそも、ファミマの親会社の伊藤忠商事は衣料品を祖業とする会社。伊藤忠の長年蓄積された繊維事業に関するノウハウと人脈を活かせば、ハイクオリティな商品開発ができる。さらに、PB商品を展開すると利益率は約20%向上するといわれているので、ファミマにとっては念願の参入だったと思います」(同)
加えて、全国チェーンのコンビニだからこそ持つ圧倒的なバイイングパワーという武器も、PB展開の可能性を広げた要因のひとつだ。
「ファミマは国内だけで1万6641の店舗があります(2021年9月30日時点)。それだけの販売チャネルがあれば、大量生産が可能になる。また、商品を製造しているのはベトナムや中国の協力工場ですが、ユニクロやGUといったファストファッションブランドよりも商品のバリエーションが少なく、単品の商品においては、定期的に大量受注できるコンビニの衣料品のほうが仕事を受けやすいという状況だったと思われます」(同)
このような大量生産・大量販売の体制が確立すると、品質だけでなく価格帯の面でも、ファストファッションブランドとさほど差がない商品を調達できるようになる。
男性用肌着を例に取ると、ファミマ・コンビニエンスウェアの「ボクサーパンツ 前開き」は649円(税込み、以下同)。ユニクロの「スーピマコットンボクサーブリーフ(前開き)」は590円。若干の価格差はあるが、ファミマは世界的ファストファッションブランドにコストパフォーマンスでも肉薄していることがわかる。
コンビニの衣料品は「緊急用」から「日常使い」へ
ファミマが自社の衣料品を「緊急用の間に合わせ」から「日常使い」できる商品に変えようとしている背景には、コンビニ業界全体に対するニーズの変化も関係している。
「2011年の東日本大震災を機に、コンビニが今まで以上に“生活のインフラ”として認識されるようになりました。それによって、今まで主力だった食品に限らず、より広いカテゴリーにおいて、便利で安くて日常使いできる商品を充実させる動きが見られます。ファミマのコンビニエンスウェアの立ち上げも、コンビニ衣料品がカジュアルな日常使いにシフトし始めた動きの表れといえるでしょう」(同)
さらに、新型コロナウイルスの流行がこの傾向に拍車をかけ、コンビニ商品の拡充と質の向上がさらに進んでいるという。
「テレワークの普及や外出自粛で人々が遠出しなくなり、住宅地にあるコンビニ店舗の売り上げが拡大しました。この傾向はこれからも続きそうなので、今後はわざわざ遠くのデパートや商店街に行かずとも、近所のコンビニで質のいい食べ物や日用品、衣料品が揃えられるようになっていくはずです」(同)
衣料品のPBを立ち上げて注目を集めるファミマだが、セブン-イレブンやローソンといった他の大手コンビニチェーンは今のところ静観しているように見える。しかし、渡辺氏は「今後、コンビニの衣料品PBが増える可能性は高い」と予想する。
「ローソンの親会社の三菱商事は繊維事業部を有しており、セブン-イレブンの親会社であるセブン&アイ・ホールディングスも衣料品には強い。いずれも自社で衣料品ブランドを展開する力は十分にあるので、今後はファミマの動きに追随する可能性はあると思います」(同)
より質が高く、普段使いできるクオリティの衣料品が広がれば、これからは「服を買うためにコンビニに行く」ことが当たり前になるかもしれない。
(文=田中慧/清談社)