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舘内端「クルマの危機と未来」

EV世界覇者テスラを脅かすのはトヨタより日産・ルノー・三菱連合と考えられる根拠

文=舘内端/自動車評論家
EV世界覇者テスラを脅かすのはトヨタより日産・ルノー・三菱連合と考えられる根拠の画像1
テスラ「Model 3」(「Wikipedia」より)

日産の決意

 日産・ルノー・三菱の3社連合は、EV(電気自動車)に2026年度までの5年で3兆円を投資、さらに28年度に向けて全固体電池の開発を推進。これらを合わせて成長著しいテスラを猛追する。量産EVの開発、販売で最も長い歴史を持つ3社連合は、果たしてテスラを超えることができるだろうか。

世界最強のEV連合

 EV史上、初めて組み立てラインを組んでEVを量産したメーカーは三菱自動車工業である。モデルは軽自動車のi-MiEV。09年のことであった。その1年後の10年に日産自動車が2番手として登場。小型ハッチバックのリーフを世界に送り出した。ルノーは12年に3番手として登場。リーフとほぼ同じサイズのハッチバックEVを量産した。現在でも性能を向上させて量産を続けるゾエである。日産・ルノー・三菱の3社連合は、世界で最も早くEVの量産を手掛けたメーカーの連合だということだ。

 3モデルともに大量に売れたわけではなく、3社ともに販売には苦労している。ともに苦労したのはマーケット、つまりユーザーが求めているEVの性能(航続距離)であり、機能(充電時間)であり、価格であった。さらに加えれば、充電網の整備であり、日本では「EVなんかに乗ってどうするの?」という他人からの視線であった。EVそのものではないが、ユーザーを不安に陥れる他の要素も販売に大きく影響するという事実を突きつけられた。これらの解決がEVパイオニアたちに課せられた責務だった。

 しかし、販売が伸び悩むなかで、彼らが実験室ではない実際の街中で、高速道路で、EVを走らせ、そして何よりもユーザーを通じてつかんだEV造りと販売のノウハウ、そして何よりもEVの設計、生産、販売に向かう真摯な気持ち、つまりEVへの愛は彼らが得た大きな財産である。

 経験から得たこれらは、新型EV開発にとってもっとも重要なものであり、EVのニューカマーや、ましてや、これから開発を始めるカーメーカーが手に入れたくてもすぐには入手できないものである。つまり、世界最長のEV生産の歴史を持つ連合体が生まれたわけだ。EV後発のトヨタ自動車がどんなに悔やんでも、莫大な開発資金を投入しようとも、手に入れられない10年以上のEV生産と販売の経験が3社連合にはある。

 そうした目に見えないデータも含めて、EVの膨大なデータと経験を持ったメーカー3社が、5年で3兆円という莫大な研究・開発費をつぎ込んで新しいEVを開発するためにアライアンスを組んだ。世界に数ある他のカーメーカーとも、EV未経験のメーカーを集めた連合とも、一味も二味も違う強い開発力のある連合だ。テスラに対峙できるのは、この3社連合ではないだろうか。

EVの生産台数では負けない

 日産の21年の販売台数は407万台、ルノーのそれは264万台、三菱自動車は105万台。合わせて776万台である。トヨタの21年の台数の1049万台や、VWの888万台には及ばないが、これがEV(PHEV)の生産台数になると、少々話が違ってくる。

 20年のこれらの電動車の生産台数は、テスラの50万台をトップに、VWが22万台、BMWが16万台、メルセデス・ベンツが15万台、そしてルノーが13万台、日産が6万台、三菱(19年)が5万台(PHEV)であった。ちなみにトヨタは5万台である。日産、ルノー、三菱の3社連合のEV(PHEV)の販売台数は計24万台となり、テスラに次いで世界第2位に躍り出る。これは日産、ルノー、三菱が連合を組むことは、十分競争力のあるEVメーカーが誕生することを意味しているのではないだろうか。

エンジンの開発をやめて資源をEVに注力

 日産は日本、欧州、中国向けのエンジンの新規開発をやめる。すでに欧州向けのエンジン開発はやめている。25年から実施される排ガス規制がEVの開発費を上回る非常に厳しいものになるからである。加えて日本、中国向けのエンジン開発もやめるということだ。莫大な開発費をもつトヨタであれば、FCEVや水素エンジン、HEV等の全方位の開発が可能だろうが、いかに日産といえども一点集中しなければ激化するEV競争に勝てないというわけである。もちろん、3社連合のアライアンスもこうした事情によるものと考えられる。EV開発の盤石な基盤を作ろうというわけだ。

