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小林敦志「自動車大激変!」

「bZ4XはKINTOのみ」に見るトヨタの危機感…納期遅延でもトヨタ車が選ばれる理由

文=小林敦志/フリー編集記者
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トヨタの新型BEV「bZ4X」(「トヨタ自動車WEBサイト」より)
トヨタの新型BEV「bZ4X」(「トヨタ自動車WEBサイト」より)

 トヨタ初といっていい量販BEV(バッテリー電気自動車)となる「bZ4X」の「KINTO」(トヨタの個人向けカーリースプラン)月額利用料が2022年5月2日に決まったことが発表され、5月12日正午より申し込み受付開始となった。一般的に新型車ならば“新発売”などといった表現を用いるのだが、bZ4Xは販売を行わずにKINTOを利用することでのみ手に入れる(借りる?)ことはできないので、表現がなかなか難しい。

 KINTOのみということになったのは、“BEVの所有にまだ慣れていない消費者のため”とか、“BEVのリセールバリューダウンを危惧する消費者への配慮”、はたまた“販売した場合(売り切り)、そのまま海外へ持ち出されるなど技術流出を招きかねないから”、“電池搭載していることもあり持続可能な社会実現のため(HEV<ハイブリッド車>やPHEV<プラグインハイブリッド車>、FCEV<燃料電池車>は販売しているが……)”など、さまざまな情報が飛び交っている。ただ、いずれにしろトヨタが細心の注意を払って世に送り出しているという様子はうかがえる。

 トヨタ系正規ディーラーで話を聞くと、「今後登場してくるトヨタのbZシリーズ(BEV)は、すべてKINTOのみの扱いになると聞いている」とのこと。

 bZシリーズは言わずと知れた、ゼロエミッションとなる新エネルギー車であり、これから自動車の主流となっていくものなのは、みなさんもご承知の通り。ただ、筆者としては、トヨタはこのタイミングで新しい新車販売のあり方の本格構築も目指そうとしているように見えてしまう。

 今回は、新しい新車販売のあり方を模索しているのではないかという視点で考察していきたいと思う。

納期遅延でもトヨタ車が選ばれる理由

 トヨタ発表の統計によると、軽自動車も含んだ(含軽)トヨタ自動車(レクサス含む)の2021暦年締め年間国内販売台数は147万6136台、軽自動車を除いた登録車のみ(除軽)の場合は144万716台、ダイハツと日野を含めたグループ全体では210万8810台となった。一方、自販連(日本自動車販売協会連合会)と、全軽自協(全国軽自動車協会連合会)統計によると、2021暦年締めでの軽自動車を含めた年間新車販売台数は444万8288台となった。さらに、登録車のみの年間販売台数は279万5818台となっている。

 これらの統計数字をベースにトヨタおよびトヨタグループの国内販売シェアを算出すると、含軽でのトヨタ自動車単体の販売シェアは約32%、登録車のみでは約51%となった。また、トヨタグループ全体では約47%となっている。含軽ベースでホンダが約13%、日産が約10%となるので、国内販売においてトヨタおよびトヨタグループは圧倒的な販売シェアを持っているといえる。

 このような販売シェアを誇る背景には、多くの消費者の購買意欲をより刺激する幅広く数の多い魅力的な商品ラインナップもあるが、その強大な販売ネットワークが大きく貢献しているものと考える。「トヨタディーラーは街なかで数が多い」などを理由としてトヨタ車を選ぶ人も少なくない。

 一方で、今の深刻な納期遅延のなかで、特にHEVが売れ筋で人気モデルの多いトヨタでは深刻な納期遅延車が多く、思うように販売実績を積み上げることができない。しかし、そのなかでも、自販連の車名別販売ランキングの上位にトヨタ車は多くランクインしている。

 一般的に考えれば、「そんなに納車まで時間がかかるなら」と、納期が早めな他メーカー車へ流れてもおかしくないのだが、そのような傾向は目立っていない。トヨタ以外のメーカー系ディーラーでも、「それでもトヨタ車が選ばれる」と頭を抱えている。

 このような傾向の背景には、トヨタ系ディーラーが得意とする“販売手法”がある。“欲しい”と来店したお客に“売る”というよりは、自分が過去に新車を販売した“顧客”のなかからターゲットを選び“買ってもらう”という売り方が、ずば抜けて得意なのである。さらに、顧客からの新規紹介客への販売も得意とする。

 事情通によると「バブル経済真っ盛りの1980年代後半は、新車ディーラーに『新車が欲しい』と、お客がまさに“殺到”していました。それでも地域にもよりますが、トヨタ系ディーラーでは店頭での受注を販売実績としてはカウントしないというところもありました。“待つ”のではなく“攻める”営業スタイルを、当時は重視していました。単純な飛び込み営業は“度胸試し”程度に残っていた地域もあったようですが、何かきっかけをつかんでお客の懐に飛び込むというスタイル以外は認められなかったようです」とのこと。

 今では差別的表現で問題も出てくるかもしれないが、当時は1986年に男女雇用機会均等法も施行され、“女性セールスマン”も積極雇用されたが、現場では“店頭で売るのは女の仕事”などと平気で言われていた。また、展示車を見せたり、試乗などをさせないと買ってもらえないのは、技量や経験が足りない証拠などともいわれた。

