
ロシアによるウクライナへの軍事侵攻が続くなか、日本たばこ産業(JT)は「ロシアのたばこ事業を分離する」方針を明らかにした。寺畠正道社長は「グループ経営からの分離を含めた選択肢の検討を行っている」とのコメントを出した。国際的な批判にさらされるリスクを考慮したとみられる。実際に、たばこ事業を売却するかどうかは今後のウクライナ情勢を踏まえて判断する。
たばこ事業を統括するJTインターナショナル(JTI)の嶋吉耕史副社長はオンラインで開いた決算説明会で「従業員の雇用を継続するためにも第三者にロシア事業を譲ることも含め検討を始めている」と述べた。JTは、ロシア向けの新規の投資はすでに停止しているが、ロシアの4工場での生産やロシア市場での販売は続けている。
JTはロシア最大のたばこメーカーである。1999年、米大手RJレイノルズ(当時はRJRナビスコ)から米国以外の事業を9400億円で買収してロシアに進出。2007年、ロシア市場に強かった英ギャラハーを1兆7800億円で買収。さらに18年には、ロシア4位のドンスコイ・タバックを1900億円で手に入れ、事業を拡大してきた。
世界有数のたばこ市場であるロシアに、4000人の従業員と4つの工場を持つ。紙巻の「ウィンストン」や「キャメル」、加熱式の「プルーム」などを展開し、ロシア市場の37%のシェアを握り、首位の座を維持している。22年1~3月期の主要市場別販売数量でロシアは184億本と日本(145億本)を大きく上回る。フィリピン(69億本)、トルコ(67億本)、英国、イタリア(各48億本)も引き離す。ロシアが大黒柱なのである。
JTの売上高にあたる連結売上収益は22年12月期に2兆3150億円を見込んでいる。ロシア事業は8%の1850億円を予想している。ロシアとウクライナなど周辺諸国を含む営業利益はJT全体の約2割を占める。これまでも、大きな利益を稼ぎ出してきた市場だけに、実際に売却するかどうかは難しい判断となる。
ロシア市場で断トツのシェアを握るチャンス
JTは3月23日、東京都港区芝公園のザ・プリンスパークタワー東京で定時株主総会を開いた。元財務事務次官の丹呉泰健会長が退任し、岩井睦雄副会長が会長に昇格した。寺畠正道社長は留任。8年ぶりに会長、社長がともに生え抜きとなった。後任の副会長に元財務事務次官の岡本薫明氏を迎えた。株主総会の最大の注目はロシアでのタバコ事業をどうするかだった。
「ロシア、ウクライナの事業環境は過去に例がない厳しさだ。事業環境が大幅に改善しない限り、ロシア市場における製造を一時的に停止する可能性がある」。寺畠正道社長はこう語った。JTはロシアの4工場だけでなく、ウクライナにも1工場を持つ。ウクライナ中部クレメンチュークのたばこ工場では、日本向けの紙巻きたばこ「キャメル」を生産していたが、ロシアのウクライナ侵攻を受け、2月下旬に操業を休止した。