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ブックオフ、俺のフレンチ創業者が死去…日本の読書文化を変えた坂本孝の功罪

文=Business Journal編集部
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ブックオフ(「Wikipedia」より)

 ブックオフコーポレーションの創業者で、俺の株式会社の名誉会長を務める坂本孝氏が1月26日、肺疾患のため死去した。81歳。坂本氏は新事業の立ち上げで異才を放った人物である。山梨県甲府市出身。1963年、慶應義塾大学法学部を卒業し、父が経営する精麦会社・坂本精麦に入社。起業家精神が旺盛な彼は飼料会社、オーディオショップ、中古ピアノの販売、遊休地再開発などさまざまな事業に手を出した。

 1991年、中古書籍販売のブックオフコーポレーションを設立し、全国に新古書店を展開。アイデアは中古ピアノの買い取り業と、チェーン展開していたドラッグストアをミックスして生まれたという。これが大当たりした。

 それまでの古書店の常識を次々と打ち破りながら、チェーン店舗型の新古書店という新しいビジネスのスタイルを確立した。古くて希少の本を高い値段で引き取ってくれる古書店とは商売のやり方がまったく違った。マンガや単行本のベストセラーなどエンターテイメント性の高い大衆的な本や世間で評判になっている本ほど、相対的に高い値段で買い取ってくれた。

 買い取り価格は、汚れ、色褪せ、傷などの本の状態のほか、出版年月、本の種類などを基準に、あらかじめ決められている。買い取り価格は原則として全国一律だ。統一された価格システムだったので、老舗の古書店の店主のように本を鑑定する“目利き”といった特別なノウハウやスキルを持つ必要はない。パートやアルバイトでも店員が務まった。マニュアル化、均一化を徹底したことがチェーン展開の成功の原動力となった。

 古書店の店内は「太陽や蛍光灯の光は古書によくない」という理由から薄暗く、本の愛好家やコレクターの集う場所というイメージがあった。ブックオフは、これまでの古書店のイメージを打ち消すために広々とした店内に光を取り込み、誰でも気軽に立ち寄れる、コンビニエンスストアのような店舗づくりを目指した。その結果、老若男女あらゆる人がブックオフを訪れるようになった。

 スタートした当初は「素人が成功するほど手軽な商売ではない」と冷笑する人が多かった。一般の人が古本を買うはずはないという固定観念にとらわれていたからでもある。店舗が増えると、今度はブックオフ叩きが始まった。新刊書店は「ブックオフは万引きの温床だ」と批判した。若者が新刊書店で万引きして、ブックオフに持ち込めば、すぐ現金化できたからだ。作家や出版社は「新刊が売れなくなる」と怒った。

 ブックオフが成功したのは消費者が喜んだからにほかならない。古書店の店先に書かれていた「本買います」という言葉は、店員が顧客よりも上の立場に立っている。こう考えた坂本氏は、顧客の視点に立ち「本お売りください」と呼び掛けた。この言葉がブックオフの爆発的な成長につながったといわれている。

「文春砲」の一撃でKO

 ブックオフは2004年、東京証券取引所第2部に上場、05年に1部に昇格した。坂本氏は06年、会長に就任。この年、ハーバードビジネススクールのベンチャーオブザイヤー賞を獲得した。坂本氏は「時代の寵児」ともてはやされた。あの事件が起きるまでは―――。

 07年5月9日発売の「週刊文春」(文藝春秋)は、坂本会長兼CEOが親族が代表を務めている会社等を通じて、同社のフランチャイズ加盟店に本棚を納入した販売会社からリベートを受け取っていたと暴露した。

 調査委員会は、坂本氏は取引先からリベートを受け取っていたものの、「取引に直ちに違法性は認められない」とした。それでも不透明な取引であることは間違いない。坂本氏は8年間に受け取った7億4200万円の“手数料”を全額、会社に返還した。経営責任を取り、07年、会長を引責辞任。ブックオフを去った。

稲盛和夫氏に叱られ再起

 坂本氏は京セラ創始者の稲盛和夫氏の影響を強く受けている。稲盛氏の経営塾「盛和塾」出身のベンチャー経営者の成功例だった。師と仰ぐ稲盛氏は、常に相手の利益を考える「利他の精神」を教えていた。リベート問題は、その精神を踏みにじる行為だと見なされた。

 18年3月19日付「ダイヤモンドオンライン」記事によれば、坂本氏は東京駅の京セラに近い稲盛氏の事務所に呼び出されたという。

<稲盛塾長の第一声は、「あんたは盛和塾でなにを勉強してきたのか!」だった。稲盛塾長は、「君は復讐しようとしているな」とも言った。図星である。実は私はそう思っていた>(「ダイヤモンドオンライン」記事より)

<稲盛塾長は、「挑戦しろ」と言ってくれた。「俺が付いているから大丈夫だ。なんでも相談に来い。いつでも電話かけてこい」>(同)

 坂本氏は再起を図る。立ち飲みで回転率を高め、高級な料理を安い値段で提供する事業に商機を見出した。2012年、「俺のフレンチ・俺のイタリアン(現・俺の株式会社)」を設立し、一大ブームを巻き起こした。ブックオフの持ち株を売却して新事業の軍資金とした。

 2月9日付東京新聞(夕刊)は坂本氏の死に触れ、次のように綴っている。

<ブックオフのあと、ヤフオク!やメルカリが登場した。安く買って、読み終えたらすぐ売る。書物は所有するものではなく、読書という経験を楽しむものになった>

<坂本のもたらした書物観や読書観の変化は、いいものなのか悪いものなのか。我々は何を失い、何を得たのか。それを判断するのはまだ早い>

 ベンチャー経営者の死が文化論に関連して論じられるのは珍しいことだ。

(文=Business Journal編集部)

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