 たとえば、お得意様となる地元企業の社長のもとを訪れ、「社長、クラウンが今度新型になりますよ」と伝えると、何も見ずに「最上級グレードにフルオプションで持ってこい」となり、契約成立となることは珍しくなかった。

人間関係で攻めるトヨタの販売手法

 バブル経済下でまだまだ日本も元気だった頃の話ともいえるが、今でもトヨタ系ディーラーセールスマンのなかには似たような売り方を得意とする人が多数存在する。人間関係が構築されれば、末永く同じ店舗(同じセールスマン/セールスマンは管理職にでもならなければめったに異動しないが、異動したときは馴染み客も異動先へついていく)でトヨタ車を乗り継いでもらうことができるのである。「○○さんの勧めるクルマなら間違いない」となるのである。

 たとえば新車へ乗り換えるつもりもないお客が点検などで車両を店舗に持ち込み、点検が終わるのを待っているときに、当然販売担当者としてあいさつに行き、雑談などをするのが今では一般的(今はコロナ禍でもあり、セールスマンがフラフラと外出することはあまりできない)。

 そのときに、そのお客が注目するような車種で、お客が選びそうなオプションを装着し、持ち込んだ車両の下取り査定額も盛り込んだ、値引き額もコミコミで算出した(馴染み客なので駆け引きなしの金額)見積り書を作成しておき、さりげなく見せながら「今なら買い時ですよ」と勧め、そのまま契約成立へ持ち込むことが少なくないのである。

 このような販売手法ができるのも、顧客とセールスマンの信頼関係がしっかり構築できているからこその話。しかも、家族のメイン車種を販売した後は、配偶者用や子どもが免許を取ったときなどの増車も、信頼関係が構築できていれば自然と受注することができる。顧客が事業主ならば仕事用のライトバンやトラックの受注につながるケースも意外なほど当たり前、というよりは、これができないと“トヨタマン失格”ともいわれてきた。

 今ではトヨタブランドの軽自動車(ダイハツからのOEM<相手先ブランド供給>車)までラインナップしているが、トヨタブランドの軽自動車がなかった頃には、メイン車種がトヨタ車であってもトヨタに軽自動車がないからと、セカンドカーなどが他メーカーに流れてしまっていたためであり、積極的に販売するつもりはほとんどないと聞いている。

 家族のクルマの増車では、メインで使うのが配偶者や子どもであっても、その車両代や維持費を負担するのは世帯主というケースが大半なので、世帯主に購入車決定権があったことも有利に働いていた(親が払ってくれるのだから、どのクルマになっても仕方ないと子どもも考えていた)。

“顔で売る”手法の限界とトヨタの危機感

 しかし、このようなトヨタが得意とし、圧倒的な国内販売シェアにも大きく貢献してきた販売手法は、世の中の変化とともに通用しなくなってきているのをトヨタも強く感じているのかもしれない。

 コロナ禍前の話となるが、店頭で商談をしていて、さらに話を詰めようと「今晩、お宅へお邪魔してもよろしいですか」とセールスマンが聞いても、「自宅に来られるのは困る」という反応を見せる(特に若い世代のファミリー)お客が目立ってきたとのこと。

 このようなお客が増えてきたことと、ディーラーのスタッフ不足もあり、外売りを控え店頭での効率的な販売活動をするようになり、今では店頭ですべてが完結するケースがほとんどとなっている(販売ツールのデジタル化も影響している/秘密保護の観点などから店頭以外でアクセスできないタブレットなどを使っていることもあるため)。さらに、コロナ禍となり、お客側の要請でもない限りは、お客の自宅を訪れるのは完全に“トラブルのもと”以外の何ものでもなくなっている。

 さらに“顔で売っていた”頃の“お得意様”の多くは高齢となり、運転免許の自主返納などをして、“卒車(乗用車を持たなくなる)”する人も目立ってきている。このままいけば、従来の販売手法メインでは先細りになるのは明らかにも見える。

 今時は、新車や住宅など一部の高額商品を除けばスマホで気軽に買える時代になっている。しかも、世代交代が進み、若い世代ほど“人間関係”などで選んでくれることはまず期待できない。自分の感性やライフスタイル、価値観、コスパ(コストパフォーマンス)などに合致しなければ買ってくれないのである。

 消費者側の意識変化もあるが、売る側も世代交代が進んでいる。個人情報保護というものが重んじられ、なかなかお客の懐の奥底まで飛び込めない時代背景もあるが、そもそも若い世代のセールスマンも、若い世代はコミュニケーション能力が足りないともいわれており、リアルワールドで友だち以外の人間と微妙な“距離感”を取るのは苦手なので深入りできない。今では単純な値引きなどの条件交渉がメインとなっており、新車販売業界全体でいえばセールスマンの“売り子”化が進んでいる。つまり、“その先(継続的に新車へ乗り換えてもらうなど)”へつなぐ商売がなかなかできないのである。

 さらに、bZ4XをKINTOのみで提供することについてはトヨタの思惑が見え隠れするのだが、そのあたりの事情については次回に詳述したい。

(文=小林敦志/フリー編集記者)

小林敦志/フリー編集記者

小林敦志/フリー編集記者

1967年北海道生まれ。新車ディーラーのセールスマンを社会人スタートとし、その後新車購入情報誌編集長などを経て2011年よりフリーとなる。

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