香港の投資ファンド、オアシス・マネジメントが国内エレベーター・エスカレーター大手フジテックに対し、内山高一社長と創業家らを告発し解任を求めるキャンペーンを始めたことが話題になっている。オアシスは特設サイトを公開するなど世論形成を進めるが、フジテック側は事実関係を否定。6月のフジテックの株主総会は大荒れになるとの見方が強まっている。
オアシスの独自調査、フジテックが創業家に超高級マンション購入などと指摘
オアシスが5月23日付で財務省に提出した大量保有報告書によると、オアシスはフジテック株の9.73%を保有している大株主だ。キャンペーンを開始したのは5月19日で、「定時株主総会で内山社長に反対票を投じ、フジテックを守りましょう」とする特設サイトを立ち上げた。
このサイトでは創業者の息子である内山社長が2002年に代表取締役社長に就任してから、フジテックが中国やインドなどの成長市場での積極的な事業展開に失敗し、市場シェアを失い続けてきたと指摘した上で、「内山社長は自分とその家族の利益のために行われたと思われる関連当事者取引を積極的に進めてきた」と批判した。同サイトにアップされた「フジテックのガバナンス上の重大な問題点」を指摘する資料によると、オアシスが公開資料や独自調査で明らかにした問題点は主に以下の7点だという。
(1)フジテックが内山家の私的利用のために超高級マンションを取得した疑惑
(2)フジテックは内山社長が保有する法人に莫大な額の現金を貸付
(3)フジテックから内山社長が保有する法人に不明な賃料支払い
(4)フジテックが非公開会社の株式を内山社長が保有する法人に売却
(5)内山社長が保有する法人の行った投資の失敗を補填させるため、その物件をフジテックが買い取った疑惑
(6)内山家が保有する会社に密接な関係を持つ個人経営の税理士をフジテックが起用して、報酬を支払った疑惑
(7)内山社長が自宅の庭の手入れにフジテック社員を利用した疑惑
オアシスの独自調査の中身を少し紹介すると、(1)についてはフジテックが2013年2月に取得した東京港区元麻布の超高級マンション(現在の市場価格は7億円以上)に社員である内山社長の息子と、同社に所属していない内山社長の妻が居住していたと指摘。オアシス側の質問にフジテックは「トップセールス強化を目的に、社用迎賓施設として運用していた」などと回答したが、合理性が乏しく、本来必要なはずの株主への報告もなかったとしている。
(7)については、内山社長の兵庫県西宮市の自宅の掃除に社員を私的に利用したのではないかとの疑惑を、フジテックの制服を着た社員が実際に作業している写真などの資料とともに告発している。
フジテックはオアシスの主張を全否定、弁護士「刑事立件にはなりにくいが経営責任は問われる」
フジテックは5月20日、オアシスのこれらのキャンペーンについて、「全く当たらない又は事実誤認に基づく主張」であり、問題視される取引についても「いずれも所定の法令・手続等に従ってなされた適法かつ適切な取引及び行為であり、企業統治状も問題はない」と全否定するプレスリリースを発表し、全面対決の様相を呈している。
オアシス側が告発する内山社長の職権濫用や取引上の善管注意義務違反などが、事実であったと仮定した場合、フジテック経営陣の行動が違法性を問われる可能性はあるのだろうか。山岸純法律事務所の山岸純弁護士はこう解説する。
「オアシスの指摘が真実であったとしても、刑事立件される程度の背任(特別背任)罪にはなりにくいと思われます。また、経営陣が社内の調査に協力しなかったり、事実を認めなかったりするということがあるかもしれませんが、それだけでは違法とはいえません。
しかし、フジテックのような上場企業の場合、株主、取引先などのステークスホルダーへの責任は重大です。経営陣が否定した事実が真実と認められるような場合、株価に影響するでしょうし、経営責任を問われます。ケースによっては経営陣の会社に対する損害賠償を求める株主代表訴訟なども考えられるでしょう。
上場企業では、たとえ創業家であっても、今、保有している株式分しか会社を保有しておらず、それ以外の『会社を保有している株主』から経営の委任を受けている(法律上正しい言葉ではありません)ことを肝に銘じなければなりません」
日本の株主総会は全会一致のシャンシャンで終わることが善とされる傾向が現在でも強い。そのなかにあって今回のオアシスのような「もの言う株主」の告発はフジテック経営陣とっては脅威に違いない。フジテックの株主総会は6月23日に開かれる。注目が集まりそうだ。
(文=Business Journal編集部、協力=山岸純弁護士/山岸純法律事務所代表)