ソニーG、なぜ過去最高益?エンタメ3事業の巧妙な戦略…PS6の成功を優先し資本蓄積

●この記事のポイント
・ソニーG、26年3月期連結決算は営業利益が過去最高を更新する見通し
・アニメを含むエンタメ3事業が売上高の約7割を占める
・PS5の販売台数押し上げより、PS6の発売に向けて資本を蓄積することを優先か
ソニーグループ(G)の業績拡大が止まらない。同社は14日、2026年3月期連結決算見通しを発表。営業利益が前期比0.3%増の1兆2800億円になる見通しで(10月に分離する金融事業を除いたベース)、3期連続で過去最高益を更新する。メーカーのイメージが強いソニーGだが、ゲーム・音楽・映画の3事業が売上高の約7割を占め、エンターテインメント事業が主力となっている。決算予想を発表した14日の終値ベースで株式時価総額は23兆2954億円に上り、数年内に米ディズニーのそれ(13日:2002億ドル)を逆転する可能性も注目されているが、その可能性はあるのか。また、ソニーGのエンタメ3事業が好調を維持している理由は何か。専門家の見解を交えて追ってみたい。
●目次
エンタメ三事業が好調を維持している理由
まず、現在のソニーG全体の業績は、どのように分析できるのか。東洋証券シニアアナリストの安田秀樹氏はいう。
「10年ほど前の業績が悪かった時期は、ハードウェア事業とソフトウェア事業のシナジー効果を出すことを目指して両方ともバランスよく投資していくという方向でした。ですが2012年に平井一夫氏が社長兼CEOに就任して以降、エンターテイメント事業に徐々に傾倒していき、今回発表された経営方針でもエンタメ事業に注力するという姿勢が改めて示されました。ハードの最終製品のマーケット規模はそれほど大きくはなく、たとえばソニーGが手掛けてきたテレビ事業は競争が激しくなっており、今ソニーGの強みが発揮できる分野はゲーム・音楽・映画です。
アニメ事業に関しては、アニメ制作子会社アニプレックスは音楽事業、動画配信子会社の米クランチロールは映画事業に入っていますが、アニプレックスは実は『Fate/Grand Order』というゲームで大きな利益をあげている会社です。このゲームタイトルは、ゲームからアニメに加え、グッズなどなどさまざまな版権ビジネスに進出しています。そしてクランチロールはアニメの配信をしている会社で、自社タイトルだけではなくKADOKAWAなどさまざまな会社のアニメを配信するビジネスを手掛けています。つまり、エンタメ3事業がコアのビジネスで、それに加えてアニメで稼いでいるのが今のソニーGです」
ソニーGのエンタメ三事業が好調を維持している理由は何か。どのような取り組みが功を奏しているのか。
「音楽事業は、ものすごく効率的にビジネスを展開しています。世界にある楽曲の版権の約6割持ってるといわれており、音楽配信サービスで再生されるたびにソニーGにお金が入ってくるという非常に効率的なビジネスを確立しています。マーケットは成長しており、しかもドル建てなので円安になると円換算での売上と利益が増えてきます。利益額も1000億円を超えています。
映画事業は2023年度に起きた米ハリウッドでのストライキの影響で、あまり伸びてはいませんが、クランチロールのアニメ関連ビジネスなどが好調で、環境が悪いなかでも比較的健闘してそれなりの利益を出しています。
そしてゲーム事業は、実はPlayStation 5(PS5)はPS4を下回り、今ひとつの印象です。2020年以降の半導体不足も影響して販売価格を製造原価が上回る状態が長く続き、売れば売るほど赤字だったと見ています。最近はだいぶ解消されたものの、足元は、販売台数が減ってます。PS3までですと、損益は厳しかったでしようが、PlayStation Networkという毎月課金型サービスで安定的に収益が上がるようになっており、コストダウンも進んで事業としては好調です」
PS6の発売に向けて資本の蓄積を進めている
今年度(25年度)の業績が大きく伸びる計画にはなっていない背景には、ソニーGの先を見据えた戦略があるという。
「ソニーGはPS5の販売台数について、昨年度の1850万台から今年度は1500万台と、減る見通しを立てています。この影響で売上は減収ですが、利益は逆に増える見込みとなっています。今回の説明会で陶琳(タオ・リン)CFOは『今年は1500万台にこだわっていない』という主旨の発言をしていましたが、PS5は発売から6年目で下り坂に入るものの、まだそれなりに台数が出るタイミングです。ちなみにPS4は6年目のときに1780万台出ています。PS5も値下げして販売台数のアップを狙うという戦略も取れたと思います。しかし、利益とキャッシュフローを重視し、今年はコストをかけずに利益を出すという方針に取っていることが、全体でも最高益を更新する最大の要因と考えられます。米国の関税政策の影響もありリスクも大きいので、今年は守りに入っているのでしょう。
ここからは私の推測ですが、次世代ゲーム機のPlayStation 6(PS6)の発売に向けて資本の蓄積を進められていると考えられます。6月に発売される任天堂の『Nintendo Switch 2』が抽選でなかなか当たらないと話題になっていますが、ソニーGはPS5についてSwitch 2を上回る台数を用意しなければならず、多額の在庫投資が必要になるので、マーケティングコストをかけてPS5の売上をアップさせるよりは、PS6を大きく成功させることに主眼を置いているのだと考えられます。
Switch 2の初回販売台数は600万~800万台と報道されていますが、仮に同じくらいの台数でPS6の製造コストが10万円程度になると仮定すると、6000~8000億円の資金が必要となり、さらに台数を上積みすれば1兆円近くかかる可能性もあります。2027年のクリスマスシーズン発売を想定するならば、今から資金面の準備をしなければ間に合わないと見ています。そうした背景もあることから、今年は守りに入りながらもキャッシュフローを創出するというフェーズになっていると思われます」
では、ソニーGの時価総額がディズニーを超える可能性はあるのか。
「十分にあります。ここ数年、ディズニーはあまりヒット作を出せておらず、どちらかというとディズニーの時価総額が減ってソニーGに近づいてきたというのが実態に近いです。コンシューマーゲームのマーケットは世界で大きくなってきており、これまでサブカルといわれたゲームやアニメがメインカルチャーとなった今、任天堂やソニーがディズニーに時価総額ベースで追いついてくるというのは、それほど不思議なことではないでしょう」
(文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=安田秀樹/東洋証券シニアアナリスト)