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日本の2.5次元ミュージカル、世界進出で市場拡大…漫画・アニメに続く日本の重要ソフト産業に

2025.07.22 2025.07.21 19:12 企業
提供:日本2.5次元ミュージカル協会
提供:日本2.5次元ミュージカル協会

●この記事のポイント
・2.5次元ミュージカルが日本発のコンテンツとして大きな産業に成長
・2023年は上演作品数236作品、動員数289万人と2000年を起点とした集計データのなかで過去最高
・ニューヨーク、ロンドン、ソウルを始め、北米、ヨーロッパ、中国など海外での上演も活発化

 2.5次元ミュージカルが日本発のコンテンツとして大きな産業に成長しつつある。ぴあ総研の調べによれば、2023年の2.5次元ミュージカル市場は前年比7.9%増の283億円であり、一般社団法人 日本2.5次元ミュージカル協会によれば、23年の上演作品数は236作品、動員数は289万人に上る。観劇目的のインバウンドも増えており、アメリカやイギリス、韓国など海外での上演も増えつつある。昨年にはイギリス・ロンドンで舞台『千と千尋の神隠し』が約4カ月にわたるロングラン上演され、メディアでも大きく取り上げられていた。日本が世界に誇るコンテンツである漫画・アニメ・ゲームを起点とする2.5次元ミュージカルの現状、そして、さらなる市場拡大の可能性について追ってみたい。

●目次

「2.5次元ミュージカル」の定義

 まず、「2.5次元ミュージカル」の定義について、日本・海外における2.5次元ミュージカルの認知拡大と普及に向けた活動に取り組んでいる日本2.5次元ミュージカル協会は次のように説明する。

「当協会は2014年3月、世界中が注目する日本の新しいカルチャーとしての2.5次元ミュージカルをより多くのお客様にご覧いただくことを目的として設立されました。協会が定める2.5次元ミュージカルの定義は、日本の2次元の漫画・アニメ・ゲームを原作とする3次元の舞台コンテンツの総称で、音楽や歌のない演目、ストレートプレイも含めてそう呼んでいます。『2.5次元』という言葉自体は、早くからこのジャンルに注目し、育ててくださったファンの間で使われてきた呼称です。協会が設立された2014年は、今でもこのジャンルの代表作の一つであるミュージカル『テニスの王子様』が初演から10年以上を経て、継続的な人気舞台シリーズとして広く認知され、さらに多くの人気作品が次々と舞台化されるようになっていた時期でした。こうした背景のもと、日本が誇る演劇ジャンルの一つとして、2.5次元ミュージカルを一過性のブームで終わらせることなく、国内外に広く認知されることを目指して、当協会は設立されました。当協会の会員は、演劇制作会社のみではなく、原作となる漫画の出版社やゲーム会社、各種メディアをはじめ、チケット関連会社、グッズ関連会社、最近では配信に関わるネットワーク関連企業など多種他業種の団体で構成されています。

 当協会の主な活動としては、会員が主催・制作する演目を中心に、2.5次元ミュージカルの認知拡大と普及を目的としたプロモーション支援や、会員に向けた各種情報の提供などを行っています。年間作品数、動員数などの市場規模の統計も実施し、会員や各種メディアに提供しています。基本的にはBtoBの事業ですが、一般ファン向けには『2.5フレンズ』という無料メルマガ組織の運営を通じて、チケット情報をはじめとした作品に関する各種情報を発信するBtoCの取り組みも行っています。

 海外に向けては、インバウンド対応として、協会設立当初より海外向けチケットの販売システムを確立し、販売会社等と連携したサービス提供を行っています。また、海外における2.5次元ミュージカルの認知を広め海外公演のサポートやプロモーションなども積極的に行っています」

配信、グッズ販売など周辺市場も拡大

 現在の国内における2.5次元のミュージカルの年間の上演本数や観客動員数、配信やグッズ販売などの市場はどのような状況なのか。

「当協会では毎年、ぴあ総研と連携し、2.5次元ミュージカルの上演作品数および観客動員数を統計・発表しています。現時点では2024年のデータは集計中ですが、2023年の数字は上演作品数236作品、動員数289万人と、どちらも2000年を起点とした集計データのなかでも過去最高の数字を記録しました。先にご紹介した無料メルマガ組織『2.5フレンズ』の登録者数も25万人を超え、関心の高まりを裏付ける数字となっています。

 配信については、協会設立時はリアルな公演のみの演目が多く、人気公演が千秋楽に映画館でのライブビューイングを実施するといった事例はありましたが、コロナ禍をきっかけにさまざまな形態の配信を活用する公演も増え、国内外問わずその市場は拡大しているといえると思います。また、2.5次元ミュージカルにおいて、公演のチケット収入に加えてグッズ販売による収益は当初より大きなものでした。現在も演目に応じたグッズ開発や販売経路の拡大が継続的に行われています。これら周辺市場の拡大も、2.5次元ミュージカルの持続的な発展を支える要素となっています」

コロナ禍での漫画の購読者数の増加やアニメ配信の広がりも影響

 今、2.5次元のミュージカルが盛り上がり、注目されている理由は何であると考えられるのか。

「最大の要因は、やはり原作となるコンテンツの圧倒的な人気にあると考えています。日本が世界に誇る、漫画、アニメ、ゲームが原作である2.5次元ミュージカルは、コロナ禍において、原作である漫画の購読者数の増加、アニメ配信の拡大、ゲームユーザーの増加を背景に、それらを舞台化した2.5次元ミュージカルにも、より多くより幅広い層からの関心が集まるようになったのだと思います。

