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「アニメ会社化」するソニーGの変貌…アニメ起点にエンタメ事業の世界展開を加速

2025.06.17 2025.06.16 16:21 企業
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ソニー・ミュージックエンタテインメントの公式サイトより

●この記事のポイント
・電機メーカーとして名を馳せたソニーGが近年、急速に「アニメ会社化」
・日本のアニメがそのまま世界中で見られるという現象
・音楽・映画事業とアニメ事業のシナジー効果が創出されている

 かつてテレビやオーディオ機器、PCなどを手掛ける電機メーカーとして名を馳せたソニーグループ(G)が近年、急速に「アニメ会社化」している。アニメ動画配信会社の米クランチロールやアニメ制作子会社のアニプレックスを傘下に持ち、ソニー・インタラクティブエンタテインメント(SIE)のゲーム機「PlayStation 5(PS5)」の人気タイトル『Ghost of Tsushima(ゴースト・オブ・ツシマ)』のアニメ化を両社が進める(2027年公開予定)など、アニメ事業の他事業への横展開も進めており、いまやアニメ事業はソニーGにとって注力事業になったという見方も強い。同社のアニメ事業はどのような現状なのか、そして今後、どのように展開されていくのか。専門家の見解を交えて追ってみたい。

●目次

アニメ事業は音楽事業と映画事業にまたがっている

 ソニーGの業績は好調だ。26年3月期連結決算は、営業利益が前期比0.3%増の1兆2800億円になる見通しで(10月に分離する金融事業を除いたベース)、3期連続で過去最高益を更新する。好業績を支えるのがゲーム・音楽・映画のエンターテインメント3事業であり、ソニーG全体の売上高の約7割を占める。アニプレックスが手掛けたアニメ『鬼滅の刃』は、ソニー・ピクチャーズエンタテインメントが映画版の世界展開に参画し、またPS5向けゲームもヒットするなど他のエンタメ事業とのシナジー効果も生まれている。だが、ソニーの事業セグメントには「アニメ事業」は見当たらず、単体での売上規模は明らかにされていない。

 東洋証券シニアアナリストの安田秀樹氏はいう。

「ソニーGのアニメ事業は音楽事業と映画事業の2つにまたがって入っていまして、まず、アニプレックスは音楽事業に入っています。その理由は、アニプレックスがソニー・ミュージックエンタテインメント(SME)の子会社であるためです。アニプレックスは『Fate/Grand Order』などのゲーム事業で大きな利益をあげている企業で、音楽セグメントのなかにゲームのセグメントがあり、この売上規模が900億円ほどとなっています。そしてアニプレックスの売上規模は1500億円程度ほどだと推測しています。一方、アニメ配信サービスのクランチロールは映画セグメントに入っており、クランチロールの売上は300~500億円ほどではないでしょうか? よって、アニメ事業全体では2000億円には満たないと見ていますが、正確な数字は分かりません。ソニーG全体の売上高は約12兆円なので、2000億程度の事業規模だとセグメントなりの業績を開示する必要はないということになるのでしょう」(安田氏)

音楽事業にも映画事業にも横展開

 ソニーGにとってアニメ事業は今、どのような位置づけなのか。

「もっとも注力すべき事業になっています。世界的にアニメが人種や文化、宗教の差異なく日本のアニメが視聴されるという現象が起きています。たとえば1990年代につくられた『美少女戦士セーラームーン』は南米などでも広く見られていると聞いています。これは、1990年代に日本のアニメ会社が非常に安い価格で海外に積極的に作品を販売し、南米の放送局が毎日のように放送して、かつ何度も再放送しているために幅広い年齢層に浸透している模様です。イスラム圏でも日本のアニメが見られており、世界中で受け入れられるようになっています。加えて世界のアニメ市場は成長しているので、ソニーGがそこに注力するのは非常に理にかなっています。

 他の事業との相乗効果や連携も進めやすいです。アニソンというジャンルがあるように音楽とも相性が良く、アニメでは主題歌やエンディング曲も流れますので、SMEが子会社のアニプレックスを持つのは自然な流れです。また、映画でも近年では劇場版アニメのヒット作が出るようになっており、実写版の邦画をつくるよりはアニメの映画版をつくるほうが大きなリターンが見込めるというかたちになってきています。これから世界でアニメ映画を見る人が増えると予想されているので、映画事業とのシナジー効果も非常に大きいでしょう」(安田氏)

ゲーム事業との連携に課題

 アニメ事業の成長に向けては課題もあるという。

「SIEはアニメのゲーム化をあまり好ましいと思っていないように見えます。過去にゲーム画面に表現規制を行った実績があったようなので日本のアニメをゲーム化したタイトルはPS5で展開するのが難しい状態が続いてます。SIEの本社が米国にあることも影響してか、女性キャラクターでることに大して、快く思っていないのではないでしようか?

 この結果、本来であればアニメ、映画、音楽、ゲームの各事業は非常に高いシナジー効果が期待されますが、ゲーム事業ではうまくそれが発揮されておらず、その点は課題といえるでしょう。もったいない状態ではありますが、あと20年ほどして日本のアニメに抵抗がない世代の人たちが幹部に就くようになるとこの問題は、改善されるのではないでしょうか。

 もっとも、音楽・映画事業とアニメのシナジー効果は出てきていますし、悪い状況ではありません。クランチロールのアニメ配信サービスはサーバーにデジタルデータを置いておけば、ユーザーが再生するたびにどんどんお金が入ってくる状況が生まれるので、将来的には有望な事業でしょう。日本を舞台とするアニメが世界中で見られるという現象が広がっているんで、もっと英語圏でも見られるようになれば、アニメ事業は順調に成長していくと考えられます」(安田氏)

(文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=安田秀樹/東洋証券シニアアナリスト)

安田秀樹/東洋証券シニアアナリスト

安田秀樹/東洋証券シニアアナリスト

96年4月にテクニカルアナリストのアシスタントとしてエース証券に入社。その後、2000年ごろより電子部品、運輸、ゲーム業界担当アナリストとして、物流や民生機器を含む幅広い分野を担当。22年5月に東洋証券に移籍し、同社アナリストとなる。事業の方向性を読むリサーチを展開している。