具体性のある3社連合のEV開発計画

 そればかりか、3社連合のEV開発にはトヨタの昨年12月14日の発表に比べて、ずっと具体性がある。記者会見は豊田章男社長のトヨタへの愛が伝わるもので、「トヨタのEV突撃宣言」といってもよい内容だった。しかし、中身となると「30年時点のEVの販売台数を350万台に引き上げる」「30車種のEVを開発する」、そして「開発と設備に4兆円投じる」の3点だけであり、具体的なロードマップもなく、特にEV開発、生産増大には欠くことのできない「車載電池開発、生産」への具体的な言及はなく、電池工場の建設のみであった。

 一方、日産、ルノー、三菱の3社連合では、

・リーダーとフォロアーの確立

・5種類のEV用共通プラットフォーム

・3社共通の車載電池

というEV開発の重要案件について計画を公表している。特に車載電池に関しては、全固体電池を含めて突っ込んだ発表があった。

共通プラットフォームの開発でリード

・リーダーとフォロアーの確立

 たとえば日産のコンパクトカーである欧州名「マイクラ」、日本名「マーチ」の後継車をEVとして開発、欧州市場に投入する。デザインは日産、シャシーの開発と生産はルノーが担当するが、この新型EVのリーダーは日産であり、日産のブランドとして欧州で販売される。しかも「CMF B-EV」と呼ばれる共通プラットフォームを使うので、他社はそれぞれのスタイリングのボディを開発、このプラットフォームに載せ、それぞれの名前を付けて販売することが可能だ。日産は、このEVを「e-NV200」の後継車の新型「タウンスター」を含む(ルノーが生産する)日産車のラインアップのひとつとする。

 またCセグメント、Dセグメントの共通プラットフォームに、日産は「キャシュカイ」と「エクストレイル」の2モデルを、三菱自動車は「アウトランダー」を、ルノーは「オーストラル」をそれぞれデザインし、搭載する。

・5種類のEV用共通プラットフォーム

 こうしたリーダーとフォロアー体制を確立するために5種類の共通プラットフォームを開発する。結果としてプラットフォームの共用化で90車種を生産、共用化率を80%に高めるという。

具体性のある3社共通の車載電池

 EV戦略でもっとも重要な車載電池に関しても、具体的な内容を発表している。共通の車載電池を使うことでスケールメリットを高め、電池のコストを2026年には50%、2028年には65%削減し、EVのコストをエンジン車と同等とするという。また、生産能力は30年までに220ギガワットとし、十分な電池供給体制を確立する。220ギガワットというと、EV1台当たりの電池搭載量を70キロワット時と見積もると、およそ310万台分となる。さらに全固体電池の開発にも具体性があり、24年に車載テストを開始し、28年の半ばまでには量産体制を確立するとしている。

 トヨタは30年までに30車種のEVを開発し、350万台生産するとしているが、具体的なロードマップの発表もなく、特に電池戦略には具体性を欠く。それに比べると日産、ルノー、三菱の3社連合のアライアンスには具体性があるといえるのではないだろうか。

 さあ、テスラを猛追するのはトヨタだろうか。それとも日産、ルノー、三菱の3社連合だろうか。
(文=舘内端/自動車評論家)

舘内端/自動車評論家

舘内端/自動車評論家

1947年、群馬県に生まれ、日本大学理工学部卒業。東大宇宙航空研究所勤務の後、レーシングカーの設計に携わる。
現在は、テクノロジーと文化の両面から車を論じることができる自動車評論家として活躍。「ビジネスジャーナル(web)」等、連載多数。
94年に市民団体の日本EVクラブを設立。エコカーの普及を図る。その活動に対して、98年に環境大臣から表彰を受ける。
2009年にミラEV(日本EVクラブ製作)で東京〜大阪555.6kmを途中無充電で走行。電気自動車1充電航続距離世界最長記録を達成した(ギネス世界記録認定)。
10年5月、ミラEVにて1充電航続距離1003.184kmを走行(テストコース)、世界記録を更新した(ギネス世界記録認定)。
EVに25年関わった経験を持つ唯一人の自動車評論家。著書は、「トヨタの危機」宝島社、「すべての自動車人へ」双葉社、「800馬力のエコロジー」ソニー・マガジンズ など。
23年度から山形の「電動モビリティシステム専門職大学」(新設予定)の准教授として就任予定。
日本EVクラブ

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