1月18日付日本経済新聞によれば、ソニーグループ(G)は冬季賞与(冬のボーナス)を廃止し、支給分を月給と夏季賞与に振り分けるという。これまで日本企業では月給は一定程度に抑える一方、企業の業績と個人の業績に連動して賞与を上下させ社員のモチベーションアップにつなげる傾向があったが、なぜソニーGはそれに逆行するかのような施策を取るのか。転職支援サービス会社関係者は「大きな目的の一つは半導体事業の技術者を、高額な報酬を出している他社に取られないようにするためではないか」との見解を示す。
ソニーGはグループとしてエレクトロニクス(ソニー)、半導体(ソニーセミコンダクタソリューションズ)、医療(ソニー・オリンパスメディカルソリューションズ)、金融(ソニーフィナンシャルグループ)、ゲーム(ソニー・インタラクティブエンタテインメント)、映画(ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント)、音楽(ソニー・ミュージックエンタテインメント)、アニメ(アニプレックス)などハードからソフトまで幅広い事業を展開。先月にはKADOKAWAと資本業務提携すると発表し、KADOKAWAの約10%の株式を保有する筆頭株主となったことが注目を浴びた。
ソニーGの業績は好調だ。2024年4~9月期連結決算は売上高が前年同期比2.2%増の5兆9172億円で同期としては過去最高を更新。営業利益は同42.3%増の7341億円となった。
ソニーGの給与水準は高い。24年3月期の有価証券報告書によれば、同社社員の平均年間給与は1113万円。同じく大手電機メーカーに分類されることが多い日立製作所の936万円、三菱電機の830万円、富士通の965万円よりも高い水準となっている。
「以前から電機業界のなかでもソニーの給与水準は頭一つ分、高いといわれてきた。利益率の高いソフト・サービス関連事業の比率が高かったり、海外展開が進んでいることなどが要因とされる。大雑把な計算として、夏冬あわせた年間ボーナス額が月給の6カ月分と仮定すると、社員の平均月給は約62万円、夏冬ボーナスの金額が同額だと仮定すると各185万円。もちろんヒラの担当者と部課長では金額に大きな差があるが、イメージ的には実態はそんな感じだろう」(大手電機メーカー管理職)
半導体事業における技術者の採用・引き留め
そのソニーGは冬季賞与を廃止し、月給と夏季賞与に振り分けるという。一見すると日本企業が進めてきた実績重視型の賃金制度と相反するようにもみえるが、転職支援サービス会社関係者はいう。
「日経新聞の報道によれば、今回ソニーGは大卒・院卒の新入社員の初任給引き上げと高度な技能を持つ人材の月給の引き上げもするということだが、冬季賞与廃止も含めて一連の施策は半導体事業における技術者の採用・引き留めが狙いだと考えられる。国内の東京エレクトロンやディスコ、さらには海外の台湾TSMC(編注:ソニーセミコンダクタソリューションズはTSMCと合弁会社・JASMを運営)や韓国サムスン電子は非常に高い報酬を出しており、それらとの人材獲得競争に競り勝っていく必要があるため、ベースとなる月給を高めておきたいという考えがあるのでは。また、半導体ビジネスは市況の変動が激しく時期によって浮き沈みの幅が大きいため、市況悪化で賞与が大幅に減ると年収が落ちるので、優秀な技術者が他社に流出してしまう懸念もあるため、月収のほうを高めに維持しておくという面もあるだろう。本来は年間賃金は企業や個人の業績に連動して変動するというのがセオリーだが、半導体技術者は世界的に人材の争奪戦が続いているので、採用やつなぎ止めのためには、そうもいってられない」
ソニーGは各社員の現在の役割を格付けするジョブグレード制度を採用しており、ベース給はジョブグレードに応じた一定のレンジから決定され、毎年の実績と行動を合わせた総合評価によって決められる。また、業績給である賞与は、毎年の会社業績と個人の成果(実績評価)に応じて決まる。
(文=Business Journal編集部)