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JT、果敢な構造改革でグローバル企業化…たばこ事業の本社機能をスイスに移す

文=編集部
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「JT HP」より

 飲食店の屋内を原則禁煙とする東京都の受動喫煙防止条例が2020年4月に施行され、外食大手は店舗の全面禁煙を次々と打ち出した。「喫煙者を採用しない」とする民間企業も増えている。日本たばこ産業(JT)の調べによると、成人男性の平均喫煙率は27.8%(2018年)。ピーク時(1966年)の83.7%と比較すると約50年間で55.9ポイント減少した。今後、さらに減る。

 JTは落ち込みが続く国内たばこ事業で大規模な構造改革と組織再編を打ち出した。国内たばこ事業の本社機能をスイス・ジュネーブに移した上で、海外たばこ事業と統合する。主力のたばこ事業は、国内事業は本社が担当し、海外事業はジュネーブのグループ会社、JTインターナショナル(JTI)が担ってきた。2022年1月、国内事業をJT本体から切り離してJTIの傘下に置く。国内の販売計画や商品開発を含めた経営戦略全般をJTIが主導するかたちとなる。

 同時に大規模な構造改革を実施する。国内に4カ所ある生産拠点のうち、セブンスターを製造する九州工場(福岡県筑紫野市)を22年3月に閉鎖し、グループ会社の日本フィルター工業田川工場(福岡県田川市)も閉める。

 国内の営業拠点は160拠点を約7割減らし、47拠点まで縮小する。国内のたばこ事業部門やコーポレート部門の46歳以上の社員を対象に、1000人規模の希望退職を募る。20年末時点の正社員数の1割強に相当する。パートタイム従業員も約1600人に退職勧奨を行う。22年3月までをめどに3000人規模の人員を減らす。これは国内雇用者全体の2割に当たる。100%子会社で冷凍食品を製造するテーブルマーク(東京・中央区。非上場、旧社名は加ト吉)も香川県内の3工場を10月末に閉鎖する。

 JTは民営化した1985年に34工場、約3万人の社員を擁していた。たばこ市場の縮小に合わせて段階的に規模を縮小しており、従業員は7500人に減っていた。今回の構造改革で国内の生産拠点は北関東工場(宇都宮市)など3カ所になる。

 寺畠正道社長は2月9日のオンライン記者会見で、「創立以来、最も重要な転換期にあたる。打ち克つには、経営資源を効率的に配分する必要がある」と述べた。

国内紙巻きたばこは民営化後、5分の1に

 国内たばこ事業は縮小している。2020年12月期の連結決算(国際会計基準)は、売上高にあたる売上収益が前期比3.8%減の2兆926億円、営業利益は6.6%減の4691億円。純利益は本社ビルの売却益413億円を計上したが、10.9%減の3103億円と5期連続の減益となった。最高益だった15年12月期(4856億円)と比較すると36%減った。

 主な収益源だった国内紙巻きたばこの販売本数は687億本となり、1985年の3032億本と比べて、およそ5分の1に減った。国内たばこ事業の売上収益は5632億円と前期比9.0%減った。減少分の300億円程度が新型コロナによる影響だと説明しており、国境を越えた移動が制限されるなか免税店などで煙草の売り上げが減少した。

 一方、海外での紙巻きたばこの販売本数は4357億本に達し、すでに国内販売を上回る。海外たばこ事業の売上収益は1兆3308億円で全社の63.5%を占める。世界的に加熱式たばこの需要が急拡大している流。国内の加熱式たばこ市場では米フィリップ・モリスの「アイコス」が7割を占める。JTは今後、スイスのJTI主導で迅速な経営判断を下す体制を構築する。

 2021年12月期の連結決算は売上収益が前期比0.6%減の2兆800億円、営業利益は22.6%減の3630億円、純利益も22.6%減の2400億円を見込む。今期、1994年の上場以来初めて減配することが市場関係者を驚かせた。21年12月期の年間配当は1株当たり130円と前期比24円減らす。JTは「1株あたり配当金の安定的・継続的な成長」という配当方針を掲げ、19年12月期まで16期連続で増配というかたちで、これを実践してきた。20年12月期は配当を据え置いたが、それでも配当利回りは一時8%に達するなど国内企業屈指の高い配当率を誇り、これがJT株の魅力だった。今回、増配路線と決別し、上場来初の減配に踏み切った。

 JT株は高配当利回り銘柄として個人投資家に人気があった。「想定外の減配」(個人投資家)に驚きの声も出ている。2月10日の東京株式市場、初の減益方針を発表したためJT株は一時、10%を越える217円安の1934円まで下げた。4カ月ぶりの安値だ。配当狙いの個人投資家が減配のネガティブサプライズで売り急いだほか、海外勢の売りも出た。時価総額は1日で3200億円減ったと市場関係者は見ている。

 JTが積極展開しているロシアでは21年、たばこ税が増税される。コロナ禍による健康志向の高まりや雇用・市場環境の悪化がたばこの総需要を減らすとの懸念が根強い。21年12月期は円高の影響を受け、海外のたばこ事業も減収になると想定している。不動産売却益を見込めず、減収減益が続くとみている。コロナ禍で財政出動を積極化した各国政府が財源確保のため、たばこを狙い打ちにすると予想され、株価は2000円の大台を割り込んだままで、安値圏で推移している。

JTとJTI

 1985年、日本専売公社から民営化して誕生したJTは、海外でのM&Aで「成長のための時間を買う」と意義付け、海外シフトを強めた。99年、米RJRナビスコの海外たばこ事業(RJRI)を9400億円で取得したのを皮切りに、07年には2兆2530億円を投じて英ギャラハーを買収、16年、ナチュラル・アメリカン・スピリットの米国以外のたばこ事業を6000億円で手に入れるなど積極的な国際M&Aに取り組んできた。その結果、米フィリップ・モリス・インターナショナル、ブリティッシュ・アメリカン・タバコに次ぐ世界第3位のたばこ企業に成長した。

 RJRナビスコとの買収交渉にあたったのは当時副社長だった本田勝彦氏である。この交渉をまとめ上げたことが評価され、本田氏はJT初の生え抜き社長(4代目社長)の椅子に座った。本田氏は1965年、日本専売公社に入社したが、東大法学部の学生だった時代に安倍晋三元首相の家庭教師をしていた。安倍首相を囲む「四季の会」のメンバー。政府は2013年6月に任期を迎えるNHK経営委員長に本田氏を充てるつもりだったが、この人事の構想が事前に漏れ、委員長に据えることを断念したといわれている。

 現在、海外たばこ事業はJTの収益を支える。JTが海外M&Aに投じた資金は3兆円を上回る。RJRIやギャラハーのM&Aには「高値づかみ」との声もあったが、正解だったといえる。

BusinessJournal編集部

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