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東芝、取締役が投資ファンドの利益代弁者たちに牛耳られる

文=Business Journal編集部
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東芝の事業所(「Wikipedia」より/Waka77)

 経営再建に向けた戦略を公募していた東芝は6月2日、10件の1次提案の応募があったと発表した。内訳は非公開化を前提とする提案が8件で、残る2件が上場維持を前提とした資本・業務提携に関する提案だった。産業革新投資機構(JIC)からの応募であることがわかっている。

 次の手続きに進む応募者は、6月28日に予定する定時株主総会後に決められる。7月以降の次の段階では、提案者に詳細なデューデリジェンス(資産査定)ができる機会を提供する。東芝は公募に応じたファンドなどの名前は明らかにしていない。ロイター通信(6月2日付)は複数の関係者の話として10社の社名を次のように伝えている。

<米ベインキャピタルや米コールバーグ・クラビス・ロバーツ(KKR)、米ブラックストーン、米アポロ・グローバル・マネジメント、カナダのブルックフィールド・アセット・マネジメント、独立系のPEファンド・MBKパートナーズ、英CVCキャピタル・パートナーズ。国内勢では日本産業パートナーズ(JIP)とポラリス・キャピタル・グループが提案への参画を検討していることがわかっていたほか、産業革新投資機構の名前も浮上している>

 東芝の時価総額は約2兆5000億円。株式非公開化には3兆円規模の資金が必要になるとされる。単独では巨額の資金捻出が必要になるため、他社との連携が欠かせない。外資系ファンドの動向では、KKRと米ブラックストーンが連合を組む方針を固めたほか、ベイン、ブルックフィールドの3つの陣営が、一方、国内勢では官民ファンドのJICが中心になると見られている。

 東芝は原子力や防衛関連事業など経済安全保障上の重要技術を持っている。外国資本の経営参加を規制する改正外為法で審査対象となっており、経済産業省などは「国内勢の参加が不可欠」と判断している模様だ。

 このため、海外勢は、国が9割超を出資する官製ファンド、JICと連携することも想定される。JICと関係が深い経産省の考え方が注目される。JICの前身の産業革新機構は企業の救済色の強い投資が重なり批判を受け改組され、JICは2018年に再出発した。JICは次世代産業を育てる企業の成長投資、事業再編による競争力強化に向けた投資などを掲げている。

 JICが東芝再建に主体的に関与する場合には、「これまでのようなゾンビ企業の救済組織ではないことを実証しなければならなくなる」(M&Aに詳しいアナリスト)。東芝側は経営改革や成長戦略の実効性が厳しく問われることになろう。

取締役候補は「物言う株主」が約半数を占める

 東芝は経営の混乱が続いている。21年11月、会社を3分割する案を公表した。「意思決定が早まる」などの利点を訴えたが、投資家の評価は低く、今年2月には2分割に修正した。3月の臨時株主総会で株主の「反対多数」で、会社分割案は否決された。4月、株式非公開化を含む再建案の公募を始めた。

 再建案の絞り込みを判断する取締役候補の顔ぶれも焦点となる。5月26日、6月28日に開く株主総会に諮る取締役候補13人の名前が明らかになった。社内は議長を暫定で務めてきた前社長の綱川智氏と前副社長の畠澤守氏が退任し、島田太郎社長と柳瀬悟郎副社長の2人になった。残り11人は社外取締役だ。海外投資ファンドの幹部2人が新たに加わり、「物言う株主」の存在感が増した。

 新任取締役候補として株主の推薦で入ったのは、米資産運用会社ファラロン・キャピタル・マネジメントの今井英次郎氏、米投資ファンドのエリオット・マネジメントのナビール・バンジー氏。再任候補6人のうち、ファラロン出身のレイモンド・ゼイジ氏ら4人は海外投資ファンド側が推したとされる。「全13人中のうち6人が、ファンドとなんらかの関係がある」(前出のアナリスト)といわれている。

 取締役会の議長候補にはM&A助言会社GCAの創業者で、現M&Aアドバイザリー会社フ-リハン・ローキー会長の渡辺章博氏を選んだ。新任取締役の候補には、IHIで取締役財務部長だった望月幹夫氏もいるが、事業を実際にオペレーションした経験者は少ない。

 取締役の候補は社外取締役5人で構成する指名委員会で決めた。指名委員会の委員長は東芝が2019年にアクティビストとの協議を経て受け入れたファラロン出身のレイモンド・ゼイジ氏。ゼイジ氏が今回、アクティビスト幹部の受け入れを主導した。ファラロンは東芝株式を5.30%保有している。この結果、ゼイジ氏と今井氏がファラロンの出身となる。アナリストからは「特定の株主の意見が強く反映される懸念がある」と危惧する声が上がっている。

 東芝内部は株式の非公開化に慎重な意見が多いが、ファンド側は積極的だとされる。東芝は当初、5月13日に取締役候補を発表する予定だったが、「独立性や利益相反の有無などについて確認すべき点がある」として、発表を急遽、中止していた。人事案(新任取締役)への株主総会での株主の判断が東芝再建の行く末を占う試金石となる。

社外取締役が「物言う株主」の増員案に反対

 東芝のジェリー・ブラック社外取締役(指名委員会委員)は6月3日、報道各社のオンライン取材に応じ、指名委員の一人である綿引万里子・社外取締役(元名古屋高裁長官で弁護士)がファラロンと米エリオット・マネジメントから幹部を1人ずつ新たに社外取締役を受け入れることに反対したことを明らかにした。

 社外取締役5人で構成されている指名委員会では、さまざまな意見が出ても最後は全会一致となることが多いが、今回は多数決で取締役候補を決めたことになる。株主総会の招集通知の欄外に「候補者選定に異論があった」ことが注記された。定時株主総会の取締役の選任に、反対者がいたという異例ともいえる事実が影響するかもしれない。

 綿引社外取締役は6月6日、報道陣の取材に応じ「取締役会構成の多様性、公平性、バランスの良さを欠いていると判断した」と説明した。「定時株主総会で株主の皆様に判断してもらうため、私が反対した理由を伝えたかった」とし、「経営は株主と目線を合わせていくことが一番大事だが、東芝の場合、株主の目線があまりにもいろいろな方向を向いていて、一つの方向になっていない。短期的な利益を目的とする株主や長期保有の機関投資家、個人の株主など、それぞれの利害がまったく違う」と問題点を指摘した。

 加えて、綿引氏は現状の取締役会について「事業経験のある人が欠けたことが、この1年の迷走の一つの原因と考え、私自身も深く反省している」と述べた。

(文=Business Journal編集部)

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