 また、演劇である2.5次元ミュージカルは、劇場で自分たちが好きな原作の世界観をリアルに体感・共有できる点も大きな魅力かと思います。好きなキャラクターが目の前で言葉を発し動く、原作の世界観を再現する舞台は、演劇初心者であっても入りやすく、感動を得られるコンテンツとなっています。海外のお客様が字幕なしでも日本語のセリフに一喜一憂している姿を見ると、原作の持つ力を実感します。そうした原作への共感や没入感こそが、今の2.5次元ミュージカルの盛り上がりを支える要素になっていると考えています」

 海外におけるファンの広がりや人気、市場規模は、どのような状況なのか。

「当協会の設立時より、日本の漫画・アニメ・ゲームに対する海外からのリスペクトは高く、これらを原作とした舞台化の総称である2.5次元ミュージカルの海外での成功の可能性は非常に高いと感じていました。コロナ禍以前には、日本文化の一つとしてフランスのパリやアメリカのニューヨークなどで実施された、日本文化イベントに招聘されることも多く、実際に海外の日本の漫画・アニメ・ゲームファンの2.5次元ミュージカルへの期待、熱量を感じることができ、その可能性はますます高くなっていました。

 そうした反応を受け、さらなる海外公演への勢いをつけたところではありましたが、パンデミックとなり海外での公演については一時的に困難な状況となりました。ただ、先にお話ししたように、コロナ禍においては漫画の購読者数の増加やアニメ配信の広がり、ゲームユーザーの拡大など、原作コンテンツの浸透が進みましたが、こうした動きが海外にも広がったことで、日本の漫画・アニメ・ゲームへの関心はさらに高まり、結果として2.5次元ミュージカルの海外公演の現実味も高まりました。現時点ではまだ『市場規模』といえるような明確な数字を出すことはできていませんが、昨年から今年にかけて確実に認知度は広がり、人気も着実に伸びています。今後のさらなる展開が期待される分野です」

ロングラン公演が可能となる劇場環境や仕組みの整備が重要

 日本発のミュージカルの海外公演は増えているのか。

「漫画・アニメ・ゲームを原作とした日本発の舞台作品の海外公演は増加しています。昨年はイギリス・ロンドンで舞台『千と千尋の神隠し』が4月から8月まで約4カ月間上演され、アメリカ・ニューヨークでは『進撃の巨人 -the Musical-』が上演されました。これらは日本人キャストによる公演でしたが、現地スタッフ・キャストによる上演として、ミュージカル『四月は君の嘘』がイギリス・ロンドンおよび韓国・ソウルで公演を行っています。今年に入ってからは、『美少女戦士セーラームーン』を原作とした『Pretty Guardian Sailor Moon” The Super Live』がイギリス・ロンドンで2月から3月まで約2カ月間上演され、さらに3月から4月にかけてシアトル、シカゴ、ニューヨークなど21都市を巡る北米ツアーを実施しました。

 そして、この夏には舞台『千と千尋の神隠し』の中国・上海公演と、漫画『ハイキュー!!』を原作とした舞台、ハイパープロジェクション演劇『ハイキュー!!』の中国ツアーも予定されています。欧米での公演が増えるとともに、これまで実施されてきたアジアでの公演も継続しており、海外公演は確実に増加しています」

 では、今後さらに 2.5次元のミュージカルが活性化していくためには、何が必要であると考えられるか。

「今後、2.5次元ミュージカルがさらに活性化していくためには、より多くのお客様に作品を届けられる環境づくりが必要だと考えています。現在、国内外のファンの方々にご支持いただき、観劇の機会も少しずつ広がってきていますが、作品によってさまざまな事情がある中で、劇場の確保をはじめとした環境面の要因も影響し、多くの作品は比較的短期間での上演となることが少なくありません。人気作品ではチケットが取りづらく、『観たいのに観られない』という状況が生じることもあります。今後は、2.5次元ミュージカルをより多くの方に届けられるよう、ロングラン公演が可能となる劇場環境や、それを支える仕組みの整備が重要になってくると考えています。観劇機会の拡大は、作品の魅力を継続的に発信していくためにも、欠かせない要素です」

 課題や障害は何であると考えられるか。

「前の質問とも重なりますが、やはり劇場の確保が大きな障壁となっています。たとえば、常に2.5次元ミュージカルを上演しているような専用劇場があれば、インバウンドのお客様にも公演情報をわかりやすくご案内できますし、『その場所に行けば必ず2.5次元作品が観られる』といったアメリカ・ニューヨークのブロードウェイのような情報発信も可能になります。こうした拠点の存在は、国内外を問わず、より多くの方に継続的に楽しんでいただくための重要な要素だと考えています。

 しかし実際には、2.5次元ミュージカルだけでなく、他の演劇作品や音楽ライブなども含めた全体の劇場需要が高く、限られた劇場数の中で公演スケジュールを確保するのは容易ではありません。さらに、専用劇場の創設となると、土地の確保や資金面、運営体制の整備など、さまざまなハードルがあります」

BusinessJournal編集部

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