仏ルノーと日産自動車、三菱自動車工業の日仏連合は今後5年間で電動車開発に3兆円を投じる。電気自動車(EV)とコネクテッド車(ネットにつながる車)に注力し、2030年までにEV35車種を投入する。
アライアンスを結ぶ3社のトップがオンラインで会見した。開発費を抑えるために、3社で車台や部品の共通化を進める。3社の車種を26年度までに、今より1割減の90とし、共通の車台の割合を60%から80%に増やす。30年までに投入するEV35車種のうち約9割に、計5種類の共通車台を採用する。小型車向けの車台はルノーが開発、生産する。この車台を使って日産が欧州で発売する「マイクラ(日本名マーチ)」、ルノーの「R5」をEVにする。
EVの生命線である電池は、日産が28年半ばまでにリチウムイオン電池よりも小型化でき、安全性も高い全固体電池を開発する。この電池を30年度までに3社で共有する。ルノーが主導してコネクテッド車に必要なソフトなどの共通化も進める。提携の拡大の裏にあるのは、日仏連合の焦りだ。三菱自は09年、国内初の量産型EV「アイ・ミーブ」を、日産は10年に「リーフ」、ルノーは12年に「ゾエ」をそれぞれ発売したことでもわかるように、日仏連合は早くからEVの事業化に乗り出していた。
3社のトップだったカルロス・ゴーン被告は「EV王」になる野心を抱いていた。巨額報酬をめぐる不正事件が発覚し、逮捕された。さらにレバノンへ逃亡したことによって日産の経営は大混乱に陥った。アライアンスの中心人物だったゴーン被告が失脚したため、アライアンスは機能不全に陥った。
この間、EV市場は激変した。11年までは3社でEV市場の5割以上のシェアを占めていたが、米テスラなど新興勢力が台頭。21年にはテスラが世界シェアの21%を占めたのに対して日仏連合は、わずか3%にとどまる。日仏連合はEV事業の積極策に転じ、一気に遅れを取り戻したいと意気込んでいる。
EV化に巨額投資が相次ぐ
EV化の流れは、ここ1~2年で急速に速くなった。脱炭素社会の実現がEV化を後押しした。温室効果ガスの排出量と吸収量のバランスを取るカーボンニュートラル宣言を受け、世界の主要自動車メーカーがガソリン車の新車の廃止年限やEV化比率を明らかにしたからだ。
米ゼネラルモーターズ(GM)が21年1月、35年までにすべての乗用車モデルをEV化すると宣言して口火を切った。続いて、ベンツを擁する独ダイムラーが30年までに全新車のEV化を発表。国内ではホンダが40年までに全新車のEV化方針を打ち出した。世界自動車産業のトップに位置するトヨタ自動車と独フォルクスワーゲン(VW)は21年末近くになって、やっとEVへの巨額投資計画を発表した。それでも、21年は自動車業界がEVに一斉に走り出した年として記憶されることになるだろう。世界の自動車メーカーの電動化に向けた投資は次の通りだ。
・独VWはEVとデジタル化に11.4兆円
・トヨタは電動化に8兆円。うちEV4兆円、車載電池2兆円
・独メルセデス・ベンツはEVや自動運転に7.6兆円
・ホンダは電動化の研究開発に5兆円
・米GMはEVと自動運転に4兆円
日産・三菱自・ルノー連合の投資額は他の自動車メーカーに比べて少ないが、ルノーのクロチルド・デルボス最高財務責任者は、「3社はEV製造でこれまでの経験がある。これで十分だ」と述べた。EV世界首位のテスラの勢いが続くが、日産のアシュワニ・グプタ最高執行責任者(COO)は、「3社はすでに多くの車種を持っており、連合の効果で車種の競争力を高められる」と指摘。今後の勝負は「世界の販売地域を(EVが)100%カバーできるかどうかが鍵を握る」とした。テスラは販売網が弱いとの見方がある。「テスラの一強はそう長く続かない」との読みを、日仏連合はしているのかもしれない。
日本のEV市場をドイツ勢が狙う
日本自動車輸入組合によると、21年の輸入車販売台数は20年比1.4%増の25万9752台だった。このうち電気自動車(EV)は同2.7倍の8610台と過去最多を更新した。米テスラが輸入EVの販売拡大を牽引した。テスラは日本での販売台数を公表していないが、テスラを含む「その他」の台数は20年比2.8倍の5232台だった。テスラは21年に主力車種「モデル3」を大幅値下げし、国の補助金を使うと300万円台で買えるようになったことが追い風となり、販売台数を伸ばしたようだ。独メルセデス・ベンツグループのEVは4.4倍の1100台を売り上げた。
輸入車販売に占めるEVの割合は3.3%と20年から2ポイント上昇した。テスラ、メルセデス・ベンツ以外にも、独ポルシェ、仏プジョーも日本市場にEVを投入済みだ。22年にはスウェーデンのボルボ・カーなどがEVの販売を予定している。
トヨタと独フォルクスワーゲン(VW)は世界販売台数においてトップ争いを続けている。VW傘下のアウディは日本での販売に占めるEVの割合を1.5%から35%へと25年までに引き上げる。台数では年1万台超を目指す。EVの新型SUVを秋に投入し、販売店に急速充電網を整備する。
EVをめぐる、もう一つの大きな動きが、巨大ITによるEV事業への本格参入だ。アップルの新規参入がメディアを賑わし、ソニーグループが新会社を設立して本格参入を表明した。非自動車メーカーも続々と参戦。戦国乱世に突入した。EV普及の大きな課題は充電インフラの充実だ。充電器の国際規格の確立に向けた取り組みが早急に求められる。