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小林敦志「自動車大激変!」

bZ4XはKINTOだけ…トヨタ、ディーラー“蚊帳の外”に販売現場で不安拡大の裏側

文=小林敦志/フリー編集記者
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トヨタの新型BEV「bZ4X」(「トヨタ自動車WEBサイト」より)
トヨタの新型BEV「bZ4X」(「トヨタ自動車WEBサイト」より)

 前回トヨタ自動車の量販BEV(バッテリー電気自動車)となる「bZ4X」が「KINTO」(トヨタの個人向けカーリースプラン)のみで提供されることについて、トヨタの強大な販売力や従来の販売手法を中心に述べた。トヨタとしては、今までメインとし、得意ともしてきた売り方が世の中で通用してこなくなってきたことを感じて、このような手段を選んだのかもしれない。引き続き、新しい販売手法を模索しているのではないかという視点で考察していきたい。

 スマホを使いこなし、スマホでたいがいの買い物を済ませてしまう若い世代がメイン購買層となれば、トヨタの売り方どころか、店頭での値引き交渉なども必要となる今の新車の買い方が、そのまま支持されるとはとても思えない。その意味では、オンライン販売などの“新しい売り方”の構築は急務と言えるだろう。

 販売せずにKINTOのみとなると、トヨタ系ディーラーは消費者が「bZ4Xに乗りたい」としてウェブサイトから申し込むまでの行為には基本的に介在しない。bZ4XのKINTO申し込み開始前に店頭へ行くと、簡単なリーフレットのようなものは置いてあったが、「管理ユーザーなどから問い合わせがない限りはこちらからは動かない」とのことであった。

 ディーラーとしては、ウェブサイトで申し込む際に申し込み者が自宅などの最寄り店舗などから、メンテナンスなどで利用する店舗としてセレクトされると、初めてユーザーとコンタクトすることになる。「とはいっても、納車するまで顔を合わせないケースがbZ4X以外の車種でのKINTO利用ではよくある」とは、現場のセールスマン。

 納車後もメンテナンス窓口となるのだが、bZ4XはBEV(バッテリー電気自動車)なのでオイル交換やフィルター交換があるわけでもない。また、内燃機関車に比べればBEVは故障らしい故障(内燃機関車でもほとんどないが)はほぼないともいわれており、ディーラーでは儲けが少ないこともあり、どこか他人事のような対応が目立っている。セールスマンからは「将来的には我々の存在をなくすつもりでいる」とか、「我々の領分を狭くして完全に売り子的存在にして、人件費の軽減や人員削減を販売会社が進めるのではないか」などと不安の声も聞かれた。

bZ4XのKINTO限定はトヨタの壮大な実験か

 ちなみに、KINTO利用者をディーラーが受け入れる際には、車庫証明の申請および交付をはじめ、KINTOからの受注対応などけっこう事務処理の負担があるようだが、少なくとも担当セールスマンがもらえる“手間賃”は微々たるものになっているとの話も聞いている。KINTOのみにしたことにより、今までのトヨタ系ディーラーの強力な販売力のバックアップはほぼ期待できなくなっている。今回は年内を目途に3000台の申し込み受付の開始という、“はじめに台数ありき”なので、その意味ではディーラーを“排除”しても問題はないのかもしれない。

 ただ、圧倒的な国内販売シェアを誇るトヨタ車のユーザーは、クルマに趣味性を持ち、“トヨタ車でなければ”として選んで乗っている人たちばかりではない。単なる移動手段として、店舗が多かったり、今までセールスマンなどの接客に問題がなかったから、他メーカー同クラス車に比べリセールバリューが良いからなど、現実的な理由で選ぶ人も多いだろう。

 一方で、“セールスマンとの人間関係”や、それを重んじるユーザーからの紹介販売などもまだまだ多い。今回トヨタは、あえてそれら(セールスマンが売り歩く手法)に頼らず、“クルマの魅力だけでどこまで選んでもらえるのか”というのを試しているようにも見える。

 たとえばbZ4Xが仮にディーラーで販売もできれば、それほど多くはないとしても、すでに2代目となっているFCEV(燃料電池車)の「MIRAI」は、それでもけっこうな数が市中に流通している。ユーザーのなかには、“街の名士”のような地元企業経営者も珍しくない。所得に余裕があるなか、どんなものか乗ってみたいと、複数保有するクルマのなかの1台として乗っているケースも目立つ。

 MIRAIについても先方から欲しいとの話もあるだろうが、自分の顧客の中で“先進的なクルマに興味があり、しかも所得に余裕のある顧客”として、セールスマンがセレクトして売っているケースもあるだろう。HEV(ハイブリッド車)すら、まだまだ同クラス内燃機関車との価格差が目立つ中で(HEVが高い)、BEVやFCEV(燃料電池車)を普及させるには、当面は富裕層をメインターゲットにしていかざるを得ない状況になっているともいえる(より広い消費者に乗ってもらうためにはKINTOはありだと思うが)。

 充電や水素供給インフラの現状を見れば、先進的なクルマに興味があったとしても躊躇されることもあるだろう。そのようなお客の背中を押す役目がセールスマンなのだが、今回トヨタはあえてセールスマンの力を借りない道を選んだ(さまざまな事情があった結果なのかもしれないが)。

 このような状況を見て、「BEVを普及させるつもりがないのでは?」という声もあるようだが、筆者としては、新たな普及手法を探ろうとするトヨタのチャレンジ精神のようなものを感じてならない。そもそもBEVなど新エネルギー車は価格も高いし、これだけ普及しているHEVの現状を見ても、消費者が割高イメージを持ってしまう値付けが当分続きそうなので、所有ではなくカーシェアリングやカーリースのほうが馴染みやすいともいわれている。

 そうはいっても、“トヨタのBEVだから”といった、今まで培ってきたトヨタブランドが、「KINTOだけでも選んで乗りたい」と大きく影響していくのは間違いないだろう。

 懸念材料としては、販売現場へのメーカーの情報提供が少ないように感じるところ。現場では、今回の流れに対し“モヤモヤ”したものが出ているように感じる。つまり、ディーラー再編が進むのではないか(我々が用なしになるのではないか)といった、メーカーに対する疑心暗鬼が少ないながらも出ているような気がしてならない。

「現場のセールスマンが把握している情報は少ない印象が強く、店頭へ問い合わせた消費者へのベストな対応は期待できそうもないですね。販売現場とKINTOやメーカーとのコミュニケーションは、決してベストなようには外野からは少なくとも見えません」(事情通)

 商品だけでなく、さまざまな意味で将来を見据えた実験的要素が目立つbZ4X。消費者の反応がどのようなものとなるのか、実に興味深い。

(文=小林敦志/フリー編集記者)

小林敦志/フリー編集記者

小林敦志/フリー編集記者

1967年北海道生まれ。新車ディーラーのセールスマンを社会人スタートとし、その後新車購入情報誌編集長などを経て2011年よりフリーとなる。

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