米電動輸送機器大手「テスラ」の工場やサービスセンターの従業員・元従業員の女性6人が14日、同社を相手取りセクハラ訴訟を起こした。関連して同日、米大手テレビ局CNBCが記事『Former SpaceX engineer alleges in essay that company culture is ‘rife with sexism’』を公開。同社CEOのイーロン・マスク氏が経営する民間宇宙輸送サービス「スペースX」の元技術者女性が、インターネット上に公開したセクハラ告発を取り上げ、米国内で大きな波紋を広げている。
「社員寮でお尻を掴まれる」「腰から胸に手が……」
CNBCが前述のニュースで取り上げたブログは『At SpaceX, we’re told we can change the world. I couldn’t, however, stop getting sexually harassed.』(スペースXで、私たちは世界を変えることができると言われてきました。しかし、セクハラを止めることはできませんでした)。同社元技術者のアシュリー・コサックさんが実名で被害体験を手記としてつづっている。
手記によると、コサックさんは2017年からインターン勤務を始め、19年に「a build reliability engineer」としてフルタイム勤務になり、最終的に「mission integration engineer」に昇進したのだという。
コサックさんのセクハラ被害はインターンの時から始まっていた。コサックさんが社員寮のキッチンで皿を洗っていると、男性インターンからお尻をつかまれたのだという。事件を上司と同僚に報告したものの同社の人事担当者に報告は上がらず、「加害男性と一緒に住み続けなければいけなかった」と語っている。
さらに被害は続き、18年の「a team bonding event」(チーム交流会)では、男性の同僚がシャツ越しに腰から胸にかけて手を回してきたという。上司や人事担当者に、この“不適切な行動”を報告したが「誰もフォローアップしなかった」という。結局、コサックさんはこの加害男性と同じチームで働き続けることになったようで、「会社での地位が希薄で、私は自身を無力だと感じた」とつづっている。その後、コロナ禍でリモートワークをしている間も、「SNS上でコサックさんのアカウントを見つけた男性が誘ってくる」「別の男性が午前4時に電話をかけてくる」などのトラブルがあったという。
スペースXはCNBCの取材を拒否
また、別の女性に対する被害も目の当たりにしたようだ。「同意なしに女性を抱きしめる」「仕事をしている女性を見つめる」といった一部男性の行動を問題視し、「社内イベントを女性とデートする(もしくは殴る)機会だと解釈する人もいる」と指摘する。コサックさんは人事担当者にこうした状況を報告したが対応は鈍く、「加害者は会社のトレーニングプログラムが開催される」と言われたのだという。
コサックさんはプロジェクトの進行をめぐり、マスク氏と確執があったことも記している。そうした長年のストレスにより21年11月、主治医から動悸を引き起すパニック発作のため、休職を勧められたという。その際、「1週間の病欠をとったとき、人事から、『お金と引き換えに秘密保持契約に署名してもらうために、話をするように』との電話を受けた」と語っている。その10日後、コサックさんは同社を退職した。なお、加害者は責任を問われていないという。
前述のCNBCの記事によると、コサックさんはその後、米アップルで勤務しているという。CNBCは同社でセクハラ被害を受けた別の女性のインタビューも掲載している。またこうした事例に対し、同社に取材を申し込んだが、「スペースXは、CNBCの繰り返し行ったコメント要求に応じなかった」としている。
米国駐在経験のある全国紙経済部記者は話す。
「大手企業のセクハラ疑惑は、テスラやスペースX以外でも頻発しています。イーロン・マスク氏がタイム誌の『パーソン・オブ・ザ・イヤー』に選ばれたこともあり、米国内ではかなり注目を集めているのではないでしょうか。
一連の告発内容が事実かどうかはわかりません。しかし、マスク氏が過去、SNS上で下品な投稿したり、告発した女性従業員を揶揄するかのようなコメントを発したりしていたことも事態の悪化に拍車をかけています。テスラのケースで訴訟となったことで、マスク氏が率いる企業グループ内の“社風”の実態と真実が、法廷で明らかになると良いのですが」
“時の人”イーロン・マスク氏の率いる企業内で何が起こったのか。一連の告発は真実なのか。訴訟の行方に注目したい。
(文=編集部)