
1月27日の米ニューヨーク株式市場で電気自動車メーカー(EV)、テスラの株価が急落し、1日で時価総額1090億ドル(約12兆6000億円)が吹き飛んだ。テスラ株は約12%安の829ドルで引けた。S&P500種株価指数の構成銘柄で2番目に大きい下げを記録した。ブルームバーグによれば、時価総額が1日で1000億ドルあまり減少したのは昨年11月9日以来のことだという。
テスラの2021年10~12月期決算は売上高が前年同期比65%増、純利益は8.6倍と高い伸びを示した。世界の自動車大手が半導体不足で減産を迫られるなか、年間の生産台数は83%増の93万台と高い水準を維持した。
好決算にもかかわらず、売り物を浴びたのはなぜか。ブルームバーグは次のように報じた。
<イーロン・マスク最高経営責任者(CEO)は電話会談で、年内に新型モデルを市場に投入しないと説明。同氏が約束していた「製品ロードマップの更新」に「サイバートラック」(ピックアップトラック)や「セミ」(電動トラック)、将来の低価格モデルの計画に関する強気のニュースが含まれると想定していた多くの投資家を失望させた>
市場アナリストは「テスラは明らかに勢いを失いつつある。競合が追い上げを図るなかで、2万ドル台半ばの低価格帯車の投入がないということは、成長見通しの足かせになる」と指摘している。
バンク・オブ・アメリカは1月27日のリポートで「米国とドイツの新工場について新しい情報を提供されず、新製品の情報も得られなかった」とテスラの説明不足を指摘。「21年の好業績よりも、22年の見通しのあいまいさが目につく」と、マスクCEOの成長シナリオに疑問符をつけた。
コロナ禍で経営環境が不透明さを増すなか、経営者にはきめ細かい情報提供と説明が求められる。時価総額で圧倒的な首位に立つテスラが名実ともに業界大手になるには、情報開示のあり方で一皮むける必要があるようだ。
ウォール街では「テスラは大手への壁に直面」と辛口の批判が出ている。3月3日(現地時間)のテスラの株価は840ドル前後である。
テスラ株の爆騰でマスク氏は世界一の大富豪に
気候変動対応への関心の高まりを追い風にテスラ株は個人投資家の人気が高く、21年夏以降、一本調子で株価は上昇した。21年10月25日に時価総額が初の1兆ドル(約113兆円)を突破した。テスラ株の上昇によってマスク氏は11月、世界一の大富豪になった。保有資産は、日本円にして35兆円とぶっちぎりのトップだ。一企業家の保有資産がトヨタ自動車の企業価値である株式時価総額を上回ったわけだ。投機マネーがもたらしたEVバブルと呼ばれるゆえんである。
マスク氏は高値でのテスラ株の売り抜けを図る。21年11月6日、保有するテスラ株の10%を売却するかどうかをツイッター上の投票によって決めると表明。1日で約350万票の投票を集め、「売却に賛成」が多数だったことから、11月8日から段階的に株式を放出した。